第5話 今まで何回か転生するも、すれ違いだったそうです

 高岡とベンチに座る。高岡が俺のことを、じっと見つめる。顔がどんどん迫ってくる。近い、近い!

 

 俺は少し高岡から距離をとる。また、高岡が距離を詰める。これ以上はベンチから落ちるよ!?

 俺は観念して、その位置に落ち着く。すると高岡が話しだす。


「やっと、よき年頃で出会えました」

「何言ってるの?」

「転生したのは、これが初めてでは、ございません」

「オーイ、大丈夫か? 高岡? 漫画の設定から戻ってこーい」

「義親様は忘れてしまわれたのですか!」

 

 高岡が俺の腕をガシッと掴む。痛い。コワイ。高岡の話はこんなんだった。


 それは江戸時代の頃。俺と高岡は出会ったそうな。お互い80歳オーバで。


「藤姫〜」

「義親様〜」


 ヨボヨボのふたりは抱きしめあい再会を喜ぶも、親族に引き離され、その後、二度と会えなかったそうな。


「じーちゃん、帰るぞ」

「ばーちゃん、なにやってんだよ」


 次に出会ったのは昭和初期で俺が50歳で、高岡が5歳。

「藤姫! やっと出逢えた」

「ギャーッ!!」


 高岡の悲鳴を聞きつけた大人が駆けつけ、幼女に抱きついた俺は変態とみなされ、二度と高岡に近付くことは出来なかったそうだ。


「あの時は失礼致しました」

「いや、俺は記憶ないし」

「そうなのです。今度は義親様が記憶がないという悲恋……」


 高岡がグイグイ近付いてくる。

「義親様、人気がございませんね」


 更に高岡の顔が迫る。怖い。襲われる! 逃れようにも力が強い。叫ぶ? 誰かに助けを求める? 恥ずかしすぎない?

「高岡、ストップ! ストップ!」

 あー! こんな情けないことしかいえない。すると、高岡の行動がピタリと止まる。


 俺のカバンに付いている、白い花飾りに目がいったようだ。陶器で出来ているキーホルダーで母親が趣味で作ったものだ。


「キレイにございますね」

「あ? コレ? 母親が趣味で作ってさ。俺のカバンにも勝手に付けるんだよ。やめろって言ってるんだけど」


 さらに高岡が物欲しそうに見ている。


「い、いる?」

「よいのですか!?」


 高岡に花飾りのキーホルダーを手渡すと、キラキラした目で嬉しそうにそれを見つめる。その表情に少しドキッとする。いや、錯覚だ。どうした俺!? オタクのブスだぞ!?


 俺は、気付く。今が千載一遇のチャンスだ! 走って逃げる。


「じゃあな! 高岡!」


 走り去って行くとき、少し心が、ザワッとした。高岡の嬉しそうな顔を思い出したのだ。あれ? なんか少し何か覚えが……。 

 

 いや、ずっと変なことを聞いてきたから、ただの洗脳だ! 俺の彼女はのえるちゃんなんだから! とにかく俺は高校生活を平和に過ごすんだ。あんなオタクと一緒にいたら、すべてが台無しだ。

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彼女はじくう的〜妄想!?真実!?俺の前に現れた戦国の姫と名乗るオタク少女 おしゃもじ @oshamoji

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