巡り合わせ 第三部

 翌週、俺は綾さんが通っていた高校、高ノ宮(たかのみや)高校に来ていた。

 高ノ宮高校は文武両道であり、進学校でもある県内有数の名門校だった。俺の通っている高校とは一味も二味も違う学校だった。そして、それは校門からその違いはにじみ出ていた。校門付近には警備の人がいて、中に入ることは容易ではなかった。しかし、事前に俺は学校にアポイントメントを取っていたので、そのことを警備の人に告げる。


「すみません。今日訪問させてもらう予定になっている緑川健ですが」

「緑川さんですね。少々お待ちください」


 警備の人はトランシーバーで誰かと連絡をとると、すぐに相手側から返事がくる。


「嵯峨高校二年の緑川健くん。であっているかな?」

「はい」

「念のために、学生証か本人が確認できるものを提示してもらっていいかな?」

「じゃあ、学生証で」


 鞄から取り出した学生証を警備の人に渡すと、しっかりと上から目を通して確認した上で俺に学生証を返してくれる。


「じゃあ、確認が取れたので大丈夫です。こちらだけ首からかけてもらっていていいですか?」


 警備員は俺に対して、“訪問”と書かれたネームホルダーを手渡す。それを受け取って、その場で首からかけると、警備員の人は軽い学園内の場所などの説明をして、帰るときはまたここにきて、ネームホルダーを返してくださいと説明を加えた。

 それを聞いて俺は学園内へと歩を進める。


 学園に入ってまず職員室があるところへと向かった。と言ってもどこにあるのか細かいことはわからないため、とりあえず、先ほど警備員の人が言っていたB棟へ向かう。

 綾さんの通っている高ノ宮高校はAからDまでの四つの棟で成り立っていた。Aは体育館。Bは職員室や保健室などがあるらしい。Cはそれぞれの学年の教室。Dはいろんなものの倉庫らしい。

 B棟の中に入るとドアの上の所の札に奥から校長室、職員室、保健室、事務室となっていたので俺は職員室へと向かい、そして、職員室の扉を横にスライドして開けると、部屋にいる人全てに聞こえる声の大きさで問いかける。


「失礼します。堀田先生はいらっしゃいますか?」

「はぁい。少し待ってね〜」


 扉を開けたすぐそばで一人の女性が反応を返してくれた。その女性は開いていたパソコンを閉じ、机の上に広がっていた資料の紙などをまとめると俺の元へと歩み寄ってきた。


「あなたが緑川健君ね?」

「はい。今日はお忙しい中お世話になります」

「いいの、いいの。それじゃあここだとなんだから、場所を移しましょうか」

「はい」


 職員室の扉を閉め、俺はその先生の後についていく。


「改めて、堀田絵美と言います。よろしくね」

「よろしくお願いします。えっと……」


「気軽に先生とか、堀田先生〜でいいよ。あっ、えみちゃんって呼んでもいいよ?」

「えっと、じゃあ堀田先生で」

「はい、なんですか健君?」


 最初からフレンドリーというか、突拍子がないというか、堀田先生の勢いにたじろいでしまう。


「その、綾さんは三年生でよかったんですよね?」

「えぇ、三年一組。私のクラスの生徒よ」


 俺と堀田先生は階段を登りながら話す。


「堀田先生から見て、綾さんはどんな生徒でしたか?」

「う〜ん、そうね。綾ちゃんはいろんな人に好意を持たれていたなぁ、でもどちらかというと、芯のある人が好きだったかな」

「えっと、異性に対する価値観じゃなくて、堀田先生から見た綾さんという生徒の評価のようなことを教えてください」

「その前に、健君はなんで綾ちゃんについて調べているの?」

「それは、電話でも話通り──」

「命を救ってもらった綾ちゃんのことを忘れないため、だったよね。でも、ほんとにそれだけなの?」


 堀田先生は後ろにいる俺の方を振り返りながら、その先ほどまでとは違う眼差しで俺のことを見つめてくる。


「それだけでは不十分ですか?」

「いいえ、そんなことないわ。むしろ素敵ね」

「そうですか?」

「えぇ、てっきり綾ちゃんに一目惚れしちゃって、ここぞとばかりによってきた子だ思っていたの。変なこと聞いてごめんね」

「いえ、そう思われても不思議ではありませんから」

「うん。なら大丈夫かな……」

「何か言いました?」


 ふっと、堀田先生が何かを言ったと思ったら堀田先生の足が止まる。そして、俺も堀田先生の背中にぶつからないように、寸前のところで動きを止める。


「じゃあ、続きは教室で話しましょうか」


 少し上を見ると、3−1と書かれた札が下がった教室の前にいた。

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