帰ったらゲームの予定でした

 やっと仕事が終わりました、帰ります!!

「お先に失礼します。お疲れ様でした!!」

 鬼気迫る勢いで帰りの支度をして、職場を飛び出します。

 帰ったらゲーム、帰ったらゲーム……!!

 早足で家に急ぎましょう、いっそ魔法使ってひとっ飛びというのもありかもしれません。

 唐突に首根っこを掴まれました。

「ぐえっ!!?」

「……何一人で帰ろうとしてんの?」

 同僚さんでした、いつも通りの淡々とした声ですが、今は逆に何故かそれがこわいです。

 何か用事でしょうか? 昨晩すでに今日は忙しいから一人で帰ると言っておいたはずなのですが……

「ど、同僚さん……すみません昨日言いましたが今日は……」

「うるさい。むかつく。こっち来い」

「え」

 教会裏の人通りがない場所に引きずり込まれました。

「あの、同僚さん」

「だ、ま、れ」

 強く抱き寄せられて、口付けされました。

 突然の奇行に思わずむせましたが、同僚さんはやめてくれませんでした。

 むせた拍子に開いた口の中に無理矢理舌が割り入れられて、あちこち探られました。

 ついでに引きずり出された舌を噛まれました、すごく痛いです、鉄の味がします。

「…………ひ、どい」

 解放された後、呼吸が乱れた状態でなんとかそれだけ絞り出しました。

 涙がボロボロ溢れてきました、だってすごく苦しかったのですもの。

 普通に酸欠で死ぬかと思いました。

「この程度で泣くなよ、大袈裟だなお前」

 涙で濡れた目をべろりと舐められました。

 ざ、ざらざらする……!!

 そして何故舐めたのでしょうか!!?

「ああ、もうそんな顔で見上げないでよ……ぐちゃぐちゃに犯して半殺しにしてやりたくなるからさあ?」

「……っ!!?」

 え? 半殺し? なんでそんな話になってるんですか?

 やっと呼吸が整ってきたので、なんとか抗議の声をあげようとしたところで、同僚さんが凄みのある笑顔でこちらを見下ろしました。

「今日お前を持ち帰るけど、別に構わないよね? お前は俺の女だもんね?」

「持ち……っ!!? それは一体どういう意味で……?」

「説明してあげた方がいい?」

「い、いえ…………いやでも覚悟が……今汗臭いですし……そういうのは……あと今日は時間がない……」

 ネタバレを踏む前にストーリーを進めてしまいたいのです、あと今佳境なので。

 あと、やっぱりそういうのは……できれば週単位で段階を踏んでもらいたいのです。

 贅沢を言えば月単位で、というかですね婚前にそういうのは……

「シャワーくらい貸すよ。あとでいくらでも抵抗していいし暴れていいから。今は大人しくしてな」

「……っ」

 抵抗する女を無理矢理手篭めにするのがお好きなのですかと言おうとしたところで、彼が私を抱えて突如その場を離れました。

 続いてとんでもない轟音が響きます。

 つい先ほどまで立っていた位置を見たら地面に大穴が、ついでになんかとてもやばそうな魔力が漂っています。

 確実に禁術でしょう。しかも即死級でした、当たってたら塵でした。

「ね?」

「な、なぜ即死級の魔法が飛んでくるのです……!?」

「いちゃついてればひがみたくなる寂しい奴が何人かは出てくるだろう? 今のはそういう残念な奴からの攻撃」

「だからといってこれはやりすぎです!! 外道の所業ですよ当たってたら塵芥でしたからね今の!!?」

「まあね。だってさ? なんか弁明はある? 外道さん」

「それはこちらのセリフだ。何をしているお前達」

 と、出てきたのは上司でした。

 あ、待ってくださいこれ死亡フラグってやつなのでは?

 どうしましょう、上司のことをそうとは知らず外道とか言っちゃいました。

「何って? 可愛い女を手篭めにするために持ち帰ろうとしてるところだけど」

 彼は煽るような好戦的な笑みを浮かべながらピアスを見せつけるように私の髪を軽くかき上げました。

「ほう?」

 上司はどうやら職場で起こった不純異性交遊に相当お怒りのようで、額にびきりと筋を立てました。

 どうしましょう、ちくせうこんなことになるのならなりふり構わず全速力で家に帰るべきでした。

 せめて職場から離れていれば同僚さんに持ち帰られただけですんだのに。

「別に怒る必要なんてないだろう? うちの教団ではこういうの禁止されてるわけじゃないし」

 髪をかき上げた指先で今度は唇を撫でられました。

 ちょっとわざとらしいくらい見せつけてますが、そこまでやる必要はありますかね?

 上司の顔がさらに不機嫌なものに、重苦しい敵意と殺意がこちらに向けられます。

「だから別にこいつを俺のにしてもなんの問題もないでしょ? 俺にとってはただの可愛い女だけど、お前らにとっては大した価値のない聖女のクローンの出来損ないだもんね? ……殺さなければ何したっていいだろう?」

 じゃあね、と同僚さんは片手でひらひら手を振りました。

 その瞬間、上司の手からピュアブラックな即死魔法が放たれました。

「ぎゃあ!!?」

 とっさに身替わり鏡を放って難を逃れました。

 身代わり鏡は粉々に砕けてしまいました、あの鏡は結構な強度だったはずなのですが……

 それにしても危なかった……とっさに出したのが身代わりだったからよかったものの、万が一反射鏡でも使ってたら即死級の魔法を上司に跳ね返して殺してしまっていたか、反射しきれずに鏡が壊されてこちらがお陀仏か……

「危ないなあ……ありがとね、まあ別に今のは避けられたけど」

「同僚さん、どうしましょう……すごく怒ってますよ……!」

 小声でこそこそ囁くと、大丈夫だよと頭をぐちゃぐちゃに撫でられて、離されました。

「ここでおとなしくしててね。動いたら命の保証はできないから」

 何故かもう一度頭を撫でられました。

 扱いが幼女……

 なんて思っていたら、核爆弾が爆発したような殺し合いが始まりました。

 うわあああぁ……何か凄まじいとしかコメントしようがないのですが、何がどうなってるんです?

 即死級や禁止級の魔法がばんばん飛び交っているということだけはかろうじて理解できたのですが……

 どうしてこんなことに……

 いえ忘れかけていましたが、そういえば同僚さんの当初の目的ってこの殺し合いでしたね。

 とか思っていたら、自分の顔のすぐ横をかすっただけで全身が消し飛びそうな魔法が通り過ぎて行きました。

 へたり込みました。腰が抜けたのです。

 こ、怖い怖い怖いです。

 まだ死ねないんですよ、私。

「――俺の女に手を出さないでくれる?」

「誰がお前のだ」

 半泣き状態でそんなセリフを聞きました。

 不純異性交遊が引き起こした殺し合いのあまりの凄まじさに気が遠くなりました。

 あ、でも同僚さん楽しそうですね、殺意がフルスロットルで笑顔がすごく怖いですけれども。

 気が遠くなってきました。

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