第14話 再会

――一ヶ月後、サトちゃんが引っ越した。


 お母さんと友子はあいさつに行ったけれど、私は部屋にこもって巾着袋を握っていた。


 ゴツン、あの時のあの音はサトちゃんが巾着袋を投げつけた時の音だと気がついてしまったから。


 拒絶された悲しみは、胸の奥の方まで届いてグサリと、チクリと痛みをもたらす。


 サトちゃんの顔さえ見なければ、時がこの痛みを緩和してくれるだろう。


――サトちゃんの事は、みんなの会話からも消えて……少しずつ忘れていった。


 靴の中の石ころのように、気にすれば気になる。なるだけ忘れようとしていた。


 中学生になると、巾着袋を宝箱の一番下にしまった。


 年賀状もサトちゃんからは来なかった。……同窓会にもサトちゃんは来なかった。


 風の噂で、結婚して男の子を一人もうけたと聞いて、サトちゃんをお嫁さんにしてくれる人がいるんだと……自分の事のように喜ぶ。




■   □   ■   □

――気がついたら、月明かりの下チャイムを押している。時計を見ると十分くらいしか経っていない。……私、やっぱり貧血を起こしたんだ。


「……みっちゃん、どうぞ」

「……おばさん、お変わりなく。サトちゃんは」

「……どうぞ、あがって」


 四十年ぶりの再会に震える。巾着袋は懐かしさと、ケンカ別れした照れくささを隠すアイテムにしよう。


 サトちゃんに会える。懐かしさが、再会出来る喜びが勝って震えが止まる。


「……さあ、あがって。サトの顔を見ていって」


 一番奥の部屋に案内される。長い廊下にはレースのカーテンが揺れて、月明かりがこぼれている。


「……サト、良かったね。みっちゃんが来てくれたよ。やっと会えたね」


 サトちゃんのお母さんが部屋の戸を開けて話しかけている。なぜか電気のついていない暗い部屋だ。サトちゃんの姿を探す。


「……サト、……サトちゃん?」


 サトちゃんは布団で寝ていた。


「……どうして?」


 はっと息をのんで、その場に座り込む。


 四十年ぶりに再会出来たサトちゃんの顔には……


 ……白い布がかけられていた。

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