第10話 ヴォジャノーイ

コカトリス君とスーパーまでの道のりを歩く。

僕の住んでいるこの町はそこまで都会ではないが田舎でもない。

住宅街になってはいるが、少し歩くとまだまだ自然が残っている。


まだまだこれから発展していく、いわゆるニュータウンというだ。


道端に咲き乱れている菜の花は、風に揺られて波打っている。

外に出て分かったけど、今日は風がそこそこ強いな。

この風で桜が散ってしまわなければいいのだが。


「おい、ユート。あんまり川のそばに行くと危ねぇぞ」


川のそばを歩く僕を心配してくれるツンデレの鳥さん。もといコカトリス君。


「ははは、平気だよ、コカトリス君。心配性だなぁ」

「心配性とか、そういうんじゃねぇから!」

「コカは照れ屋さんだべ~素直に心配って言えばいいんだなぁ」

「うっせーぞ!」


ははは、コカトリス君は面白いね。でも、本当に心配ないよ。

なんせこの川には


「お、ユー君。お散歩ケロ?」

「こんにちは、ヴィジャノーイ君」


川から髭の生えたカエルの妖精が顔をヒョッコリ出して手を振ってくれている。

そう、この川には彼が住んでいるんだ。

彼の名前はヴォジャノーイ。

東欧出身の湖や沼などの水中に住むカエルの顔をした妖精だ。


本来なら人間嫌いで、水辺を歩く人間を水の中に引きずり込んで食べてしまったり、水をせき止める水門とかを壊してしまう妖精だ。

日本でいうところの河童によく似た性質を持つ妖精さんなのだ。


いつも思うのだが、日本とヨーロッパ。

気候や歴史、文化は全然違うのに、出てくる日本の妖怪とヨーロッパの妖精には共通点がいくつもあったりする。

場所や地域が違ってもそこに出てくる神話や伝承には一致する点が見られるのは不思議だよね。


「ユー君、聞いてくれケロ!この川の上流にある貯め池についにイモリが住み着いたケロ!頑張って川を綺麗にした甲斐があったあったケロ~!」


ヴィジャノーイ君が楽しそうに報告してくる。

彼が日本に来た時、アパートの近くにあるこの川の水質に非常にショックを受けていた。

曰く、非常に汚いと。

それから彼は僕のアパートを出てこの川に住むようになった。

ちなみに、他の水生の妖精さんも何人かこの池に住み着いているが、よく僕のアパートに遊びに着たりする。


主にレッドキャップ君のご飯狙いで。


まぁ、元気そうな顔を見せに来てくれるので僕としても安心だ。

孫を見るおじいちゃんの気分…まだ大学三年生のはずなのに、なんでこんな老けた事を考えてしまったのだろう。


「この調子だと、この夏には蛍が見られるかもしれないケロ~」

「蛍か~いいね。僕も見たいな」

「お、やっぱり見たいケロ?じゃ~ユー君の為に今まで以上に気合入れて皆で水を綺麗にするケロ~!」


気合を入れるヴィジャノーイ君。

他のみんなもそうなんだけど、やっぱり恐ろしい妖精には見えないな。


「そうだ、ユー君。さっき沢蟹がいっぱい取れたんだけど、食べていくケロ?」

「ん~生はいいかな。皆で食べなよ」

「わかったケロ~。人間はコレが生で食べることが出来ないなんてちょっと可哀想ケロね~」

「そうだ。今晩のうちの晩御飯、唐揚げなんだけど、ヴォジャノーイ君も良かったら来るかい?」

「お~最近、蟹ばっかりだったから、そろそろレッドキャップ君の料理が恋しかったケロ!妻と一緒に行くケロ~!」


ヴィジャノーイ君が手を叩いて喜んでいる。

奥さんのルサールカさんと一緒に来るそうだ。


「おい、ユート。俺の唐揚げの分け前が減っちまうだろうがよぉ!」

「とかいいながらコカ、喜んでるでねぇべか。やっぱ食事は皆でした方が楽しいもんだべね~」

「ちょ!余計な事言うなよ、トリス!」


ははは、強がっても直ぐヘビ君にばらされてしまうコカトリス君。またケットシー君とは違った可愛さがあるな。

ほら、ヴォジャノーイ君もニコニコと笑顔だ。


「コカトリス君は面白いケロね~」

「本当だね、僕も一緒にいて退屈しないよ」

「んだな~オラもみんなと一緒にいて楽しいだよぉ~」


「うっせ!おめーらマジうっせー!!そういうんじゃね~から!マジ違うし!!」


今日の晩御飯も賑やかになりそうだ。

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