第6話 並行世界【4】


(というか、こいつらそもそも何者? いや、それ言っちまうとこっちのアベルトもなんなんだかわかんねーんだけど……)


 まずそこ聞くべきだったかも。

 と、今更後悔。

 父とシャオレイがいたのも、気にはなるが……。


「じゃあ基本スペックから……」

「それ説明長くなるやつじゃね?」

「GFエンジンの事から説明しよー、よー」

「じーえふ、エンジン?」


 車のエンジンとは、聞くからに別物そうだ。

 GF……ギア・フィーネの意味だとすれば、あのロボットのエンジン、だろうか?


「そう、GFシリーズに搭載されているエンジンの事! というか、GFシリーズが『ギア・フィーネ』って呼ばれている所以でもある部分!」

「……うーん、メカの方は俺からっきしだからな……よく分からないけど……車でいうところと同じ感じ?」

「そうだね。じゃあ車に擬えて説明してあげようか。車の場合ガソリンがエンジン部分で消費され熱になり、そこで初めて動くでしょう? 『ギア・フィーネ』のエンジンはそれよりもっとすごくてね、なんていうか、ガソリンみたいな燃料は一切必要としないのにエンジンがひたすらにエネルギーを生み出して動くんだ。これはありえないだろう? 人間だって食べなきゃ生きていけない。GFエンジンは逆なんだ。燃料の様なものは一切なしに、エネルギーを生産し続けるエンジン!」

「……エネルギーを生産し続ける、エンジン……って、え……? な、なにそれ」


 首を傾げる。

 言っている事はわかるが、言われている意味がイマイチ分からない。

 エンジンがエネルギー……つまり熱量を生産しているという事か?

 エネルギーの原材料になる、例えばガソリンの様なものを供給されなくても?

 そんな事がどうやって出来るんだろう?

 太陽光発電的な?

 そんな感じにはどう考えても見えない。


「な? わけ分かんねーだろう?」

「……あ……そこも分かってない部分ってやつなの? もしかして……」

「というよりもエンジンがなんかこう、ただの真っ黒な球体で……中身が分からねーんだ。色々調べたが素材も不明。金属である事は間違いないんだが、削りとろうにも硬すぎて傷一つつかねーし……」

「赤外線もレントゲンもダメだったし……粗方試してはみたけどさっぱりさっぱりだったんだ〜」


 所々物騒だった様な……?


「……ただ……」

「? ただ?」

「機体を起動させると凄まじい高温になる。そして機体を起動させていなくても、あれは一定の周波の電波の様なものを出していた。俺たちはGF電波と呼んでいる」

「……電波?」


 それは携帯電話で電話するときに出るあれか?

 電波……ラミレスには専門外だ、よく分からない。


「……ここからは俺たちの憶測。予測だな……」


 ごくり。

 前置きされた上で、ザードがモニター上の五機を振り返る。


「このGF電波とパイロットの脳波は密接に関係しているんじゃあねぇか。このGF電波と脳波が近い者がパイロットとして選定されるんじゃねぇか……と、俺たちは考えている」

「実際ザードたちの脳波はGF電波の周波数とどんどん重なってきてるんだ。特に進行してるのはザードだね。自然にギアを上げられるのはこの為だと思う」

「……。……?」


 ギア?

 周波数が、重なる?

 進行……。


「……ちょっと待ってもらっていい? え? うーーん? ……どういう事?」

「つまり俺たち登録者の脳波と、GFエンジンから出ている電波の様なものが次第に同じ周波数に同調しているって事だ馬鹿」

「馬鹿は余計、じゃ、なくて…………登録者って……?」

「んあ? あ、そうか、そういえば言ってなくない? 二人とも!」

「あ! そういえば!」

「あー……」


 嫌な予感。

 恐る恐る聞いたが、本当に、まさかだろう?

 思い出した様にギベインが二人を見上げる。

 その二人、ザードとアベルトはしくじった、と言う顔をした後改めて……。


「す、すみません……言い忘れていました……。俺は四号機……『ロード・イノセンス』の登録者パイロットなんです」

「俺は三号機『アヴァリス』の登録者パイロット。ついでに、今お前が居るこの場所! 『第三ドッグ』を所有するフリー技術者集団『ジークフリード』の頭もやっている」

「ボクはギベイン・ヌイ! 『ジークフリード』の技術者の一人だよ。得意な事はたくさんあるけど、苦手な事は人の顔と名前を覚える事! 宜しくね」


 特技なんかを自己紹介に混ぜてくるのはよくあるが、苦手なことを混ぜてくる自己紹介は初めて体験した。

 あと、このタイミングで?

 ……いや、もうそれはいいや。


「……え……あのさっきのヤバいロボの同型機の…………って、事?」

「はい。……でも、えっと……『凄惨の一時間』を起こした『インクリミネイト』は、あれは暴走していたんです! あの時の登録者は──」


 ……そこまで言って、アベルトはゆっくりと口を閉じる。

 グッとなにかを飲み込むと、横でザードが「別にいい」と一言。

 なにがいいのか。


「……。あの時……十年前、メイゼアを破壊し尽くした時の、登録者は……、……九歳の女の子だったんです……」



 九歳の──なんだって?



