終話 誰かの闇が誰かの光となり照らすこともある

 僕たちが目を開けると、元通り、あの白くたくさんの料理が並んだテーブルの前にいた。目の前にはグロリオサもいた。

「……誰……っていうか、何?」彼女はまだ混乱しているみたいだ。

「おそらく僕の仮説にすぎないが、」と僕は語り始める。なぜか息が切れている。

「まだ人生はほんの序盤で、世界にはまだ知らないことがあるらしい」

「そうみたいね」彼女は疲れたようにため息をつく。

 僕は空の雲の文字を見上げる。

「すべての者に、か……」

 僕はその文字を読み上げる。とてつもなく難しい問題だ。いつだって僕たちは優先順位をつけたがる。

 「あの子は何だったのかしら」とグロリオサが改めて聞いてくる。

「さっきの眼鏡の子?」

「そう」

「さあ……学者って言っていたな。若いのに。でも、なんとなく懐かしいような気もしたな。よくわからないけれど」

「実はね」とグロリオサが歯を出して笑う。

「私も」

 彼女が笑う。僕はこの世界が好きだ。

 彼女がいて、彼女が笑って、雲があって、音楽があって、突然魚が降ってくるこの世界が。


 それでも僕は感じていた。

 僕たちが足を踏み入れたのは、ほんの波打ち際。

 本当の世界はまだまだ広く、深く存在しているのだ。まるでこの世界を覆う海のように。





(了)






この物語は

令和記念短編 “Beautiful Harmony” 、

ファンタジー長編『ディーン・オータスとラヴの秘密』 へ続く。

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生きとし生けるすべての者へ生の祝福と喝采を 阿部 梅吉 @abeumekichi

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