第3話 日本史の教科書は間違っているそうです

 そこへタイミングよく担任が現れた。「ほらっ、教室にさっさっと入れ〜」と、間の抜けた感じで俺達を誘導していく。

 この緊迫した空気を知りもしない、のんびりとした口調に、『人の気も知らないで!』

と、なじりたい気持ちにもなるが、助かったよ、先生! ヘタレな俺がバレずに済んだんだから、感謝しかないよ。


 しかし、ホッとした俺がアホすぎたんだ。日本史の時間に高岡が爆発してしまうんだから。


 日本史なんぞ眠くて仕方がない。しかも、だいたい日本史の教師は何故か温厚な奴が、多い。特に怒ったりすることはない。数学と体育は怖いしな。なんなんだろうな。まーどっちにしろ、ガキの面倒をみる職業なんて絶対に就きたくないな、俺は。

 なんで教師になったんだろう? 余程、自分自身の学校生活が楽しかったのか? 俺なんて、こんなに苦労してるっていうのに。恵まれてたんだなー。

 あっ、のえるちゃんは授業を真剣に聞いている。頭もいいから、さすがだなー。


 そんな風に、ろくに授業も聞かずにボーッと、のえるちゃんを美しい横顔を、うっとり眺めていた。

 そんな俺の目を覚ます大きな声がする。


「名門、吉井家が載っていないではないか!」


高岡だ!

当然、教師も驚く。

「どうした? 高岡??」

「そちは、歴史に精通している者であろう?」

「うん。先生だからね」

「この書物に、名門、吉井家が載っていないとは、どうしたことじゃ!」

「うん? 先生は聞いたことないな」

「そち! 吉井家を知らぬと申すか。吉井家は源氏の血をひく名門。戦国時代には名を馳せ、その領土は他国の武将も恐れるほど……」

パッと、高岡が俺の方を見る。なっ、なんなんだ??? 


「そして、そこにおられるのが、何を隠そう、吉井家が嫡男、義親様であられる。義親様も、なんとか言ってくだされ」


えーーーー! 何なんだ高岡。本当にどうしちゃったんだ。お前みたいなオタクは大人しくしているのが、生き延びる最善の選択なはずなのに。俺がそうだったから、分かるんだ。てか、どうでもいいから、俺を巻きこんでくれるな。

 さらに追い打ちをかける、仕打ちが起きる。


「呼んでるぞ。 義親様」

 

 教師まで、俺を『義親様』呼ばわりしてきた。このままじゃ向こう半年はあだ名が『義親様』だよ。なんとか、阻止しなくては!


「先生! 俺を巻き込まないで!」


 クラスに爆笑が起きる! なんてこった……、クラスの人気者なことを忘れていた!!! これじゃ、本当にあだ名が義親様になっちゃうよ。

 更に、高岡が追い打ちをかける。


「そち!名門、吉井家が嫡男、吉井義親様になんて口の聞き方じゃッ」

高岡が、教師を指差しながら激怒している。なんか俺のために怒ってくれてるみたいだけど、もう止めてくれ。


「どうした、高岡! 先生が悪かった。新しい漫画の設定が出来たのか? また先生に見せてくれな」

「架空の話だと申すか!」


 高岡の演技とは思えない迫力に、クラスで笑いが起きている。あああ……。なんか不穏な予感? 俺の高校生活大丈夫かな?? いや、こんなオタクに壊されるはずがない!


 机を強く叩く音がする。


 のえるちゃんだ!


 

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