第34話 冬のひと時

<美香視点>

修学旅行に期末試験と学内のイベントもほぼ終わり今日は終業式。

先程、田中先生によるホームルームも終わったので今は下校の時間だ。


「先生じゃあねぇ〜」

「3学期もよろしくお願いしま〜す」

「ん。休みだからって羽目を外しすぎるなよ!」


今日からしばらく生徒達ともお別れか・・・

バスケ部も今回は地区予選で男女ともに敗退。

残念ながら全国大会には進めなかった。

ということで、休み中の部活動もなく私のお仕事も今日で一応仕事納めとなる。

次に生徒達と会うのは年明けの始業式。

毎年の事だけどイベントごとの多いこの季節の休み前は少し寂しい気分になるのよね。


「先生この後デートですよねぇ~ 楽しんできてくださいね〜」

「相良さんによろしく~」

「って、こら田辺!小早川!」


全く・・・た 確かに今日はクリスマスイブだし・・洋さんにディナーに誘われてるし・・お泊りしちゃったりもするけど・・・いいでしょ別に婚約者なんだし!


・・・そっか今年の冬は私1人じゃないんだ。洋さんが居るんだ。

そう考えると冬休みも楽しいのかな。


-------------------------

「ちょっと早く着いちゃったか」


ゆりかもめ新橋駅前。

いつもは平日の夕方ともなれば酔いどれのサラリーマンで賑わう新橋もクリスマスイブの今日はカップルが目立つ。

今日の美香とのデートはお台場のホテルでディナーを頂き、そのままホテルに1泊というもの。

結構人気スポットのホテルだけど美香と付き合う様になって初のクリスマスということもあり早めの時期に予約してたんだよな。喜んでくれるといいけど。


ちなみに今日は俺の仕事が遅くなるかもしれないということで職場に近い新橋駅前を待ち合わせ場所に選んだんだけど・・・まぁ今日みたいな日に残業したがる奴は居ないよな。みんな帰るの早かったから俺も定時で上がっちまった。


