第5話『冒険者になろうよ①』

 朧気、朧夜、朧月。

 燃え盛る炎よりも深く紅い眼前の景色。体は揺れるが力は入らず、感覚も不確かだ。辛うじて両足が動いているのを認識しているが、その動きが明確な意思によって引き起こされているかというと、そうとは言えない。

 紡状の光源、『標』に入ってから不快な喧騒が消え、辺りには静寂が訪れている。


「(皆は……ぶじなようだ………。)」


 しかし、その静寂は…『』という事では無いのだろうか?そうでなければ幸いなのだが…… 。

 意識が遠退き、世界が暗転する。




「皆!大丈夫か!?」

「ええ、わたくしはなんとか……」

「オレも大丈夫だ!」


 紡状の光源に飛び込んだ次の瞬間、なにやらそこはかない異常感と共に……詳しく表すと『自身がに成ったような感覚』(痛みはなかった)と共に、一行は何やら暗く、じめじめした林のような所に立っていた。

 暗い夜、月明かりだけが木漏れ日のように、地面に薄光の斑点を写している。

 付近に人工的な灯りはなく、月明かりによって周りが見える位の明るさであったが。何処からモンスターが出てくるのか分からない。


「ヤッギー、大丈夫か?」

「………。」

「気絶してるようだな……」


 額にしわが寄った状態で気絶している。


「あんまりのんびりできるいとまはないですよ。」

「ああ…、分かっている。」


 辺りには人工物がなく、自然に囲まれている。その為か、空気は澄んでおり、星空が綺麗だ。しかし、そんな事を見ている余裕は彼らになかった。

 早急にヤッギーを休ませることのできる場所を見付けなければならない。


「出血は収まったようだけど、起きる気配がないな」

「もし、モンスターとであったらヤベーよな?」

「多分、全滅しますよね。」

「………近くに町、いやせめて人の往来がありそうな道があればいいんだがな」


 辺りを見渡す。木々の間を縫うように見渡す。使えるスキル全て使い、この状況をどうにかできるモノを探し求め、彼らは首を左右前後と動かし続ける。

 その動きは『ちょっと離れた所、見てくる』と言って武器を構えながら遠く行ったユージが帰ってくるまで、続いた。





 ──ミリガンの街、西門──

 どうも。私は西門の警備を担当しているジェフだ。

 昨日、珍しい客が来た。

 その時は私が寝ずの番であった。

 私は特別夜目が効き、真っ暗でも手に松明ひとつあれば20mも遠くを見ることができた。その上昨日は満月であった。頑張れば45mも遠くを見ることができただろう。

 当時は深夜であったが、街の中心通りが賑やかである。

 この国の街の真ん中には精霊樹がそびえ立って在る。と言うか、精霊樹がそびえ立っている所に街ができた。

 私たちは精霊様の御加護を受けて生活している。もし、精霊様が居なかったら………考えるだけで身震いするな。

 精霊樹にはモンスターも寄り付かないし、なんか道具の調子もよくなるようで、ランプなんかの使い勝手がよくなる。

 精霊様、様様だ。


「………ふー、いい景色だ…」


 宴会か喧嘩か、ランプなどの灯りが揺らめいている。そんな様子をこの城壁の上で見るのが、誰の出入りもない夜の西門に居る私の日課であった。


「(ちゃんと仕事はしているぞ。)」


 私の仕事は主に門の警備だ。

 警備と言っても、門の外に槍を持って立ってる訳じゃなくて、門の上で外を見る係だけどね。

 こんな時間だが、時々がやってくるときがある。と言えば、時間外れの行商人だったり、モンスターの群れだったり。


「すみませーん!助けてください!」

「(そうそう、あんな感じに満身創痍の冒険者だったり………)」

「え!!」


 暗闇から表れたのは3人、いや4人だった。

 一人が一人を背負い、残り二人が辺り見渡している。


「(何かに追われているわけでは無さそうだが、背負われている人はぐったりしていて怪我をしている可能性が高い。」

「門の横の潜戸くくりどを開けるから、ちょっと待ってくれ。」


 ジェフが城壁の上から身を乗り出して叫んだ。


「分かった!」


 四人の中でも一番若そうな男が返事をする。


「おーい、グレイ!飯と寝床との用意だ。」

「あいよー 」


 ジェフはダッダッダッと城壁内の階段を駆け下り、潜戸くくりどを開けた。


「どうも、ありがとうございます。」


 開けた先に居たのは変わった風貌をした四人であった。





「暗くて足元が見えん」

「とりあえず、あの灯りがあるところまで行くぞ」

「山火事とかそういうオチはなんよな?」

「…………なきにしもあらず」

「……………」

「まあ、動かないよりましだ。ヤッギーの事もあるし」


 ユージが3人の元に帰ってきたとき、マイマイがを発見した。それは、月の位置から判断して東北東へと向かっているようだった。

 初めは一人二人の足跡だったが、次第に馬の蹄の跡、車輪の跡と増えていった。

 途中、明らかに!確実にと呼べるものを見つけ、その道を東の方向へ進んでいく。

 そしてとうとう、灯りに出会ったのである。出会ったと言っても遠く離れたところに、ぽつりと浮かんで見える明かりを見付けただけ。たとえ道の先に在ったとしても、確実に人工の光とは言えないのである。

 それでも、その不確実性は彼らの歩みを止めるに値しない。彼らは進むしかなかったのだ。


「柵だ……」


 月明かりが足元と照らし、道脇の柵と……


「看板があるぞ!」


 文字の書かれた看板を彼らに気付かせる。


「なんか書いてるかも!」

──この先、ミリガンの街──


 街か村か、どちらでもいい。兎も角安静にできる所であることが最重要であった。

 少し早足で進む。

 遠くで見えた光が、段々大きく見えてきた。そして、明かりが灯りであることに彼らは気付くこととなる。

 それは紛れもない人工の光だ。人口の光がある。

 壁があった。壁の上に灯火があった。壁の奥に仄かな輝きがあった。

 壁の大きさからと呼べるものが在ることを、雑踏のお陰で人が居ることを彼らは理解できた。


「よかった、街だ」


 安堵する。

 壁に近付いていく。

 さらにさらに壁に近付いていく。

 壁は石で出来ており、松明だろうか、赤い光に照らせれて荘厳めいて見える。強そうである。

 3人は壁の上に見張りがいることが遠目から気づいた。

 4人は灯りで照らされた範囲に足を踏み入れる。

 見張りの一人と目が合った。


「門の横の潜戸くくりどを開けるから、ちょっと待ってくれ。」

「分かった!」


 見張りが身を乗り出して叫ぶ。それにユージが返答する。

 こっちの状況を察したのか見張りはすぐに対応してくれる。

 ありがたいことだ。しかし!今の彼らは所属不明、身元不明の不審者である。


「(さぁ、どうすっかなぁ)」

「(どうしようかしら?)」

「(………寒ッ…)」


 そうこう3人が考えているうちに眼前の扉は開かれたのであった。

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