第8話 スプリガン

やっと掃除もひと段落付いた。


ただいま現在、お昼の12時前。

掃除中、換気の為に開けておいた窓をそっと閉める。

窓から差し込んできた日差しも高くなり、風も昨日よりも少し暖かい。

マンドレイク君は小っちゃい体で一生懸命掃除を手伝ってくれて、疲れたのか今は植木鉢の中でお休み中だ。

ケットシー君とレプラコーン君は「頭痛が~」「ニャー」って言いながら別室で寝ている。


今日も何かいいことがありそうだね。


根拠もなく何となくそう思ってしまう。

昨日よりは少し暖かいし、みんなと一緒にお花見にでも行こうかな。

桜の下で最近飲めるようになった日本酒でもあけるか。皆は気に入ってくれるかな?

深緑萌える季節にピクニックとかもいいな。

そんなことを考えていると玄関がガチャリと音を立てた。


「うぅ~疲れた~~ただいまなのじゃ!」

「あぁ、お帰り、スプリガン君。バイトお疲れ様」


この時間にバイトから帰ってきた彼はスプリガン君。

イングランド出身で、体の大きさを自在に変えることが出来る宝を守護する妖精だ。

彼が何故日本でバイトをしているのかというと…


「あぁ、そういえばユート殿ぉ!今日はバイトの帰りに寄ったゲームショップで超レアなソフトを見つけてしまったのじゃ!」

「…それ、お値段はいくらぐらいしたのかな?」

「聞いて驚くのじゃ!なんと2万円なのじゃ!」


おいおい、お宝を守護するはずの妖精さんが浪費家って、聞いたことないよ。

スプリガン君は凄い笑顔で今日買ったというゲームソフトに頬ずりしている。


そう、彼は浪費癖があるらしく、守っていたお宝を売って自分の欲しいものを集めていたそうだ。

僕についてきた後なんかは大変だった。

なんと僕の財布から勝手にお金を使ってしまったことがあった。

幸い預金通帳の中身までには手を付けなかったみたいだが、それでも手持ちのお金をほぼ全て使われてしまった。


僕についてきた他の妖精さんたちは大激怒。

夜を徹してスプリガン君の大説教大会が開かれることになった。


さすがに反省したスプリガン君は、バイトをして僕の家計を助けるという事で皆の許しを得ることができた。

僕はそこまでしなくてもいいと言ったんだけど、妖精の皆は納得しなかった。

スプリガン君も、ぜひ働いて返したいと言うのでバイトをしてもらう事となったんだ。

今では僕の生活費を稼いでくれている。


他にも僕の為に生活費を稼いでくれている妖精さんはいるのだが、なんだかヒモっぽいくて少しやだなぁ。


「今日は夜通しこのゲームでザントマンちゃんと遊ぶのじゃ~」

「あんまり夜更かししないようにね」

「大丈夫なのじゃ~今日はバイト休みなのでしっかりやりこむのじゃ~」


何が大丈夫なのだろうか。

ちっとも大丈夫じゃないよね、それ。

僕の言い方が悪かったのだろうか。


「大丈夫なのじゃ~今から夜までガッツリ寝て、起きたらやるのじゃ~」


スプリガン君はそう言いながらパジャマに着替えて僕の机の引き出しを開けている。

大きな欠伸を一つすると、みるみるスプリガン君の姿が小さくなっていき小指くらいの大きさになっていく。


「ん~やっぱ日本のレトロゲー、クソゲーは最高なのじゃ~。今晩が楽しみなのじゃ~」


彼も日本の生活を満喫してくれているようでよかったよ。


「晩御飯の時間くらいに起こしてほしいのじゃ~。あと机の引き出しを閉めてほしいのじゃ」

「はいはい、ゆっくり寝てちゃんと体を休めてね」

「あと、レッドキャップちゃんには今日は唐揚げがいいと伝えておいて欲しいのじゃ~!んじゃ~おやすみなのじゃ!」

「おやすみ、よい夢を見てね」


スプリガン君もネコの王様ほどではないが、なかなかに自由人だな。

しかも勝手に晩御飯の指定まで…。


「あら~お料理を作るアタシからしたらリクエストがあった方が助かるわ~献立を考えないで済むし」


キッチンからレッドキャップ君の声。

う~ん、確かにそれは考えたことが無かったな。

そういえば、よくうちの実家でも母が一番困ることが父が何を食べたいか言わないことってボヤいていたな。

僕も今後は献立のメニューを考えるのに協力しよう。


「あら~嬉しいわね。じゃ~唐揚げ作るのに必要な鶏肉を買ってきてくれるかしら?」


仕方ないな。今日はレプラコーン君は別の場所で寝ているのでブーツで買い物に行けるな。

今日は温かいからマフラーもいらないし…。


そうだ、ちょっと出かける前に…


「誰か、今から僕と一緒にお買い物に行く子はいるかな?」


一応、声をかけてみると


「あぁ~オラも行くだよぉ~」


のんびりとした声が聞こえてきた。

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