第11話 シルキー

目当ての鶏肉もゲットした僕たち。

残念ながら割引シールが貼られていなかったけど、まだお昼。この時間からは流石に割引は無いか。

まぁでも唐揚げ用のもも肉とササミは買った。

明日はササミの梅しそ巻きにしておらおう。


「ちげーし、マジちげーし…」


隣ではブツブツとコカトリス君が小声で呟いている。

ははは、まださっきのヴォジャノーイ君との会話を引きずっているらしい。

僕はそれがたまらなく可愛くて、思わず隣であるくコカトリス君の頭を撫でてしまう。


「ん?どうしたユート」


キョトンとした顔でこちらを見上げてくるコカトリス君。

なんだろう、動物系の妖精って滅茶苦茶可愛いよね。

誤解の無いように言っておくと、人型が可愛くないわけじゃない。

とても可愛い人型の妖精だっていっぱいいる。


でもさ、この動物特有の「ん?どうしたの?」ってこっちを見てくる顔、これがたまらなく好きなのだ。

しかもちょっと首をかしげていれば100点満点。

更にモフモフであれば尚良し。


あ~あとは眠そうに微睡んでいる時とかもたまらないし、仰向けになって寝ている所なんて最高だ。


「おい、トリス。ユートが気持ち悪い顔でニヤニヤしてるぜ?」

「シッ。彼はいい夢みてるんだべさ~。そっとしておいてやるべさ」


…聞こえてるよ?そんなにニヤニヤしていたかな?


さて、もうすぐアパートに…


ガシャーーン!キャー!


付くところで僕の住むアパートの部屋から、物音と悲鳴が聞こえた。

あ~…これは久しぶりに彼女がやらかしたかな?レッドキャップ君の怒ってないといいけど。


「あ、ユート。俺様、もうちょっと散歩して帰るから」

「んだなぁ~、触らぬ神に祟りなしだべ」


コカトリス君、逃げたな?

仕方ない、僕だけでなんとかしようか。


アパートに着くと…やっぱり彼女が泣いている。その彼女の目の前にはレッドキャップ君。


「なんでホットミルク作るだけなのに、電子レンジを壊しちゃうのよ!」

「うえ~~ん、ごめんなさい~なの~!」


泣いている彼女の名前はシルキーさん。イングランドの伝承に出てくる、家の手伝いをしてくれる妖精だ。

掃除を手伝ったり、暖炉の火の晩をしてくれるありがたい妖精さんなのだが…。


「あ、ユート君。おかえり~ちょっと聞いてよ~シルキーちゃんがね~!」

「うえええん~ごめんなさい~なのぉ~~!!」

「もぅ!レンジは壊しちゃうし、お気に入りのコップは割っちゃうし!それでもお手伝いの妖精なの?」

「うう、ひっくひっく…」


シルキーさんは一生懸命お手伝いをしようとしてくれるのだが、どうにも不器用なようでいつも失敗してしまう。

家電製品を使えば壊してしまうし、掃除をすると掃除をする前よりも汚してしまう。

でも彼女に悪気があるわけではないし、そのお手伝いしたいという気持ちは本物なので悪い気はしない。

このまま怒られっぱなしじゃあ流石にシルキーさんが可哀想だな。

レッドキャップ君。そろそろ怒りを収めてくれないかな?わざとじゃないんだし。


「んもう、ユート君は甘いのよ。何とかしてもらいますからね」

「グスッ、ちゃんとお掃除するの~、グスッ」

「お掃除したらまた物を壊したりするでしょう!」


まぁまぁ、レッドキャップ君。そのくらいにしてあげようよ。


「もう、ユート君ったら…」


レッドキャップ君はプンプンしながらリビングに戻っていった。

ふぅ、今回の怒りは短くすんだな。シルキーさんもほら、もう泣き止みなよ。


「うぅ、ユーちゃん、ごめんなさいなの~」

「僕は怒ってないよ。ほら、そのガラスで手を切らないように気を付けてね」

「ありがとうなの~グスッ」

「ほら、泣き止みなよ。僕はね、シルキーさんのお手伝いがしたいっていう気持ちが嬉しいんだよ。お手伝いしようとしてくれてありがとうね」

「うぅ、ユーちゃん、優しいの~…これからも失敗しちゃうかもだけど、よろしくなの~」

「うん、よろしくね」


やっと彼女は泣き止んで、そして笑ってくれた。

やっぱり、人間でも妖精でも女の子は泣き顔より笑顔のほうが似合うな。


「あ、そういえばユーちゃんのお洋服を洗濯したんだけど…全部ボロボロになっちゃったの~…」


うん、それは本当に止めてほしいかな。

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