第3話 心


 中学時代。ボクは女生徒だった。生まれた時は男の子。

でも、年齢が重なるにつれ、体に異変が起きてきた。


 学校で急にお腹が痛くなり、早退した。

母さんと一緒に病院に行き検査。


 検査の結果、奇病と判明。稀に起こる病気。治すことは現代の医学では不可能。

男だったはずなのに、生理が始まった。


 そんな事あるはずがない。子供のボクにもわかる事だった。

それから一年経過。ほんの少しだけ、胸が膨らんだ気がする。

生理は毎月必ず来る。そして、一番の問題が男の子の象徴が小さくなってる気がする。

まるで体の中に吸い込まれていくように。


 正直、精神的にもきつい。

いままでずっと男として育ってきたし、周囲のみんなもボクを男として見ている。

でも、体の変化を母さん以外に言うことができない。

父さんにもまだ話していない。いや、話せない。話したくない。


 中学校進学前、体つきや声、肌など女の子っぽくなってきてしまった。

このままだと、学校生活に支障が出るかもしれない。

母親が地元の学校ではなく、都内の中学校に行かないかと相談された。

自宅から通うのは難しいから、一人暮らしになる事になる。


 このまま男で過ごすのが難しいと思ったボクは、都内の学校に行くことを決める。

髪を伸ばし、服を変え、仕草も覚え、言葉使いも変える。

見た目は完全に女子だ。これなら大丈夫。

新しい生活、新しい学校、新しい性別で中学校をスタート。


 全く問題なく卒業まじかになる。

でも、女性としての成長はほぼない。胸も育たず、体の丸みもそこまでない。

声は女性っぽく、髪もきれいになった。

でも、男でも、女でも、どっちをとっても中途半端。


 精神的にきつい。私? ボク? 私は何? ボクはどっち?

心はやや男。でも、見た目はやや女。心が痛い。


 そんな時、通学中に痴漢にあう。

心が痛いときに、ひどいことをするもんだ。


 思いっきり腕をつかみ、大声で叫ぶ。

すっきしりた。怖くもなかった。逆に、心が晴々した。


 警察の事情聴取でありのままを話した。


 体の事、心の事、不安な事。

担当の人はいろいろ聞いてくれた。嬉しかった。

初めて分かってもらえた気がした。


 母さんが迎えに来た。

でも、ボクの住んでいるマンションでボクを下ろし、母さんは家に帰る。


 そうか、ボクの居場所はもうないのか。ここに居るしかないのか。

だから家を出されたのか。


 心が痛い。はじけそうだ。もう、どうでも良くなってきた。

どうせ、ボクの、私の事なんて見てくれる人はいない。


 橋を渡る。手すりの部分を歩く。落ちたら死ぬかな?

警察の人によ呼び止められる。さっきの担当の人だ。


 人の、女性の敵を一緒に撲滅しか? 仕事に誘われる。

中学生は無理だけど、高校生、十六歳になったら仕事をくれるらしい。

警察の裏の仕事みたい。


 どうせ親もボクの事はどうでもいいと考えているだろう。

警察の人に仕事を受けることを話す。


 中学を卒業。高校に通うことになるが、今度は男にならないといけなくなる。

戸籍上、ボクは『男』だ。高校には申請書も提出しないといけない。

そのうちの一枚に戸籍抄本。性別の明記もある。

ボクは今年度から男になる。

 

 髪を結い、服もボトムにし、伊達メガネをする。

男っぽい恰好だ。 久々にする男の格好は楽だ。化粧もしなくて済む。


 進学については親も対応してくれたが最低限の会話のみ。

ハンコも、願書も全て自分で対応する。相変わらず口座には、いい金額が毎月振り込まれる。

早く成人して、手放したいのだろ。まぁいいさ、好きなように生きてやる。


 中学とは全く異なる地域の男子校に入学。

知り合いはもちろん、ボクを知る人は誰もいない。

いたら逆に転校だな。色々とめんどい。


 十六になった。警察から連絡が来る。

配属先は痴漢Gメン。公式には非公開組織らしい。

まぁ、囮捜査は社会的に問題あるからだろう。


 ボクは問題ない。戸籍上『男』だから。

でも、身体的にはやや女の子。でも心はやや男の子。


 思春期は大変だな。

ボク? 私? は誰を好きになるのだろうか?


―― ピンコーン


 メールが届く。依頼が無い日の方が少ないのでは?

この心と体が持つまで、痴漢を撲滅させるために、働いてあげる。


 さて、今日も痴漢され、現行犯で捕まえますか。




 そこのあなた。今日痴漢しませんでした?

もし、心当たりがあるのであれば、今日以降やめた方が身のためです。


 近日中に私が逮捕しますよ? 二度と、痴漢しないでくださいね。

ボクと約束ですよ? はい、指切りげんまん!

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痴漢Gメン ~ボクは今日も貴方を逮捕する~ 紅狐(べにきつね) @Deep_redfox

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