「おんな、のこ……」

「……十年前、『凄惨の一時間』から半年程前にあの機体『インクリミネイト』はその日、九歳の誕生日を迎えたガキの前に現れた。メイゼアはアスメジスア基国の軍事主要都市の一つ。ガキの父親は軍に連絡して、機体は回収されたが機体は何度もガキの元へ戻った。軍はガキを機体の研究に……使ったのさ」

「……俺たちも、その、話に聞いただけで……。……でも……最終的に、その子は…………『登録者が死亡した場合、機体は新しい登録者をどのように選定するか』、という実験の為に……毒薬を飲まされた、らしいです」

「……!」


 うえ、と声に出そうになった。

 九歳の女の子を、機体の研究のために……?

 分からないことが未だに多いとはいえ、それは、確かに当時ならもっと分からなかったのだろうが……。

 そんな事が、許されるのか?


「『凄惨の一時間』は実験の結果ってやつだ。アスメジスアはこのことを隠している。永遠に闇に葬るつもりだろうな。……その時のガキは……一命は取り留めた。だが、『凄惨の一時間』……自分の故郷を、生まれ育った街を……親兄弟、友人知人ごと燃やした記憶に苛まれ続けて結局は……死んだよ」

「……優しい人でした……すごく……」

「…………」


 毒の後遺症もあり、あまり普通の環境では生活出来なかったらしい。

 それはそうだろう、あんな恐ろしい事がどうして当時九歳の少女に出来る?

 死に向かう苦しみの中、彼女の見た世界は地獄。

 自分の意思でなくとも、自分の死という恐怖を更に超える恐怖。

 耐えられるわけがない。


「アスメジスアにはもう一機、五号機が保有されていた時期がある。二号機の登録者はそれ以前のアレだけどな」

「………………」

「そんな感じで分からない事は各国でも独自に調べていたんだ。人道的、非人道的関わらず。もちろん『ジークフリード』も独自に調査を進めているよ。まあ、三号機はザードの所有だから、主に調べてるのはザードだけど」

「……そ、そうなんだ……」

「機体と登録者はどうやったって切り離せねぇからな。……戦いたくない奴が登録者に選ばれても、死ぬ以外の解除の方法が分かれば……もう……」


 初めて言葉が濁った。

 ずっと饒舌だったのに。

 解除の方法が、まだ分からないのか。

 機体に選ばれた人間は登録者パイロットとして──。


「……戦争してたから、ずっと……」

「…………うん」

「……どの国もGFを欲しがって、奪い合っていたから…………多分、俺も、あのままだったら……。……戦争なんてやりたくないのに…………GFに選ばれたら、もう……」

「俺は別に登録者だってバレてねーからいいけどな、他の三人も軍属だし。……でもお前は一般市民出身だしな」

「…………」


 あれ、デレた?

 ザード・コアブロシアとかいったか。

 少し誤解していたかもしれない。

 さっきの濁った言葉の先。

 きっと、その少女のための言葉のはずだ。


(……でも、酷いな……。戦争中だから、仕方ないって、そんなの言い訳にもならない)


 あの『凄惨の一時間』の映像や記事だけでも十分、GFシリーズの危険さは分かった。

 あれだけの力、戦争中ならどこでも欲しがる。

 そこに登録者の「戦いたくない、殺したくない」なんて声はかき消されるのだろう。

 それが登録者の運命だとでもいうのか。


「……登録者パイロットの事は、まあ、もう少し詳しく知りてぇなら後で分かってる事は説明する。……で、機体の性能について、エンジン以外にも特筆すべき点がある。その名の通り『ギア』があるんだ」

「い、いきなり戻ったな……。……って、ギア? ギアって、車や自転車についてるアレ?」

「アレだ。……勿論スピードが上がる的なもんじゃねぇ。多分、ギアという名のリミッターだ」

「リ………………。…………。……なるほど?」


 よく分からない。


「現段階でギア・フォーまでは確認している。だが恐らくまだもう一つ上のギアがある。……俺は『歌』なしでもギア・サードまでは展開出来たが、他の奴ら……特に白髪野郎は成り立てだから『歌』なしにギア上げは出来ねーんだよなぁ」

「……歌?」

「……はい……、あの……」

「……、……まさか……」


 ここで?

 思い当たってしまった。

 先ほど見せられた、この世界のラミレスの歌う姿を。


「……さすが、勘がいいなぁ? ……ご明察。……GFシリーズはなぜか特定の歌い手の『歌』が、ブースターの役割を果たすらしくてな……簡単にギア上げが出来る様になるのさ」

「う、そ……だろ? ど、どういう事だよ、それ……!?」

「詳しい事はまだよく分からない。ただ、GF電波と登録者の脳波の重ならない部分を補正する効果があるのは間違いないかな」

「……ラミレスさんは、今分かっているその特別な『歌い手』の最後の一人だったんです……」

「……!?」

「……GF電波と脳波が密接に関わっているのも間違いない。GF電波と登録者の脳波が同調しない状態ではギア上げは出来ないからな。無理にギアを上げると、脳波が電波に掻き乱されて体調を著しく悪化させる。……登録者になれなかった奴らの中には脳の異常で死んだ奴までいるらしい。恐らく原因はGF電波による脳波の破壊」

「……歌の、音波が関係しているのかなー? と、僕らは考えてるんだけどね……でも、曲はなんでもいいみたいなんだ。不思議だろう? 歌い手だけが重要みたいなんだ。なんでだろう? 声なのかな? うーん、謎だね〜」

「ま、待った待った!」


 と、不思議そうなのを楽しそうにしている二人、と申し訳なさそうなアベルトにストップを掛ける。

 ……だって、それなら……。

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