第9話 コカトリス
「オラもついていくだよぉ~」
「止めろよ!今日は寒いから、俺は行きたくねぇ!」
部屋の奥から一匹の鳥型の妖精さんが現れた。
彼の名前はコカトリス君。
ヨーロッパの伝説に現れる生物だ。
体と頭は雄鶏、羽が蝙蝠で、尻尾がヘビという姿で、伝説の中では毒を吐きその視線に睨まれると命を奪われるという。ちなみにヘビの尻尾ではなく、ヘビの頭が付いているタイプだ。
彼は毒を吐くことは無い。代わりに…
「かぁ~てやんでぃ!何だってこんな寒い日に外に出るんだよバカヤロー!」
毒の代わりに毒を吐く。
ようするに口が悪いのだ。でも、人の悪口とかは言わないので、本当は良い奴なんだろう。
「昨日よりは寒くないべ~。あとさ~、最近肥満気味じゃない?運動するべよ~」
「ギクギクッ!ふ、太ったのは認めるけどよぉ、それもこれもレッドキャップの野郎が作る飯がうめぇのが悪い!」
コカトリス君は自分の尻尾と喋っている。
彼の尻尾のヘビは、それ単体で意識を持っているらしく、よく二人で言い合いをしている。
上の鶏君は口が悪いのに対して、尻尾のヘビ君は訛りがあるのが特徴だ。
コカトリス君というと上の鶏君の事で、尻尾の彼を呼ぶときはヘビ君って言ってる。
「あら~じゃ~もっとおいしいご飯を作るために、買い物お願いね」
「チッ、しゃーねーな。おい、ユート、さっさと行こうぜ。寒くてかなわねぇよ」
「うん、そうだね」
昨日よりは温かいのでマフラーは必要ないと思っていたが、寒そうなコカトリス君に巻いてあげる。
小っちゃい声で「おぅ、悪ぃな」と照れ臭そうにしているのが可愛らしかった。
なんだろう、ヘビ君がちょっとニヤニヤしている。
「まったく、コカは素直じゃないだなぁ」
「うるせぇ、トリス!」
あぁ、上の鶏がコカで下のヘビがトリスなのか。
僕もそうやって呼んだほうが良いのかな?
「ん~オラはヘビ君でいいだよぉ」
「だな、俺もコカトリスでいいぜ。もともとは俺が、俺様がコカトリスだからな!」
そっか、じゃ~そろそろ買いものに行こうか。
今日は鶏肉を買いに…ん?コカトリス君がジト目でこちらを見ているけど。
「なぁ、ユート。俺様、一応鳥だぜ?鳥と一緒に鶏肉を買いに行くってお前…」
あぁ、そういえばそうだ。共食いになっちゃうのか?
でもリクエストは唐揚げなんだよね。
…そうだよね、鳥の唐揚げ以外でも魚とか海老の唐揚げでもいいか。
「気にしないでいいだよぉ、ユート。コカは最後の最後まで外に出ないで済む方法を模索してるだけなんだなぁ」
「うっせーぞ、トリス!」
「だいたい、コカはササミの梅しそ巻きとか軟骨の唐揚げ、砂肝に焼き鳥と鳥料理大好きじゃねぇべか」
「私は鳥の唐揚げがいいのさ~。魚とか海老の唐揚げは苦手さ~」
おっと、さりげなくお風呂場の方からメロウ君がアピールしている。
そうなんだよなぁ、おかげで我が家ではお刺身やお寿司が食卓に上がることは少ない。
まぁ、メロウ君が寝た後に夜食として出てくることはあるけどね。
あとは外食くらいか。外で食べると高いんだよねぇ…。
お金が飛んでいくけど、バイトしている妖精さんたち助けてもらってるし…。
あれ?なんだか僕、ヒモのダメ人間っぽい?このままじゃいけないな。
「ほら、ユート。何難しい顔で考え込んでるんだよ。オラ、行くぞ」
コカトリス君が僕の後ろに回り込んでぐいぐい背中を押してくる。
口は悪いが本当は優しい彼らしく、背中をぐいぐい押してくるが僕が躓かないくらいの絶妙の力加減だ。
鳥の羽毛のモフモフが服越しでも伝わってくる。
このツンデレさんめ。
僕はつい口元を緩めてしまう。
今日は奮発してコカトリス君の好きなものを沢山買ってあげようかな。
鶏肉か…今日は割引シールが貼られているといいな。
安ければ明日も鳥料理だな。レッドキャップ君に何をお願いしようかな。
チキン南蛮とか、竜田揚げ、チキンライスとかいいかも。
外に出た僕たちの間を、暖かい風は歓迎してくれるように通り過ぎて行った。
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