第一章:驚異大四凶殺編

10話:ラヴ、イキまーす!

―――――――  1  ―――――――




「女神ラヴクラフティ、其方そち神位かむい序二段じょにだんに取り立てる」


 女神転生てんせい後、長らくじょくちとどまっていたけど、ようや昇進しょうしんできた。

 転生の前の記憶はないけど、どういうわけ親方マスターたちはあたしを買ってくれていた。

 期待された結果、脅度レベルフォー恐怖ホラー>に該当がいとうする魔王ドグラマグラの脅威きょういさらされているナグルマンティの担当になったけど、全然攻略できないまま時は流れ、聖召石せいしょうせききた。

 もし、最後の召喚ガチャが来てくれなかったら恐らく、新人勇者育成チュートリアル進行役ナビゲーター降格こうかくされていたと思う。戦力外通告せんりょくがいつうこく以外の何物なにものでもない。

 ――危なかったな~……



 宇宙おおぞら神人かむんど協会に出向き、理事長おおめがみヨタ・ソトス様に会いに行く。

 非想非非想天エンパイリアの代表にして神々の調停者ちょうていしゃ。簡単にいうと一番偉い女神ヒト

 普通、序二段への昇進とかで会えるようなかたではないんだけど、召喚状しょうかんじょうが届いたので大手おおでって会える。


「待っていたわ、ラヴクラフティ。此度こたびのナグルマンティ攻略、ご苦労様でした」

滅相めっそう御座ございません。ひとえに神人皆々様みなみなさまがたのご寵愛ちょうあい賜物たまものに御座います」

貴女あなた活躍かつやく帰還きかんを心待ちにしてましたよ。本当はナグルマンティ攻略の難しさから序二段どころか三段目さんだんめへの飛びきゅう昇進も考えていたのですがいさめられてしまいまして」

有難ありがう御座います、勿体もったいないお言葉です」


 飛び級昇進なんてとんでもない!

 そんなことされたら他の女神達から嫉妬しっとされてしまう。

 多分たぶん、ヨタ・ソトス様を諫めた者達ってのも、そういう連中れんちゅうはず

 親方マスター達から可愛かわいがられているから、嫉視しっししている連中が多いのは分かっている。

 まぁ、あたしが可愛いのは、事実ガチなんですけどね!


じつは貴女にお願いしたい事があるのです」

「はい? なんで御座いましょうか?」

「イヲタ・トルキアはご存知ですね?」

「はい、もちろんです! 女神転生後の養成所の同期で出世頭しゅっせがしらで親友ですから、イヲタは」

「はい、そのイヲタさんなのですが、今、危機ピンチおちいっているのです」

「えーっ!?」


 “ど真ん中ザ・センター”のふたを持つイヲタは神位かむい天上あまがみの地位にある本物の女神。天下てんげ以下の女神養成員ようせいんであるあたしとは実力が、いや、もう何もかもが違う。

 彼女が攻略した異世界は十や二十のさわぎじゃない。三桁さんけたに上るほど

 そんな彼女が、イヲタがピンチに陥っているなんて、にわかには信じられない。


「信じられません! 彼女は、イヲタは天才女神ですよ! その彼女がピンチになるなんて」

「わたくしも信じられません。彼女程優秀な女神でさえ攻略できていない、それどころか危機にさらされているのですから」

「そんな危険な世界の攻略に向かったのですか?」

脅度レベルファイヴ狂怖テラー>に区分される魔王が支配する世界シャクンタラカーカです」

「ああー! 狂怖テラークラスの魔王なら確かに強大な敵ですけど、イヲタなら問題ない気が……ん? 支配? 支配っておっしゃいました?」

「はい、シャクンタラカーカはすでに魔王に支配された蝕魔界ケイオスダムド。ですから、こちらから手を下す事が出来ません」


 蝕魔界ケイオスダムド――

 魔王が支配した異世界を、そう呼ぶ。

 界抑止力ワールドモラルの書きえが魔王自身によってなされており、神々による神性介入しんせいかいにゅうの出来ない世界。

 神々の手から離れた固有世界とっても過言かごんではなく、逆説的パラドックス世界になっている。その為、あたし達が外なる神ストレンジャー扱いになってしまう。

 界抑止力ワールドモラルの権限は、その世界の運営ゴッズによって取り扱われており、複数人体制か単独体制かの違いはあるものの、ごく一般的にはその世界の神のみが実行できる。そして、これらは宇宙おおぞら協定きょうてい言及げんきゅうされており、内界不干渉ふかんしょうの原則が取り決められている。

