第15話  奴隷からの脱却 終 ミックの正体  

侯爵は続けた。

「貴族とはいつも民の手本となるように生きていかねばならぬ。

ジョンダンも肝に銘ずるのだぞ。

そなたは今後サブラゴスと名乗るが良い。

異存はないか」


「侯爵閣下と同じ一族に加えて貰えるので…… 。

有り難き幸せ」


「うむ、では名誉爵殿の一族には退場いただこうかな」


彼らにとって名誉爵とは不名誉なのだろう。

皆一様に肩を落としふらふらと歩いて去った。


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パレッティの者たちが退場すると、侯爵は俺を手招きした。

侯爵の横には何故かミックがそのまま立っている 。


侯爵が俺に声をかける。

「今回のことは大儀であった。

これだけ被害が少なく、事をうまく運べたのもタウロお前のおかげだ」


「俺なんかにそのお言葉 もったいのうございます」


「そう謙遜するでない。

それで、 残った奴隷達の 処遇についてだが…… 

これからは 平民と同じような扱いにしようと思う。

仕事も重労働は避け、休みも定期的に与え、 ちゃんと働きに見合った給金まで出そうと思う」


「 ではお約束どおり彼らは 下民にしてもらえるのですか」


「 いや下民にするというのは意外と手続きが面倒なんだ。

私の一存だけで決まる訳ではなく国に登録しなければならない。

そなた達は国に把握されてない幽霊と同じ存在。

だから書類なども出さなければならないし、身分証も作る必要がある。

その時に五百金、つまり金貨五百枚・五千万円ほどかかるのだ。

卑民から下民になるというのはそれだけ大変なんだ」


そんなのわかってる、図書館で調べた。


「奴隷全員を下民にすると莫大な金額がかかる。

そもそも卑民という身分にまで余程のことがない限り人は堕ちようがないのだ」


なんだ、エテ侯爵も約束を破る気か。

俺は納得がいかないと訴えた。

「しかし下民にしていただけるという約束でしたよね。

この領地にいる奴隷のほとんどがバーナードに不当に拘束され、無理やり隷属魔法をかけられた者です。

いわば罪のない被害者なんです」


「そんなことはわかっている。

だがな」


「まさか侯爵閣下ともあろうお方が金額が高いからと約束を反故になさるつもりでは」


「金額もネックだがそれだけではない。

下民にして彼らを解き放てば 万々歳か。

そうじゃないだろう。

生活力のない彼らはまともに生きていけるだろうか。

少なくとも幸せにはなれないぞ。

よってこのまま卑民でいてもらい、ジョンダンや私の配下の者たちが手厚く保護をしようと思う」


「そんな…… 俺はどうしても」


「タウロ、 お前には 私の領土に来てもらおうと思う。

決して悪いようにしない」


「いやそれは困ります 。

お約束したとおり下民に格上げして欲しいのですが」


「 下民になっても一つもいいことはないぞ 。

奴隷区を出た外の世界は 大変なところだ 。

まだ成人していないお前ではとても無理だろう。

それ よりは私の庇護の下、今の身分のままでいてはどうか。

お前の実力は知っているからそのうちゆくゆくは取り立てようとは思っているが」


「それでは困るのです」

侯爵と俺とのやり取りを聞いていたヴァネッサが前に進み出る。

そして侯爵に願い出る。

「 どうぞ彼 の願いを叶えてあげてください」


「 無礼者! 卑しい身分のくせに 許しもなく侯爵様に物申すとは何事だ 」

侯爵の後ろに 控えていた者が 剣を抜いた。


侯爵は慌てて 配下の者を止めると ヴァネッサに向かって 尋ねた。

「 お前は何者? タウロとはどういう関係だ 」


「私は幼いタウロがこの奴隷区に来た時からずっと保護していたものです。

自分では親代わりとして見守ってきたつもりです」


「タウロそれは本当か」


「はい間違いありません 。

ヴァネッサは俺にとって 母のようでもあり、年の離れた姉のようでもあります。

彼女がいなければ、俺は劣悪な環境で生きていけたか。

恩人です、家族です」


ヴァネッサはずっと下を向いたままであるが、日に焼けた肌が真っ赤に染まったのがわかった。


「おもてを上げてよく顔を見せてくれぬか」

侯爵がヴァネッサに柔らかく命じる。

しかし緊張しているのかヴァネッサは固まったままだ。


すると 侯爵の側仕えが ヴァネッサの顎を持ちあげ 顔の半分を覆っていた 髪

を持ち上げる。

ヴァネッサは醜い傷があるとから髪で隠すんだというようなことを日頃言っていた。

確かに痣のような、しかし銀色に輝く星型のマークが見えた。


なんだあれは、綺麗な文様は。

あんな対象になった人工的な形、入れ墨か?


ヴァネッサは嫌がり体を捻じって顔を隠した。


「そなた名前からみても女性であるのだろうが、何ともたくましい 顔ではないか。

苦労したのだな。

これからはもう少し日差しを避け、そして食を細くすれば女らしく見えるかもしれないぞ」

そう侯爵は軽口を叩き、そして続けた 。

「しかし タウロに関する そなたの願い、 取り上げることはできん」


侯爵の横に立っていたミックがおかしい。

なんか動揺しているか。


ミックはずっとヴァネッサを凝視している。

が、ふと俺の方を向き、目が合うと慌てたようにそらした。


いったいなんなんだ。

まさかヴァネッサに惚れた訳じゃないし、というかあの綺麗な文様を見て驚いたんだな。


ミックがこの場で声を発した、なんか裏返っている。

「ヴァネッサ殿は…… ああいやヴァネッサ、お前はどうして タウロを下民にしたいのだ 」


ミックが挙動不審だ。

侯爵の横に立っているだけでもまずいような気がするが許可なく勝手に発言していいのだろうか。

しかし侯爵もその側仕えも黙ったままだ。


「それは 恐れながら…… 」

ヴァネッサがおそるおそると発言する。


「遠慮することはない 」


「 はい、 迷い事と思われるかもしれませんが 神の思し召しだからです」


「なんと神の思し召しだと !ははははっ」と侯爵が笑う。

しかし ミックが それを手で合図し遮った。

「 笑うでない。

ここは傍観して侯爵そなたに全てを任せるつもりだったが口を挟んでもよろしいか」


「もちろんでございます 殿下」


おいおいミックが大公だったのか。

なんてフランクな大公様なんだ。

えっ俺って不敬罪に問われないよな。

というか前の領主とかもミックを見て気づかなかったような。

準伯爵でも面識がないってことは、直接会えるのって相当レアなのか。



侯爵そなた、この前タウロが来た時にこっそり耳打ちした話を忘れたのか」


「あああああ! そうでした」


「納得したか。

では今回の働きに免じてタウロ及びヴァネッサは下民とし、いかなる行動も自由とする。

ちなみに二人はこれからどう行動するつもりなのだ。

よかったら教えてくれぬか」




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貴族の家に転生した筈が 奴隷に堕ちていた俺は3つのチート『一時交換・オウト・レイマホウ』を授かり無双し成り上がる ウチノスケ @silyoutino

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