第17話 バンシー

二人の言い争いがヒートアップしそうなところで、彼女が帰ってきた。

こんな時間まで夜遊びしてるなんて、感心しないなぁ。


「おかえりなさい、バンシーさん。こんな遅くまで……みんな心配してたんだよ?」

「ユート、ただいま~。マジゴメたん☆」


女子高生っぽい制服、ミニスカ、ルーズソックスの彼女は右手で自分の頭をコツンとして舌を出している。

なんか、リアクションが古いなぁ。


「でぇ~なになにぃ?何を騒いでるわけぇ?」


彼女の名前はバンシーさん。

デュラハン君の仕事仲間で同じアイルランドの妖精さんだ。

人の死を泣き声で予告する妖精さんで、日本に来たときは地味な見た目をしていたのだが、日本の文化に染まってしまったらしい。


日焼けサロンに通っているらしく、肌は小麦色。髪も金髪に染め上げ、カールさせている。

彼女の一発ギャグ、アイルランド式ペガサス昇天MIX盛りは絶対に外れない鉄板のギャグだ。

元々は一重瞼だったのも二重瞼にしており、付けまつ毛もバッチリだ。

まつ毛の上に爪楊枝を何本乗せられるか、というギャグも、もはや彼女の鉄板ギャグの一つだ。

……彼女は一体どこを目指しているのだろうか……。

眉毛は昔のギャルっぽく、細く切り揃えられている。


そう、一昔前のギャルにガッツリはまってしまい、ギャルメイク、ギャル言葉になってしまっている。

……彼女は日本の文化を勘違いしているのではないのだろうか。


ちなみにデュラハン君よりも年上なのだが、歳の事を言うと機嫌が悪くなるので彼女の前では禁句だ。


「んむ、ザントマンちゃんがじゃなぁ~ワシのレトロゲーを馬鹿にするのじゃ~」

「違う……スプリガンがネトゲの可能性についてこれていないだけ」

「はぁ~……何?そんな事でユートに迷惑かけてるわけぇ?」

「そんなことじゃと?」

「……そんなことじゃないが」


バンシーさんは大きなため息をついた。


「あのさ~マジ、二人とも正座。アタシらがさ~好きに生活できてるのって誰のおかげか知ってる?」

「そ、それは……まぁ」

「……ユートのおかげだが……」

「そのユートの優しさにつけこんでぇ、二人で喧嘩して迷惑かけて~マジ何様って感じ?チョーMMなんだけど」


大人しく正座している二人の前で手を腰に当てて仁王立ちのギャル。

ギャル言葉のまま説教している姿は何かシュールだね。

で、チョーMMってどういう意味なんだい?


「そもそもユートが、もしムカ着火ファイヤーになったら、みんなサゲぽよなんだけど、どう責任取るぽよ?」


おぉ、なんかムカ着火ファイヤーとか久しぶりに聞いたよ。

最上級は何だっけ。なんかインフェルノー!とかだったかな?


「とりま、ユートに謝って。アタシが激おこぷんぷん丸になったらやばたにえんだよ?」

「まぁまぁ、バンシーさん。もうそのくらいでいいんじゃないかな?」


バンシーさんのギャル語を懐かしんでて何も言えなかったが、さすがに説教されている二人が可哀想になってきた。

別に大した言い争いじゃなかったし、僕も迷惑だなんて思ってないよ。


「りょ☆」


りょって何だよ(哲学)。

あぁ、ダメだ。バンシーさんのペースに乗せられてしまっている。


「ユート、マジうける~。テンアゲなバイブスできゃわたんなパティーンだ!」


ストップストップ!もう日本語かどうかも怪しいレベルになってきたぞ!


「今のは、ユートのテンションが上がった雰囲気で可愛いなぁ、という意味なのじゃ」


え!?スプリガン君、今のギャル語を瞬時に理解しているの!?


「ネトゲでもあのレベルのスラングはあるし……解析余裕……」

「レトロゲーでも、おかしな言い回しや表現は沢山あるのじゃ」


……スプリガン君とザントマン君、やっぱゲーマー同士なだけあって息がぴったりじゃないかい?

お互いに、好き嫌いせずにレトロゲーとネトゲと仲良くやったらいいじゃないか。

ただし、時間は決めてちゃんと睡眠はとるんだよ。

あと、バンシーさんもこんな時間まで夜遊びしてないで、もっと早く帰ってきなさい。

みんな心配するからさ。


「りょ☆」

「りょなのじゃ」

「りょ……」


りょって何だよ(哲学)。

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妖精と暮らす穏やかな日常 リッチーサムサム @richmond

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