 つまり、界抑止力の乗っ取りが実行された場合、その乗っ取りはんがその世界の神的存在となり、表向き干渉できない。


 ちなみに、内界不干渉の原則があるから、魔王の脅威にさらされている世界であっても、あたし達神々が直接手をくだすのは望ましくない。基本的に外部からの神性介入は好ましくないって事。

 だから、神々ではない救世主として【勇者】が必要になってくる。本来的には、救う対象となる世界の住人の中から勇者が現れてくれればそれが一番いいのだけど、脅度きょうどの高い魔王が現れると、そうも云ってられない。

 そこで異世界から勇者を召喚する。善意の第三者、それが異世界勇者の立場。

 そう、召喚した勇者による魔王討伐は、結構グレーゾーンなのだ!

 だからこそ、易々やすやすとは召喚できない。そのしばりが、聖召石せいしょうせき


 実のところ、蝕魔界化された世界は結構けっこう沢山たくさんある。

 善徳ぜんとく中庸ちゅうようの属性を持つ魔王が界抑止力を手に入れ、協定に反しない限り、そのままとどこおりなく運営が引きがれる世界も多い。

 ただ、このたぐいの魔王は、抑々そもそも脅度が低く、レベル1か2、ほとんどは叫怖フィアーまれ驚怖フライトクラスの魔王の為、ほぼ無害むがいな上、界抑止力を手に入れた後、落ち着くのがつね

 一般に世界の運営は大変なので、暴虐ぼうぎゃくに振る舞っていた魔王であっても運営の立場になると大人しくなり、比較的その世界の運営の為に努力する傾向が高く、放っておくのが一番いい、って感じ。


 でも、脅度の高い魔王による蝕魔界となると話は全然変わる。

 恐怖ホラー以上の魔王は悪徳あくとく属性が多く、個として強力な上、その欲望に際限さいげんがない。一つの世界を支配するだけで満足してくれればいいのだが、過去の事例から考えるとまず間違いなく余所よその世界にまで食指しょくしが動く。

 最悪、蝕魔感染しょくまかんせんが広がり、テロリズムの蔓延まんえんと戦争の悲劇が巻き起こる。

 だからこそ、脅度の高い魔王による蝕魔界化は絶対にけなきゃいけないのだけど……


「ソトス様! あたし、イヲタを助けに行きます!」

「そう云ってくれると思っておりました。ですから、特別にを用意しました」

「――は!?」

聖凱符せいがいふです。この聖凱符に招来しょうらいしたい者の眞名まなを血でしるし、聖召石を砕く事で望みともを呼び寄せる事ができます」


 え?――

 このアイテム、すごーい!

 もしかして、だったら、呼べるのかな?


「実は、貴女以外に、イヲタ救出作戦の為、すでに三名の女神をシャクンタラカーカに送り込んでいるのです」

「えっ!? そーなんですか?」

「はい。ですが、蝕魔界ケイオスダムドとは女神通信が行えませんから現状どうなっているのか分かりません。イヲタ自身が一番買っていた女神が貴女ですから、わたくしも貴女を信頼して送り出したい、と考えた訳です」

「そ、そーなんですか」

「既に向かった三名の女神と協力して、イヲタを無事救出し、魔王を倒し、蝕魔界化を解いて下さいね」

「は、はい!」


 あたし以外に3人もの女神が送り込まれているんだ!

 異世界救世ぐぜの魔王討伐に複数名の神々がつかわされるなんてめずらしい。

 転生前の記憶はないから何とも云えないけど、少なくとも転生後、一つの世界に複数の神々が出向くなんて聞いた事がない。

 それだけ、今回の件、特別なんだ!


「今回は異例尽いれいづくめですから、呉々くれぐれも気を付けて行って来て下さいね」

「はい、絶対にイヲタを助け出してみせます!」

「ええ、わたくしも成功をおいのりしておきます」


 女神の中の女神、大女神ヨタ・ソトス様が一体、なにに祈るのかよく分からないけど、心強い。

 それにこの――聖凱符。これがあれば、イケるはず

 よし!

 気合い入れて、頑張るぞい!

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