ウエスタン

「また残飯漁りアルか。でかいネズミアルね。」


 声に反応して朦朧としていた意識が覚醒する。

 急いで周りを見渡すと生ごみの詰まったバケツが転がっており、散らばったゴミから酷い匂いがする。

 どうやらこれにぶつかったようだ、いや落ちたんだったか?

 とにかく逃げなければ、早く起き上がって逃げなければ。




 跳ね起きると、辺りは真っ暗であった。

 少し汗ばんだ体に着ているシャツを強く擦り付け汗を吸わせた。

 今日の夢は短かったな。

 何時かは分からないがこの暗さなら寝過ごさずに済んだようだ。



 昨日、浮遊箱を買ったはいいが大きすぎて玄関を通らず、置き場を急遽レンタルに走ったのでまずはそちらに向かう。

 お金を節約したかったので少し割高だけど3日だけの契約だ。


 昨日結んだロープがしっかり結ばれたままなのか確認してから引っ張る。

 浮遊箱の移動はなかなか面白いけど大変なんだよな。


 まず、道を曲がるのが大変。

 そのまま浮遊箱だけ直進しようとするので思いっきり横方向にロープを引っ張るが、そのまま体ごと引きずられてしまう。

 角度が少ししか変わらなくて何度も民家に突っ込みそうにもなった。

 なのでなるべくゆっくり歩いて、一旦止めてから曲がるようにした。


 次に、止まるのが大変。

 全力のタックルで止めるんだが、跳ね飛ばされそうになる。

 こういう時もう少し体重が欲しくなる。


 次からはもっとダンジョンに近い置き場を借りよう。

 近場は少し割高だけどこれは必要経費だな。

 浮遊箱を人力で引っ張ってる人なんて見たことなかったけど、それも納得。

 運ぶのが仕事のポーターだってこんなことやってられないよな。

 お金に余裕が出来れば故障している推進機構も直したい。


 大変なことばかりの浮遊箱だが、乗っているカトリーヌはすごく楽しそうだ。

 私も乗るだけならやりたい。

 移動させるのも直進するだけなら段々スピードが出る感覚が楽しいんだけどな。

 思いっきり加速させた浮遊箱に飛び乗ってどこまでも真っ直ぐ進んでみたい。




 6時は15分ほど過ぎていたが何とか無事故でダンジョンに入ることができた。

 ただ、前回よりも入ダン税が上がっていた。

 毎度のことながらこういうことだけは素早い対応なんだよな。

 リングに何か仕込んで稼ぎを調べているんだろうけど、ダンジョン内でマナを預けたり、買い物に使ったり、リングを複数用意したりすることで何とか抜け穴を通れないものか。


「あるじそろそろよいではないか?」

 今回は前回ほど隠す気はないので、周りの邪魔が入らないように数分歩いた場所で闇を張らずに準備を始める。

 カトリーヌがリング用のパーツを取り出し地面に並べていく。そして白く光る自身のリングに手をかざし、魔力を込めていった。容量が大きい分一般的なものよりも武骨で大きかったリングが徐々に薄く引き伸ばされていき幅5㎝ぐらいの腕輪となった。そして白く光っていた腕輪に金・緑・黒で複雑な文様が描かれ光は消えた。腕輪の下部から薄く編み込まれた鎖が12本現れ腕に巻き付いていき、先端には緑色の宝石のような玉が生まれた。そしてその玉が地面に並べたパーツを飲み込んでいった。