「寒いしコーヒーでも飲みながら時間潰すかな」


時計を見て時間に余裕があることを確かめた後、近くのカフェに移動をしようとしたところ、改札口から出てくる美香が見えた。

まだだいぶ早いのにと思っていると向こうも俺に気がついたのか慌てた様子で俺の方に走ってきた。


「ごめんなさい!早く出たつもりだったんですがお待たせしちゃいましたか?」

「いや全然大丈夫だよ。仕事が早く片付いたから来ちゃったけど待ち合わせ時間はもっと後だろ?美香こそ随分早く無いか?」

「良かったです。時間間違えたかと思っちゃいました。

 私はその・・・何だか楽しみすぎて家でじっとしてられなかったんです」


何だよその理由。最近は仕事以外ほとんど毎日一緒なのにデートが楽しみ過ぎるって。可愛すぎだろ。


「ありがと。俺も楽しみにしてたよ。クリスマスだしな。

 さて、とりあえずここにいても仕方ないし早いけどお台場に向かおうか」

「はい!」


美香を満足させなくてはと少しプレッシャーを感じながら俺たちはゆりかもめに乗り一路ホテルの最寄駅に向かった。


車内はクリスマスイブということもあり着飾ったカップルが多い。

『まぁ今日は俺たちもその1組ではあるんだけどな』

とあらためて今日の美香を見ると普段デートするときよりも幾分オシャレをしてきている様に見える。


「美香」

「はい。何ですか?」

「言うのが遅くなっちゃったけど今日の服似合ってるな。綺麗だよ」

「え、あ ありがとうございます。その・・・褒めてもらえてうれしいです」


そんなやり取りもしつつホテルに到着。

まずは最上階にある展望レストランでのディナーだ。


「このお店って・・・よくテレビとかでも紹介されてて予約取るの難しいって言われてる人気店じゃないですか!凄い!よく予約取れましたね」

「ま まぁな 喜んでくれたみたいで良かったよ」


美香が興奮気味に喜んでくれている。

良かった・・・頑張って予約した甲斐があったな。

入り口で予約名を告げ席に案内されるとそこは東京の夜景を一望できる窓際の席だった。窓際の席とは聞いていたけど予想以上の上席だ。

料理も美味しいんだろうけど予約が埋まってるのはこの夜景も一因だろうな。


出てくる料理も前菜から始まりスープにメインディッシュどれも素晴らしい味付けで俺も美香も大満足。人気店というのも頷ける。


「夜景・・・綺麗ですね」

「そうだな。前の六景島のバーラウンジからの夜景も綺麗だったけどここから見える景色はまた格別だな」

「ええ、東京タワーにスカイツリー高層ビル群・・・素敵です」


美香も素敵な夜景と美味しい食事に目を輝かせている。

恋人同士で夜景を見ながらのディナー・・・何となくお互いいつもよりも緊張気味な感じではあるけど俺も何気にテンションは高めだ。

そして食後のコーヒーを飲みながら俺は店の予約について話をした。


「実はな、店の予約についてだけど恥ずかしながら俺は恋人とクリスマスを過ごしたって経験がなくてな・・・なんというかいつも大体仕事か彼女の居ない後輩と居酒屋とかが多くて。

 で、美香と付き合うことが決まった後に何をすればいいのか色々と調べて人気店だというこの店の予約してたんだ」

「え!じゃあ半年近く前にお店を予約してくれていたんですか?」

「そ そうなるかな。でもな、あれだぞ、この店は1年近く前から予約入れる人もいるみたいだからなそんなに早くも無いみたいだぞ」


俺が少し焦りながら告げると美香が少し笑みこぼしながら話してきた。


「ふふ 良かったです。私もこういうの慣れてなくて1人で張り切り過ぎてたらどうしようって思ったんですけど・・・洋さんもおんなじだったんですね」

「だから、言ったろ俺も楽しみにしてたって」


何だか話したことで俺も気持ちが楽になった。

それに緊張気味だった美香も何となく肩の力が抜けたみたいだ。

そして・・・今かなと俺は鞄から小さい袋を取り出して美香に渡した。


「美香。これクリスマスプレゼントだ」

「え!このディナーだけでも嬉しいのに頂いていいんですか?」

「折角買ってきたのに貰ってくれないと俺が困るよ」

「そうですよね♪ありがとうございます。開けてもいいですか?」

「ああ もちろん」


美香が包装を剥がし箱を箱を開ける。


「わぁ素敵!」

「シンプルなデザインだし、これなら学校行くときも付けられるだろ?」

「はい。ありがとうございます。大切にします」


プレゼントはダイヤをあしらったシンプルなデザインのネックレスだ。

指輪は前にペアリングを送ったし、普段使い出来るアクセサリにしようということで選んだ品だ。喜んでくれたみたいでよかった。

と今度は美香が持っていた鞄から俺に袋を渡してくれた。


「洋さんから頂いたプレゼントの後だとちょっと見劣りしちゃいますが・・・私からのクリスマスプレゼントです」

「ありがとう。開けてもいいか?」

「はい」


美香から貰った袋のリボンを外し中を取り出すと濃紺のマフラーが入っていた。


「おっ暖かそうなマフラーだな。色も落ち着いているし、これなら仕事行くときにも付けていけそうだ」

「よかったです。それ・・・私の手編みなんです。ちょっと編み目が変なところもあるかもしれないですが・・・」

「え!美香が編んでくれたのか。そんな素振り見せてなかったと思うけど」

「驚いてもらおうかと思って学校の休憩時間とかに編んでたんです。驚いてくれたしサプライズ成功ですかね♪」

「ああ 驚いたよ!大切にさせてもらうな」

「はい!」


その夜はホテルに1泊しいつもより熱い夜を過ごした。

鍛えてるとはいえ年甲斐もなくちょっと張り切り過ぎたかも・・・


結婚式まで後1か月か。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る