第22話 カラオケ

「みんな、聞いて欲しいの」


リリーが、低い声で告げる。


部活。

放課後、とりあえず足を向け。

本や資料に囲まれ、気の合う友人と共に……


悪くない。

ルシフは思う。


学生生活を楽しむなど、期待はしていなかったが。

想定外に良い方向にばかり向かっている。


「どうしました?王女殿下」


「リリーと呼びなさい」


「えっ」


「友達でしょ、リリーと呼びなさい」


「あの……」


ディアナが泣きそうな顔をする。

リブラがディアナに耳打ちし、


「あの、会長」


「くっ」


リリーが呻く。

生徒会長であるのは事実だし、王女殿下はともかく、会長は良く使われる呼称……


「……まあ良いわ。それより、聞いて」


有無を言わさぬ気配。

自然とリリーが視線を集め。


「勇者は魔王と相討ちなんてしていない──勇者は、魔王に勝ったのよ」


「「「??!」」」


一同、息を飲む。



何でこの王女さん、蒸し返してるの??!



ルシフ達は、戦慄する。


「昨日ね、お祖父様と話したのよ」


お祖父様──国王か。


「お祖父様に、勇者は魔王と相討ちになっていない、と言ったら、盛大にお茶をお噴きになって」


「ちょ」


ディアナが呻く。


賢人クラテスの冷静沈着さは有名な事実。

心を乱す事すら信じられない事。

ましてや、お茶を噴くなど、有り得ないにも程がある。


「あの取り乱し様……間違い無いわ。お祖父様は……何かを隠しています」


リリーが、芯の通った声で告げる。


リブラが、何かに気付いた表情を浮かべ。

それを見たディアナが気付き。


ディアナが、目配せを送る。


そうか!


ルシフも、遅れて気付く。


リリーは友達がいなかった。

そして、昨日の議論が楽しかった。

だから、話題を復活させ、再度楽しみたい……


それは、悲しい、歪んだ認識。

そんな事せずとも、友人同士の楽しみはたくさん有る。


「な、なあ、姫さんよ」


「何よ、レオ」


「これからカラオケに行かねえか?」


「??!」


リリーが驚愕の表情を浮かべる。



勇者の死の真相解明の話をしているのに、何でカラオケの話題出すの、この子??!



ああ、でも、カラオケは行ってみたい。

リリーに生じる葛藤。


喰い付いた。

手応えを感じたディアナが、


「貴族向けのカラオケが有りますわ。その……必要でしたらお金は私が出しますわ」


貴族向けのカラオケ。

王女であるリリーを連れてなら、その方が良いだろう。

だが、一般市民が行くところより、2桁程高い。


「いや、それには及びません。史学部の活動であれば、史学部の予算から出せば良いのです」


「リブラさん?!」


ディアナが驚きの声を上げる。


「匿名のルピナスさんから、見た事もないような大金が寄付されたので、有り難く頂きましょう」


「会長?!」


「会長ではありません。書記です」


ルピナスがリブラを涙目で見る。

ルシフが不自由しないよう、史学部の予算が水増しされたのだ。

学園の年間運営費よりも桁が多い額が。

史学部専用の棟を建てられる程だ。


「有り難う、ディアナさん、ルピナス。では、今日はカラオケとやらに行くとしよう」


ルシフも、初めてであった。

ルシフの住んでいた村には、カラオケなぞ無かったのだ。

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