 どうやらこれでパーツの組み込みが出来るらしい、魔法というものは本当に不思議なものだ。


「あるじよどうだ?なかなかのデザインであろう。

 むっ髪が赤く染まりだしたか、これではまともな誉め言葉は聞けぬな。」


「カトリーヌ、この俺様のだっせーリングもイカしたデザインにしてくれ。

 尖ったシルバーなんていいんじゃないか。」


「あるじよ、もう少し具体的に頼む。尖ったとはどういうことだ?」


 うーむ、ここは俺様のセンスが光るところか。

「俺様の強さと鋭さが分かるように文字通り尖ったトゲにするか。」


「正気かあるじよ?刺さらないように常に手を体が離しているのは間抜けだぞ。」


 カトリーヌの癖になかなかやるではないか一理ある。邪魔にならぬよう肩パッドでも装備してそこにトゲを生やすとするか。

「ふむ、ならば髑髏だ。頭蓋骨がリングに貫通されているものなんてどうだ。」


「あるじよ、今回の探索は時間がない故、次回の探索までしっかりとデザインを考えてもらい、そこでやるとうしよう。

 その場の思い付きで作るよりきっといいものになるであろう。」


「ふむ、ならば100万程度さっさと稼いで戻るか。

 次はエビチリをアルに作らせるぞ。」


「それは楽しみだな。では始めるぞ。


 その嘶きは千里に響き その瞳は万里を見通す

 カトリーヌの名において命ず 我が愛馬プニルよここに来たれ


 よっしあるじ、さっさと繋いで出発するぞ。」



 さっさと出発したいから俺様が結んだが、この位置だと首が締まると文句を言われた。このような雑事はカトリーヌにさせるんだったな。

 OKが出たので今度こそ出発だと、カトリーヌを小脇に抱えて飛び乗った。


「ヒャッハー、飛ばせ飛ばせ。」


 快調に走らせるも入口付近は人通りも多いせいで敵が全く現れず暇。

 適当な脇道にでも入ろうかと思ったが、カトリーヌに浮遊箱があると道を曲がりづらいからなるべく真っ直ぐの道を選んでくれと止められてしまった。


 浮遊箱を振り返りしばらく寝て待つかと考えていると、突然ブルルとプニルの鳴き声が聞こえたので前を向き直した。

 どうやら道の先にレッサーウルフが見えたので鳴いたらしい。

 距離がすぐに縮まっていくので、急いでロープを用意したが間に合わなさそうだ。めんどくさいがプニルから飛び降りるかと考えているとレッサーウルフが空を飛んだ。

 カトリーヌが魔法で打ち上げたようだ。

 空を飛ぶレッサーウルフの下を潜り抜けると、レッサーウルフは浮遊箱の中に綺麗に落ちて悲鳴を上げた。


「あるじよ、我が敵は全て飛ばす故あちらで戦えばどうだ?」


 少し考えたがこんなところの敵を倒しても面白くないか。

 浮遊箱に入った敵の処理はカトリーヌに任せよう。

 

 プニルの首を軽く撫でた。

「敵に気づいたらもう少し早めに知らせろ。

 後ろの敵は倒していいぞ。」


「我は浮遊箱が壁にぶつからぬよう風魔法で押しとどめたりもせねばならぬ故、あるじにも何か仕事して欲しいのだが。」


「モンスター釣りは俺様に任せろ。」

 ロープを弄りながら言うと、背中に感じていたカトリーヌの感触が消えた。浮遊箱に移ったようだ。


 しばらくしてからまたプニルがブルルと小さく鳴いた。

 まだ見えないがモンスターが出たのであろう。

 輪っかを作ったロープを回転させる。

 見えたゴブリンだ。


「いけプニル、左を抜けろ。」


 投げた輪はこちらの速度に驚いたのか間抜けな顔して固まっているゴブリンに見事かかった。そしてプニルは全く速度を落とさず引きずっていく。


「ヒャッハー、市中引き回しの刑だ。」


 ギャアギャア叫んでいたゴブリンも次第に静かになっていった。

 ゴブリンみたいな雑魚では大して楽しめないな。次来い次。


 引っ張り上げて浮遊箱に投げ捨てると、カトリーヌは回収作業を始めた。

 マナ結晶からマナを回収し、いらない体はロープから外して捨てる

 その間に俺様は腰に縛った2本目のロープに輪を作る。昨日頑張って覚えたが結び方が特殊で結構めんどくさい。

 とは言えこのロープのおかげで今日の探索は楽しめそうだ。

 いい悲鳴聞かせろよモンスター共。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る