第6話・自由に生きよう。

『ズッー、ズッー、ズッー。』と茂みの中の箱を引き摺り出します。掴んだ感じで箱なのは分かっていました。


『ガサガサ。ガサガサ。』と木の葉が揺れる音が聞こえて来ました。あの歩く木がこっちに向かって来たという事です。この開けた場所までは一本道でした。つまりはエッサには逃げ道がないという事です。この世界の普通の人間だったら、閉じ込められたと慌てふためいている事でしょう。


『ズッー、ズッー、パァカァ。』とエッサは急いで赤い宝箱を引き摺り出して蓋を開けました。中には剣の柄だけが見えていました。


「ごくり、やっぱり本の通りだなぁ。この世界はやっぱり実際には存在しない、本の中の世界なんだなぁ。」


 エッサはもう本に抵抗するのを諦めました。この本は本物で、自分達は与えられた役割を繰り返すだけの人形なのです。


 エッサは右手で剣の柄を握り、宝箱から引き抜きました。本に載っている剣の形、色、全てが同じ剣でした。


『ガサガサ。ガサガサ。』と歩く木が見えて来ました。急いで茂みの中に隠れるだけで、あの歩く木はエッサに気付かずに、来た道を引き返して行きます。戦う必要はありません。


『パラ。』と本を開いて、目の前のモンスターの情報を読んでいきます。


「あのモンスターの名前はトレント。レベル16。弱点は火。移動速度は遅く、地面から根を突き出して攻撃するか、リンゴを投げ飛ばして攻撃するしか出来ない雑魚モンスターか。」


 エッサのような村人が一撃でも攻撃を喰らったら倒されてしまいます。エッサは自分が倒されたらどうなるのか分かりません。死ぬかもしれません。何事もなく畑を耕しているかもしれません。


 エッサはこの世界の救世主でもない、ただの沢山いる村人の1人です。エッサが消えても世界は救世主に救われる運命です。全ての起こり得る出来事はプロデューサーという神様に決められています。エッサが消えても問題ないのです。


「くっくく、あっははははははは。プロデューサー様!オラが何をしても世界はシナリオ通りに動くんじゃろ?だったら、オラが好き勝手に動いても、死んでも問題ないんじゃろ?だったら、オラは好きにやらせてもらう!好きに動いてやるんじゃあ!」


 エッサはグラディウスという名前の片手剣を、トレントに向けて構えました。狙うは片手剣の剣技『斬空波(ざんくうは)』です。技名を知っていて、レベル1で片手剣を持っていれば、誰でも使えるそうです。


「本の通りなら、剣を振るだけで、衝撃波を離れた所に飛ばす事が出来るらしい。オラのレベルがいくつかは知らないけど、レベル1が最低のレベルなら、問題ないはずじゃろ。」


『ガサガサ。ガサガサ。』とトレントは剣を構えているエッサに気付いたようです。真っ直ぐにエッサに向かって襲い掛かって来ました。




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