第14章:パオリーアの気づき
「お前は何人族だ?」
このときが、初めて私に興味を持ってもらえた瞬間でした。
ニート様に何度かご奉仕させていただいたことはありましたが、私の名前も聞いてくださらないし、興味すら持ってもらえなかったので、とても嬉しくって。
いつもイライラしていて、眉間にしわを寄せて怒っているニート様ですが、今日はとてもご機嫌がいいのか、時々ですが私の名前を呼んでくださいます。
また鞭打たれるのでは、と恐怖を感じていたのですが今日は誰もぶたれたり、鞭打たれる女の子がいなくて、ニート様にもそんな日があるのだと、安心しました。
いつも怒っているので、きっとこの方は寂しい方なのだろうと思っていましたが、何かの心境の変化でしょうか。私のような下賎な者にはわからないことですが、ニート様が上機嫌ということは私たちも安泰ということはわかります。
水浴びをさせていただいた代償に、部屋の掃除や便壺を運ぶ仕事を命じられましたが、ずっと狭い小屋に入れられていた私にとっては、とても楽しい時間でした。
みんなで、雑巾を絞って床を拭くのも、いつしか競争になっていたり、高いところを拭くために肩車をしたりして、楽しく過ごすことができました。
五人組に掃除をする部屋を分けましたが、私は年長者ですので年少者の多い部屋に入ることにしました。
綺麗で大きなお部屋で、こんなお屋敷に住んでみたいって憧れていたので、お掃除する機会をくださったニート様に感謝しかありません。
しかも、その後に掃除した部屋で寝泊まりしても良いと
部屋には大きなベッドが三つありました。これはきっとお客様用で私たちはこのベッドは使わせていただけないだろうから、ベッドとベッドの間の床を五人で分けました。
私は年長なので、少し広いスペースをいただいちゃったのですが、それくらいは許されますよね。
床の上に直接寝るとせっかく新しい服を支給してくださったのに汚したくなくて、私たちは裸になって寝転んでみました。
ひんやりとした木の感触は、ちょうど心地よくて、みんなで裸になってゴロゴロしていたんです。楽しそうに笑っていた女の子たち。あの子たちの笑顔を見るのは初めてかもしれません。
アルノルトさんが入ってきたときは、驚いてしまったのですが、ニート様が私を呼んでいるということで、急いで身なりを整えました。
ニート様は、たまに私たちのおっぱいやお尻をじっと見てくるときがあるので、気持ち悪いって思うこともあるのですが、今日のニート様がとても素敵に思えて、お呼ばれしたときは、なぜか嬉しかったのです。
お部屋に行くとき、アーヴィアとマリレーネも一緒でした。
アーヴィアがニート様のお気に入りなのだと思います。よく夜のご奉仕にも呼ばれていたようだし、今日も何かとお呼びがかかっていて、ちょっと嫉妬してしまいました。
ニート様のお部屋に行くと、ご奉仕のため呼ばれたと思っていたのですがアルノルトさんとお話があるみたいでした。私たちは、お話の後でご奉仕なのだと理解し、三人で静かに待つことにしたのですが、ソファに座るように仰って……あのときは、思わず変な声が出てしまいました。
だって、ビックリしたんですもの。
今まで生きてきた中でソファに座る機会なんてなかったので、ふわふわした感触がとても気持ちよくて、何度も立ったり座ったりしてしまいました。
「パオリーアは、何人族?」
ニート様が私のことを聞いてくださったときは、胸がドキドキしてしまいまして、胸の鼓動がニート様に聞こえないかと心配したくらい。
しかし、その後にもっとドキドキしてしまうことがありまして……
「犬人族の尻尾はどう言う形なのだ? 見せてくれないか?」
そう仰ったのです。私はアーヴィアのような立派な尻尾ではないし、兎人族の子達のような小さくて可愛い尻尾でもないので、恥ずかしくって。
でも、ニート様が私の尻尾が見たいとお望みならと、頑張って服をめくってお尻を出しました。
あのときは、本当に恥ずかしくて顔が熱くなってしまって。
後でマリレーネが私の真似をしてニート様にお尻を見せようとしたもんだから、もう恥ずかしくって、恥ずかしくって。
でも、綺麗な尻尾って褒めていただいて、自分の尻尾に劣等感を持っていたので、とても嬉しくて涙が出そうでした。
実はさらに、嬉しいことがあったのです。ニート様が私にお役目をくださったのです。
「パオリーアはみんなに毎朝起きたらベッドメイクをすること、部屋の掃除を毎日することをみんなに徹底させてくれ」
ニート様からの直々のお役目をいただいたのですから、これは一大事です。
急いで後でみんなに説明して回らなければと思っていましたが、どうしてもお聞きしたいことがあったので勇気を出して尋ねてみました。
今日のニート様はお優しいお顔をされているので、ご気分を害さないかと少々怖かったんですが。
「あの……ベッドも使ってよろしいんでしょうか?」
このとき、変なことを聞く奴隷だと思われなかったでしょうか?
