第13話 拒絶

「ミツ、ミツどうした?……リュウおいで」


 ヨシばあの声が聞こえて我に返った。


「……ヨシばあ、どうしよう!サト、サトちゃんがケガして泣きながら家に……どうしよう!」


「リュウが吠えたから驚いて転んだ?」


「……違う、サトちゃんが命令したから、イライラしてリュウを、わざと……サトちゃんに」


「……ミツ、早く家に帰りなさい。リュウを」


 鎖をヨシばあに渡し、家まで走った。


――事情を全てお母さんに話し、お母さんはすぐに買い物に行った。


「……光子、一緒に頭下げましょう!あんたが悪いんだから、ちゃんとサトちゃんに謝ろう」


 お母さんは菓子折りと白い封筒を用意して、靴を履くように促す。サトちゃんの家に行くと言う。


 階段を降りる足が震える。


「……吉岡さん、こんばんは、飛山です」

「あら、飛山さん、こんな時間に何かしら?」


 お母さんがサトちゃんのお母さんに、サトちゃんがケガした事情を説明する。後ろでうつむいて話を聞いている間も、震えが止まらなかった。


「それは、ご丁寧にありがとうございます。サトは確かにケガをして帰って来ましたけど、部活で転んだって言ってました。……体操服はまだみてません。あっ今サトを呼びますね。……サト」


 サトちゃんのお母さんが何度も呼ぶが、サトちゃんはいっこうに現れない。


「……疲れて寝ちゃったのかしら?」


「では、これを。体操服代が入ってますので」


 白い封筒を渡すと、すぐに返された。


「……体操服のお金はいいです。縫えばまだ着られるでしょうし、あと着るのも一ヶ月だから」


 私は、耳を疑った。あと一ヶ月ではなくて、一年ではないのか?


「主人の転勤で引っ越す事になったんです。……まだみっちゃんには言ってなかったのね。サト、早くいらっしゃい。みっちゃんがケガの事を心配して来てくれたのよ!」


 なかなかサトちゃんが来ない。引っ越すと聞いたショックから、私は、ついに大声を出す。


「サトちゃん、ごめんね、痛かったよね。……ほんと、ごめんね、わざと……やって、謝りたいよ。サトちゃん、サトちゃん」


 サトちゃんの部屋からは物音一つしない。


「……サトちゃん、ヨシばあの巾着袋の玉を合わせて仲直りしよう!私もう嫌だよ。サトちゃんと話せないなんて悲しいよぉ、苦しいよぉ」


 お母さんが手を強く握ってくれる。諦められずに最後に声をふりしぼる。サトちゃんは来なかった。お母さんに促されて帰る事にした。


――ゴツン。閉めた玄関に何か物が当たる音がして、振り返った。何の音か全く分からない。


 サトちゃんに拒絶されたんだ。自分の部屋に入り、明日着ていくはずの体操服をビリビリに破った。


 これでおあいこだ。悲しくて、淋しくて、全く分からない感情が渦巻いて……体操服をビリビリに破る事で、自分を落ち着かせた。


 翌日、私は初潮を迎えた。

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