第4話 クラスのアイドルは農民の出だそうです

 「いい加減にしてください! 高岡さん! 授業の邪魔です」


 のえるちゃんから発せられたものとは思えない声と、勢いにクラスメイト達が驚き沈黙してしまう。

 だが、だが、高岡も黙っていないんだ。

 こっちも机を強く叩く。


 「そち! どこの出のものじゃ!? どうせ農民の出であろう!?」


 何言ってんの!? クラスのスーパーアイドル、のえるちゃんを農民って。いや、農家の人あってこその自給率だし。今や農業女子とか流行ってるし。いや、そういう問題じゃないか。高岡が、のえるちゃんをディスッてるってところが問題か。いやいや、そんなこと考えている場合じゃない。

 のえるちゃんが、すごく震えている。悲しんでいるのではない……怒りで震えているみたいだ。いや、なんか、のえるちゃんも怖いんだけど。


 「はい、はい。お終いー。授業続けまーす」

 

 少し大きめの教師のその声で、のえるちゃんと高岡は煮え切らなそうだが、お互いから視線を外した。

 大人ってなんやかんやすごいよね。今日ほど教師を尊敬したことはないよ。さっき、ちょっと失礼な思考を巡らせてしまってごめんね。

 

 

 高岡というアクシデントはあったものの、今日もクラスの人気者である仮面を剥がすことなく、学校を後にし、途中まで一緒に帰っていた友達とも、ついさっき無事別れた。

 

 なんやかんや、一人の時が一番落ち着くな。どんなに繕っても、俺の根っこは、全然変わってない……。

 

 そんな風に、思春期っぽく物思いに耽っていると、背後に視線を感じる。


 まだだ、まだ終わっていない。


 振り返るとやっぱり高岡がいる。

 俺が振り返ったことに気づくと、さっと電柱の裏に隠れた。けど、バレバレだからね!?

 

 強行突破だ! 走るのは厳禁! なんでって? 言ったじゃん、変な女走りだから! でもそんなこと言ってられない。

 

 精一杯の、本当の精一杯で走る。

 しかし、背後に、アスリートのように整った息遣いを感じる。本当に怖い! 追いかけてきてるよ。しかも、めちゃくちゃに速い。高岡も運動神経悪かった気がするんだけど。


 俺はとうとう公園で力尽きる。自慢じゃないが、俺は持久力もないんだ。


 「義親様」

 高岡はちっとも息切れしていない。問いかけずにはいられない。

 「高岡さん、そんなに運動神経よかったっけ?」

 「戦国時代の記憶を取り戻したら、良くなりもうした。今日の体育のスポーツテストやらは、1位をとりもうした」

 「トップは、のえるちゃんじゃないの?」

 「あの女は負かした次第。名門吉井家の名を汚さずにすみもうした」


 どうしよう。どこまでも戦国設定が抜けていない。

 このやばい女をどう処理したらいいか、まったく分からない。


 「義親様。お伝えしたき儀、ござりまする」

 「え? 話?」


 高岡が俺の二の腕を掴み、有無を言わさず、公園のベンチへ連れていく。

 すごい腕力なんだけど!!!


 「さっ、義親様」

 

 丁寧にベンチに座るように、勧めてくれてるけど、もうとにかく家に帰りたい!


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