厚かましい女だと思われていなかったかと、少し不安です。
しかし、ニート様は、こう
「ああ、かまわないよ。仲良くみんなで使っておくれ。でも、壊さないようにな」
ああ、なんてお優しい言葉でしょう。まるで人が変わったかのようです。
ニート様がおっしゃった言葉は、私にはこのように聞こえたのです。
◆
夜のご奉仕のために、ニート様のお部屋に残った私たちですが、三人でのご奉仕は初めてです。
一人ずつ呼ばれる夜もあれば、三人呼ばれても後の二人は立たされて見ているだけで、奴隷の子が気絶した時に次の子が呼ばれるのです。
三人が部屋に呼ばれたと言うことは、ニート様は私たちに乱暴して死んでしまった時にすぐ代わりをさせられるということだと覚悟はしていました。
誰が最初に呼ばれるのか、とても緊張してしまいました。
ニート様はじっと私たちを見ていましたが、急に大きな声を出されたのです。
「なあ、奉仕活動があるのなら、さっさとしてくれないか!」
もう、それはビックリしてしまって殴られると反射的に床にひれ伏し、何度もお詫びしました。
良い人かも、素敵な人なのかもと思ってしまった自分を恨みました。だってとても怖いんですもの。
いつも、ニート様はご機嫌が悪くなると声が高くなるのですが、今夜は高くて上ずっています。
興奮されているご様子が、恐怖でしかありませんでした。
肝の据わったマリレーネが、奉仕に呼ばれることがなかったので何をしていいのかわからないなどと言い訳したものですから、「あぁ終わった」と私は床に頭をこすりつけて詫びるしかありませんでした。
しかし、ニート様は怒るどころか、マリレーネが初めてだと知ると、ニヤニヤとすけべな顔をしました。
殿方は初物がお好きだと聞いたことがあります。マリレーネは大柄ですが美形ですし胸も大きくて色気があります。
今夜はマリレーネが中心となってご奉仕するんだろうなって思いました。
「悪いが、俺は記憶をなくしているんだ。パオリーアとアーヴィアはどんな奉仕をしていたか知らないのだ」
ニート様が、わざとらしく知らないふりをされました。
これはきっと、今までと同じプレイをしたら酷い目に遭わせるぞと言う意味なのではないかと、心底こわかったです。
しかし、驚いたことにニート様はお風呂に入ると言って、部屋を出て行こうとされました。
てっきり、ベッドでのご奉仕と思っていたのですが……
ニート様は、アーヴィアにどこに行くんだ? と暗に逃げるなよと圧力をかけてきます。
逃げたりなんてできるわけがありません。
すると、ニート様が振り向きざま、私を睨みつけて「先に歩いてくれ」と仰りました。
私は逃げたりしませんと言いたくなりましたが、言えるわけもなく、先導して風呂場に行きました。
私の背後から、ビンビンと視線が感じられます。
特に、おしりに視線が感じるのです。
先ほど、尻尾を見せろとおっしゃってお尻を見たばかりだと言うのに……
脱衣場にご案内して、ニート様のシャツを脱ぐお手伝いをさせていただこうと思ったところ、とても慌てておられて、自分で脱ぐとおっしゃいました。
「も、申し訳ありません。旦那様のお肌に触れてしまったご無礼をお許しください。お許しください」
何度も謝ったところ、自分で脱げるから手伝わなくても良いとおっしゃったのです。
今までご自分で脱ぐなんてことがなかったので、驚きました。
これは何かの罠なのでしょうか。
あっ、私はその時気づきました。ニート様のお着替えを持ってきていなかったのです。
慌ててニート様に断りを入れ、急いで部屋へと戻りました。
私たちにお風呂に入らせてくれたのは、このお風呂でのご奉仕のためだったのでしょう。
そうとは知らずに、私は一瞬でもニート様が良い人になったと喜んでしまったのですから、チョロすぎです。
チョロインなんてマリレーネにからかわれるのが目に見えます。
着替えを取り、風呂場へ戻るとアーヴィアとマリレーネの姿が見えません
先にご奉仕しているのでしょう。私は、慌てて貫頭衣を脱ぎ捨て、髪を縛ってアップにすると急いで浴室へ入りました。
湯けむりの中、ニート様が一人で入っておられます。
アーヴィアもマリレーネも姿が見えません。もう、あの二人はお払い箱になったのでしょうか?
