現実 第十二部
秋晴れた休日の午後。園田綾の葬式が行われていた。
俺がそう式場に着いた時には、すでに数えられないほどの人間が集まっていた。
そのうち、約二割、三割……。どのくらいの人が涙を流しているのか考えるのもめんどくさくなるほど、そこら中で泣いている人がチラチラと存在していた。
休日ということもあり、学生服の人が多く、俺の知らない彼女の友人が彼女の最後を見るために来ていた。
彼女の最後を見るために来た人は彼女の友だけではない、彼女に関係する大人も数多く来ていた。当然のごとく、ほとんどの人の顔は知らなかったが、それでも知っている大人もいた。
「やっぱり、あなたも来ていたのね。健くん」
わざわざ俺に話しかけるために今までどこかの大人と喋っていたのを中断してこちらへ来たのは高校時代の綾さんの担任である堀田絵美であった。
「再び会う場所がここなんて、とても残念ね」
「そうですね」
俺が綾さんのことについて深く話したことのある数少ない人物。
あれ以来、全く会っていなかったが、俺としてもここでの再会は非常に気まずい。
何しろ、俺たち二人は彼女が死のうとしていたことを知っていた。にも関わらず、彼女は偶然か必然か死んでしまった。
どちらにせよ、俺たちはそれを防ぐことができなかった。
後悔の二文字以外に浮かび上がる言葉はこの二人にはなかった。
「私が前に訪れた時には、やっぱりそんなそぶりはなかったのだけれどね」
「俺の時もですよ」
「最後まで、彼女は彼女だった。というわけね……」
それは彼女に対する称賛でもあり、最大級の侮辱でもあった。
「今聞くことではないのかも知れないけれど、今しか聞く機会がないと思うから聞かせて。あなたが知りたかったことは知れた?」
あの時俺が探していた答えは手に入れた。
けれど、その答えは本当に正しいのか。それを証明するまでには至らなかった。
「知らないままですね」
かつて、そんな風に言った時、彼女は勝手に俺の考えを推測したように納得した。
そして今回も勝手に彼女は納得する。
「そう、なのね……」
前とは違い、少し歯切れの悪さが残る返答であったが、それ以上堀田先生が俺に問いかけてくることはない。
なぜなら、この話を続けようが、それ以上先に何かがあるわけではないから。
何かの答えがあってもその全てはもう止まってしまったことなのだから。
「今日も有沙ちゃんと話すのかしら?」
「今のところそのつもりはありません」
「そう、一応言っておくと、彼女も今日来ているから、もしも何か話したければ探すといいわ」
堀田先生は最後のそのことを告げると、俺の前から去っていく。
わざわざ他の人との話を打ち切ってまで俺の前に現れたと思えば、すぐに俺の前から去っていく。
それは何かを避けるかのように。
「堀田先生」
そんな彼女の背中に待ったを俺はかける。
堀田先生はそんな声を聞かずに去ることもできず、もう一度俺の方を振り向く。
「早く学校に戻りたいって綾さん言ってましたよ」
俺の言葉を聞いた堀田先生は少し笑ってから返事をする。
「あなたも、綾ちゃんも、もう少しうまく嘘をつきなさい」
その言葉を最後に今度こそ堀田先生は俺の前から姿を消した。
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