月10

「ここ吾輩の店アルよ。情報屋の店で聞こえない話なんてないアル。

 体で返すのはよくある話アル。

 返せなかった場合は特別に債権者の商業ライセンスで商売出来るアル。」


 いつもの調子に戻ったアルさんが入口から入ってきた。

 全部聞かれていたのか。

 思わずカトリーヌを見るが、首を横に振っていた。

 気付かなかったらしい、客が来たというのも嘘だったのであろうか。


「料理しながら聞いてたアルが、リュウさんいい子を仲間にしたアルね。

 最初のリュウさんの案は褒めるところ意気込みぐらいしかなかったアル。100点満点で10点落第だったアルね。

 新しい案は計画を詳しく聞いてみないと分からないアルけど、40点ぐらいあげてもいいアル。」


 40点微妙な点数だ。これは貸してもらえるのか否か。

 アルさんが急に戻って来て盗聴を明かしたのも、いつもの態度に戻ったのも、親切心からな気もするし、計算に基づいた企みな気もするし、混乱させられ完全にペースを握られている。


「リュウさんはもう少し色々な人と交流して、交渉とかはどういうものか学ぶべきアルね。」


 それはごもっとも、耳が痛い。


「それではリュウさんの探索計画と返済計画を聞きたいところアルが、何をどこの店でいくらで買えるか詳細に調べてるアルか?

 1000万という大雑把な数字を出してきたから分かっていたアルが、やっぱり調べてなかったアルか。

 リュウさんは時間の余裕あまりないみたいアルから、ちょっとテストするアル。その結果次第で貸すアルよ。それでいいアルね。」


 またも不備を指摘されれば頷くほかなかった。


「試験はとっても簡単アル。

 リュウさんに100万マナ貸すアル。全部使って一日で100万マナ稼ぐだけアル。

 遅くに報告に来られても困るアル。朝8時スタート夜10時ゴールでいいアルか?」


 14時間で100万か。前回の探索が19時間で63万。《マッピング》パーツは今日買ったので次は迷子にならないが、それを加味しても相当厳しい。


「遅くに報告がダメなら、少し朝早く出発しても大丈夫ではないですか?」


 この発言で貸すのが止めにならないでくれよ。


「リュウさんさっきの威勢はどうしたアルか?

 100万ぐらい軽く稼いで欲しいアルが、それなら朝6時スタートでいいアル。ただし夜10時にこの店で報告するアル。」


 少し延びた。これなら持ち帰るモンスターの素材の量を増やせば届きそうだ。


「それでは試験はこれで決まりアル。

 おっと、リュウさん料理が冷えてしまってるアル。特別に温めて来てあげるアル。その間はこれを読んでるといいアル。」



 紙を一枚渡された。どうやら1000万マナの借用書のようだ。2人で確認していく。


 ふむふむ、返済期限が《大発生》の前日までか。

 《大発生》がいつ起きるかの予測は今は1か月後付近というまだ大雑把なものだが、直前になればはっきりと分かるらしいから気を付けて情報を集めよう。

《大発生》後の方がまとまったお金が入っていて返済が楽なんだけど、貸す側としては《大発生》で死なれて取り逸れたくはないだろうから仕方ないか


 利子が複利で月100%で返済日を早めても日割りで減ったりはしない。

 足元見て来るとは思っていたが、これは流石に暴利すぎる。

 ここは何とか下げさせなければとカトリーヌと意見を一致させ強く頷いた。


 返済が間に合わなかった場合はカトリーヌの魔法を3回好きに使わせる。

 そして私が死んだ場合は返済義務なし。

 さっきまであれだけギャンブルはしないと言っていたのに、死んだ場合1000万をドブに捨てるこの条件、あからさまに怪しい。

 いつ、どこで、何に、どんな魔法を使うか書いてなければ、期限も書いてない。

 こんなリスクを負ってまで借りるべきなのかもう一度考えるべきかもな。

 ただ、1日で100万稼げるなら2000万の返済も問題ないから、テストはこちらにとっても都合のいい申し出である。



 腕いっぱいに皿を載せたアルさんが戻ってきた。

 どうやって5皿も載せたまま歩いて、扉まで開けたんだろう?


「今度は冷める前に食べるアル。」


 契約について尋ねようと思ったが遮られてしまった。

 出来立てのよりは落ちるが、冷めた状態よりはかなり美味しい。やはり食事は温かいのが一番だ。ダンジョンで白く固まった脂が付いた肉を食べるとテンション下がるもんな。

 この食事で気力回復して契約条件がこれより何とかよくなるように頑張ろう。




 ダメでした。


「元気を出すのだあるじよ。早く買い物を済ませるぞ。」


 テストで貸す100万マナは稼げなくてテスト失敗になったとしても、2,3日のうちに返せばペナルティーは何もなく、利子も無しという好条件は得られたから全部がダメだったわけではないが、肝心の1000万マナ借金の方は何も話ができなかった。

 明日の探索準備の時間をしなくていいのかと問われると、確かに時間はないので引き下がるしかなかった。

 明日返済した時に時間を作ってもらってもう一度交渉するしかないな。

 いや待てよ、探索終わりなら暴走状態のままだからまともな交渉なんてできない。

 そういうことだったか、そのまま契約書にサインしそう。


 負けた負けた。返せれば何も問題ないんだともう切り替えるしかない。

 よっし買い物だ。


「追尾機能のない浮遊箱を買うつもりですが、ロープでプニルに結び付けても大丈夫ですか?」


 これなら安く済ませられる。


「道を曲がる時や止まる時に慣性の法則に従って飛ぶ箱にプニルが逆に引っ張られることになる故、それに耐えうるためにマナを増やして顕現する必要があるが問題なかろうか?」


「罠避けの為にも顕現レベルを上げてもらうつもりだったので大丈夫です。」


「あるじが先行していてはプニルが罠を発見しても意味ないが、大人しく乗せる方法でも思いついたか?

 我は簀巻きにしていくぐらいしか思いつかなかったぞ。」


「ええ、ちょっとしたおもちゃを与えようと思います。」

 上手くいくことを祈ろう。

 お金に余裕が出来たら馬上から攻撃できる武器もいいな。


 明日はいつもより少し早起きだから、今日はさっさと買い物を済ませて寝よう。

 頑張るぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る