第12話 グレムリン

「はぁ…電子レンジ、どうするかな」


僕はシルキーさんが壊してしまった電子レンジの前で腕を組んで悩んでいた。

確かに、古い電子レンジなのでいつ壊れてしまってもおかしくない物ではあるのだが、今から新しいものを買いに行くのもなぁ。

家電量販店に行ってすぐ持って帰れる物なのだろうか。

オーブン機能がない単機能レンジでも結構な重さがする。車でもないとキツイだろう。

かといって配送とか取り寄せになっても、早くても明日、遅ければ一週間は時間がかかる。

その間は電子レンジの無い生活か…。


レッドキャップ君の怒りももっともだよな…。

何とかならないものだろうか。


「そんなこともあろうかと、心強い味方を呼んでおいたの~!」

「へぇ、シルキーさん。誰を呼んだんだい?」

「んっふっふ~秘密なの。もうすぐ来ると思うの~」


ピンポーン。


玄関のチャイムがなってドアがノックされる。


「はーい。今出ます」

「ユートっち~久しぶりッス!」

「あぁ、グレムリン君。お久しぶりだね、よく来てくれたよ。さ、外は寒いだろ、部屋の中にお入り」


彼はグレムリン君。イギリスの飛行機乗りたちの間で噂になった妖精だ。

なんでも非常に悪戯が好きで、機械を勝手に壊してしまったりする厄介な妖精らしい。


ただ、彼の場合は…。


「うん、これならすぐに直るっス。余裕余裕っス」


物を壊すよりも直す方が得意らしい。

よくシルキーさんが壊したものを直しに来てくれる。

電子レンジの用の電化製品だけじゃなく、割れてしまったお皿やコップも元通りに直してくれる。


「いや~いつも悪いね。せっかくだから、今日は家で晩御飯でも食べていくかい?」

「あ~ユートっちのお誘いは嬉しいんだけど、このあとも予定入っちゃってるんっスよ~」

「残念なの~」

「ウィルオーウィプスっちの家のランタンが壊れたっつって直しにきてくれ~って。あいつ、自分が火の玉だってこと忘れてるんッスかね」


ウィルオーウィプス君か。

彼にも最近会ってないから会いに行かないとな。


「でも最近、バイト忙しいらしいッスよ~。何でも家で電気代つかいすぎて、バイトのシフト増やしてもらったとか」


電気代がきついのならば僕の家に住めばいいのに。


「ところがそうもいかないんッスよ~。だってユートっちの家、夜行性の妖精が沢山住み着いてるじゃないっすか。

ウィルオーウィプスっちも、自分の光が明るいからって気をつかってるんッスよ」


う~ん、そっか。確かにそうかもしれないな。

気をつかわせてしまったか。今度、菓子折りでも持ってウィルオーウィプス君の家にでも行くか。


「さて、そうこうしているうちに完成っス!」

「うわ~ピカピカなの!ありがとうグレムリンちゃん!」

「流石だね、新品みたいじゃないか」


修理の終わった電子レンジが僕の前に現れた。

修理前はレンジの室内に黒ずみがあったのが、今はすっかり綺麗になっている。

レンジを開けるときにキィキィ鳴っていた音もしなくて、本当に新品になったみたいだ。


「このくらいお茶の子さいさいっス。さらにお世話になっているユートっちの為に、ちょっと改造しておいたっス」


へぇ、見た目は全然変わらないんだけど、一体どこを改造したんだい?


「基本は変わらないんっスけど、レンジの下に引き出しを設置してるんで引っ張ってみてほしいっス」


確かに、レンジと台の間に引き出しみたいなものが設置されている。

引っ張ってみると…。


「液晶画面になっていて、タッチパネル対応になってるっす。レシピも100くらい入れておいたっス。あと音声認識機能もつけておいたっスよ~」


…えぇ~魔改造しすぎじゃない?


「機能的にも、オーブン機能も無理やりくっつけておいたので、レッドキャップ君も喜んでくれるハズっス」


日本に来て魔改造の技術を学びすぎた結果なのだろうか、カオスな電子レンジが出来てしまったぞ。

まぁ確かにレッドキャップ君なら喜びそうだな…。

あ、そうだ。ここまでの改造の腕前を持つグレムリン君だったらもしかして…。


「よかったら、このボロボロにされた洋服も直してほしいんだけど…」

「ん?どんな機能を付けるっスか?お勧めは、オートナビ機能と全自動エアバッグっスね!」

「いや、ごめん。やっぱりいいや」


やれやれ、改造のし過ぎにも困ったものだ。


「じゃ~ワタクシにこのレンジの使い方を教えてほしいの~」


また壊すから止めて!!

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