第16話 ザントマン

う~ん、エンプーサさんと一緒に恋愛ドラマを見ようと思ってたんだけど、どこかに逃げて行ってしまったし、一人で見るってのもな。

誰か起きてる妖精さんはいるかな?


「ユート…助けて…」


隣の部屋から、一人の妖精さんがフラフラとやって来た。

え!?

どうしたんだい、ザントマン君!


「スプリガンの奴が…ゲームを…しようって…」


すごい目の下にクマができてる彼の名前はザントマン君。

ドイツの伝承に出てくる睡魔で、砂袋を担いだ老人の姿で描かれることが多い。

夜に眠らず騒いでいると、このザントマンが現れて目に砂を投げつけてくる。

この砂が目に入ってしまったら、目を開けていることが出来ずに眠ってしまうそうだ。


ヨーロッパでは眠らない子供に対して「ザントマンがやって来るぞ!」と脅かして寝かしつけていたらしい。


そんな彼なのだが、最近凄い深刻な悩みがあるらしい。

なんと…


「うぅ…これで三日連続徹夜…睡眠不足で死んでしまう…」


そう、不眠症になってしまったのだ。

人々を寝かしつける妖精が、不眠症で悩んでいるって笑い話みたいだが、本人にとっては至って深刻な問題だ。

目の下のクマが酷く、日に日にやつれてしまっている気がする。

これは不味い。

本当にそろそろ倒れてしまいそうだな。


よし、今晩はザントマン君の不眠症を解消するぞ!

まずは何が原因で不眠症になっているのかを調べなくちゃね。

何か心当たりはあるかい?


「心当たり…ん~…思いつかない…」


うむむ、何か普段ストレスを感じるようなことは?


「無い…みんな優しいし、ここでの暮らしは最高…」


じゃ~普段の生活リズムの問題かな?朝起きてから何をしているか、一日の生活の流れを教えてくれるかい?


「ん…朝起きてネトゲして、夜ご飯を食べてネトゲして…」


…ん?


「で、深夜にネトゲして…夜が明けて、また朝にネトゲして…」

「それだよ!」

「?」


え!?何でザントマン君が「何言ってるんだ?」みたいな顔してキョトンとしてるの!?


「いや、普通にゲームを止めればいいんじゃないかな?」

「ユート、ネトゲは遊びじゃないんだぞ?…数分の休憩でライバルにレアモンスターを取られてしまうかもしれない。

真剣勝負の連続なんだ。それはまさに男と男の勝負の場。ここで逃げるわけにはいかない。それにクラン同士の争いもある。

拠点を落とされたとなると笑いものにされる。一生の恥。生きるか死ぬか、まさにサバイバル」


うわぁ…いきなり饒舌になりだしたよ、この子。

あれ?でもさっきスプリガン君がゲームをしようって…


「あぁ…スプリガンのやつはレトロゲーだから…あんなのはゲームじゃない。ネトゲこそ至高」

「なんじゃと!それは聞き捨てならんのじゃ!」


あ、スプリガン君が乱入してきた。

そういえば、今晩はザントマン君と一緒にゲームするって言ってたもんな。だから探しに来たのだろう。


「そもそもネトゲの方が邪道なのじゃ!アレにどれだけ月額をかけておるのじゃ!」

「スプリガンこそ…レトロゲーにお金かけすぎ…」

「レトロゲーこそ、人類の試行錯誤の証なのじゃ!少ない容量でいかにプレイヤーを楽しませるか、まさに職人の魂がこもったゲームなのじゃ!」

「古いよ…最先端のネトゲこそ…人類の進化の証明…遠く離れた人とも繋がれる、まさに未来…」

「妖精が未来語ってどうするのじゃ!」

「妖精だからこそ語らなくてどうする…!」


う~ん、言い合いがヒートアップしてきたぞ。

本格的な喧嘩にはならないだろうけど、そろそろ止めないとな。

とか考えていると玄関の方から声がしてきた。


「え~なになにぃ?何言い争ってるわけぇ?チョー受けるんですけどぉ~」


う~ん、また濃い妖精さんが帰ってきたなぁ。

彼女は顔の横でダブルピースをしながら部屋に入ってきた。


「じゃじゃ~ん☆ちぃ~っす!アタシ華麗に登場☆」

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