ゲーム楽しい

 同僚さんとお付き合いを始めてから三週間くらいたちました。

 休日にお菓子を買いに行って一緒に食べたり、休憩時間に一緒にいたりしているくらいの距離感ですが、それでも友人ではない雰囲気は醸し出ているような気がします。

 下っ端さんの間でもちょっと噂になっているようです。

 上司が知っているかどうかは知りませんが、何もリアクションがなさそうなので多分知らない気がします。

 あと、すごく今更感があるのですが、多分同僚さんはどうやら普通に私のことが好きなようです、正直言って正気を疑っているのですが、どうも彼は正気であるようです。

 こんなののどこが好きなのか、意味不明なんですけどね……

 まあ、今の私のはどうでもいいのですけどね、些事です、些事。

 だって新しいストーリーがリリースされたのですもの!!

 なんの話だって? もちろんいつもやっているゲームの話です。

 リリースされたのは昨晩、徹夜にならないレベルで進めましたが、まだまだ終わりませんでした。

 なんで休日の前々日の夜にリリースとか……でも明日はお休みなので、仕事が終わって帰れば徹夜で終わらせられますね。

 多分今は中盤戦くらいでしょうか、今回のお話は序盤から敵がぶっ飛んでいるので結構なピンチが多くてハラハラします。

 ですが仕事はしっかりとこなします、いつも以上の分量をいつも以上に丁寧に。

 だって、残業なんかしている暇などないのですから!!

 鬼気迫る勢いで仕事を片付け、やって来たのは楽しい楽しいお昼休憩。

 そういえば最近上司と顔合わせてませんね、理由は知らないのですが上司の代わりに教祖の娘様から指示を受けることが多くなったからでしょうか?

 突然のセクハラやらパラハラに警戒しなくてよくなったので気が楽です、特に今日何かされたら咄嗟に反撃してしまっていたので。

 とか思いながらゼリー飲料を5秒で吸い尽くし、通信機にイヤホンを繋いで、いざ。

 始業前の空き時間に少し進めていたので、ストーリーではなく戦闘パートからの再開になります。

 いきなり敵の数がえげつないのですが、果たして昼休み中にカタをつけられるでしょうか?

 と、夢中で通信機の画面を突いていたら、唐突に身体が持ち上げられました。

「…………!」

 そのまま椅子ではない場所に座らされたのがわかりました。

 振り返ると、同僚さんの非常に機嫌の悪そうなお顔が見えました。

 どうも私は彼の膝の上に座らされているようでした。

「……あの、なんでしょうか?」

「別に、気にしないで」

 逃げられないようにお腹のあたりをがっちりホールドされました、ついでに軽く揉まれたので変な声が出ました。

 先輩方がなんか危険な珍獣でも見るようなあっけらかんとした顔でこちらをみていました。

 恥ずかしいです。

「あの、離していただけないでしょうか?」

「やだ」

 拗ねた子供のような顔で、彼はさらにホールドする力を強めました。

 無理矢理脱出するのは……不可能でしょうね。

 しばらく待ってみましたが、特に何も言われなかったのでそのままゲームを再開しました。

 うわあ……多分クリティカル食らってますねいつの間にかHPが2割切ってます……

 敵の攻撃中に膝に座らされたので、画面を見ていないうちに一番のアタッカーのHPがだいぶ削られてしまっていたことに気付いて慌てて回復させます。

「えっ……その流れでゲーム続けんの?」

「あなたたち、一体どういう関係なのです……?」

 先輩方っぽい声が聞こえたような気がしたのですけど、多分気のせいなのでゲームに集中することにしました。

 休憩時間が終了する5分前にアラームがなりました。

 長丁場になりそうだった最初の戦闘を終えて、その二つ先まで話を進めることができました。

 ものすごく続きが気になるところですが、残念ながらお時間となってしまったので、手洗いその他を手早く済ませて仕事に向かうとしましょう。

 イヤホンを引っこ抜いてカバンの中に仕舞おうと立とうとして、立てませんでした。

 そういえば同僚さんの膝に座らされていたということを思い出して、声をかけました。

「同僚さん、時間なので離してください」

 返答が返ってこなかったので振り返ると、同僚さんは私を抱えたまま寝ていました。

「……同僚さーん、起きてください、休憩時間終わりですよー」

 言いながらついでにガタガタ動いてみると、やっと同僚さんは目を覚ましました。

 寝起きがよほど悪いのでしょうか、同僚さんはその後ずっと機嫌が悪そうでした。

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