「ニート様。お着替えをお持ちしました……」
一声かけて、私はニート様のそばまで歩み寄りました。
しかし、ニート様は無言なのが気になります。お怒りなのでしょうか?
「ちょっ、なんで入ってきてるの!」
旦那様が私が近づくと、フンとそっぽを向かれました。
遅くなったことをお詫びしたのですが、ニート様は何度か振りかえって私の姿を見ていました。
私は、本気でお怒りになる前になんとかお鎮めせねばと、背中を流させて欲しいとお願いしました。
すると、ニート様が今までの表情がとろけたように、にんまりと嬉しそうな顔になって浴槽から出て来られたのです。
お怒りが静まった瞬間でした。私はそっと胸をなでおろしました。
ニート様が胸を押さえて呼吸を激しくしています。
きっと、湯に当たってしまわれたのでしょう。私は急いでニート様のそばに寄って胸をさすって差し上げようとしました。
その時の、ニート様の嬉しそうな顔は忘れられません。
うっかり、胸を押し付けてしまったのですが、ニート様はそうするとお喜びになるのだと、気づきました。
上機嫌ですが、急に大丈夫だから触るな、離れろとおっしゃいました。
てっきり、触ったらお喜びになると思ったのですが、ニート様は私に触るなというのです。
もちろん、すぐに石のタイルに正座し、濡れたタイルの上で土下座して謝罪しました。
いつもの悪魔の形相をきっとされていると思っていたのですが、不思議とお怒りになりません。
それより、背中を洗ってくれとおっしゃったのです。
もちろん、私もニート様とお風呂に入る機会なんてありませんので、初めてするのだと正直にお伝えしました。
「では、背中を洗ってくれ」
ニート様はそういうと、クルッと私に背を向けてお座りになったのです。
背中を洗うが、触ってはいけないという無理難題を言って来られたのですが、よくよく考えると『胸を使って洗え』と言う意味なのだと気づいたのです。
ちょっぴり恥ずかしかったのですが、思い切ってニート様の背中に身を寄せました。
すると、たいそう驚かれて……あ、ニート様ってもしかして恥ずかしがっておられるのだって気づいたのです。
それに気づいてから、つぶさに観察して見たのですが、私がご奉仕させていただいてる間ずっと恥ずかしそうにしていて、可愛くおもえてきました。なんで、今まで気づかなかったのだろうって……
思い返せば、プイッとそっぽを向く場面がありましたが、ずっと嫌われていると思っていました。
でも、今はわかります。ニート様はとてもシャイな人なんですね。
まるで人が変わってしまったかのようで、今日のニート様はとても素敵だなって思いました。
私ってチョロい女なんでしょうか……でも、今日はとっても気分がいいのです。
その後、ご満足そうにお眠りになったニート様を起こさないように、私たちはそっと部屋から抜け出し自室に戻りました。
当然、その夜は三人で、ニート様がお優しくなった理由をあれこれと話し合って盛り上がりました。
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