第2話 公園


 ボクの通う高校は男子高校。中学校は全く違う地域の学校に通っていた。

したがって、この高校でボクの事を知っている人はいない。

知っている人がいたら、転校しなければならないな。


 今日も一日の授業が終わる。ボクは部活に入っていない、いわゆる帰宅部だ。

終礼が終わると同時にバックを持ち、教室を出る。はぁ、お腹が痛いな。


 今朝のおじさんは逮捕されたのかな? 会社とか家族とか大丈夫かな?

心配するのは変かもしれないが、捕まった本人ではなく、その家族や会社の人たちが心配だ。


 でも、ボクはこの仕事に誇りを持っている。

痴漢は女性の敵であり、撲滅させなければならない対象である。


 まったく。男どもはなんでもっと真正面から行かないんだ。

女の子だって、告白されたりもっと攻めてほしい時だってあるのに!



―― ピンコーン


 うわぁ。またメールが届いた。嫌な予感がする。


『今朝の40代サラリーマンについて。現在本庁にて書類送検中。過去にも同様の逮捕歴がある為、実刑判決はほぼ間違いないだろう』


 そうか。実刑か。まぁ、しょうがないよね。現行犯で捕まったんだし、しょうがない。

自業自得だ。



―― ピンコーン


 ……連続メール? 珍しいな。


『上野駅。大山内公園。一八四五。十代男性。ショートカット。黒タイツ。容疑者の写真あり』


 一日に二件とかやめてほしいな。肉体的ではなく、精神的にきつい。

写真を確認する。なんだ、まだ若いじゃないか。というか、学生か?

それはそれで、容疑者は全て撲滅しなければ……。


 指定時刻まで約二時間。一度自宅に帰り、準備してから出直すか。

こんなんじゃ、毎日休みなしになってしまう。





 自宅に着き、軽く食事をした後に準備を始める。

ロングの髪はネットに入れてショートカットのかつらをつける。

最近のかつらはまるで本物みたいに見える。


 指定の服装に着替え、化粧をする。

伊達メガネをはずし、瞳を大きくするカラコンを入れて、準備オッケー。


 自分で言うのも変かもしれないが、化粧でよくここまで化けれるね。

自分はそこまで化粧をしないが、簡単な化粧でも随分変身できる。

本気を出したらもっとすごいことになるんだろうな……。


 さて、そろそろ時間だ。女性用のトートバックを肩に下げ、パンプスを履く。

女性用のアイテムは全て経費で落ちるからある意味好き勝手にできる。

今度新しいアイライン買おうかな……。



 再び電車に乗り、指定の地域に移動する。

多くの人がいる。過ちをおこなしてしまう人がいる。

過ちを正そうとする人もいる。人は人と関係を持ち、生活している。

しょうがないと言えばそうだが、ルールは守らないとね。



 指定された時間に指定された公園へ。

うーん、誰もいないな。まぁ、電車と違って時差があるかな?

過去にも依頼が来て、そのまま何もなかった日も多かったし。


 さて、どうしようかな。

自販機でジュースを買い、公園内を一周する。

この時間にも関わらず、公園にはほとんど人がいない。



 赤みのある空から、だんだんと紺色になってきて日が落ちようとしている。



ッタッタッタッタッタ



 走る音? 少し遠くからジャージを着た人が走っている。

公園で運動でもしているのかな?


 パーカーを着ており、頭をすっぽり覆っているので顔は分からない。

でも、見た感じ近所の人が走り込みしている感じだ。

運動は適度にした方がいいよね!




 そして擦れ違い様、突然抱き着かれ、胸を揉まれた!




 のわぁぁぁ! ちょっと! すとーーっぷ!



 そのままの勢いでで押し倒され、マウントポジションを取られる。

まずい、まったく警戒していなかった!


 男は膝で私の腕を押さえる。まったく動けない。

男はフードも取らず私の胸をまさぐっている。


 っふ。残念だったな。

その胸は偽りの胸! 触られてもなんとも思わぬわ!


 そんなこと気にしないかのように、男は揉みまくってくる。

この年代だと、欲求がたまるんだろうな。

まぁ、その気持ちもわかるが、犯罪は犯罪だ。


 私は自由になっている足で、男の首を絞める。

そのまま男を後ろに投げ飛ばし、手に持っていたジュースの缶を思いっきり顔面に向け投げつける。


 すとらーーーいく! 男はうずくまり、鼻を押さえている。

まぁ、スチール缶(中身入り)は痛いよね?


 スマホを片手にメールをする。


『容疑者確保。早く来い』


 足元にいる男のフードをとり、顔を確認する。

お、写真と違ってなかなか二枚目ですね。


「今警察を呼んだ。で、なぜこんな事を?」

「……うまくできないんだ」

「何が?」

「うまく、女生と話ができないんだよ!」

「今してるじゃない」

「違う! 学校の奴とか」

「お前、いい顔してるんだから、もっとしっかりしろよ」

「あんた、何なんだ?」

「私? そうねヒーローになりたい子供かしらね?」

「ヒーロー?」

「そう。この日本から痴漢を全て抹消させたいの」

「……悪かったな」

「早く、罪を償って、普通に彼女作りなさい」

「できたらな」

「できるわよ。やるか、やらないかの選択をするだけ。二択よ? 簡単でしょ?」

「簡単にできたら苦労しないよ」

「苦労は買ってでもするものよ」

「っは……」


 パトカーがお迎えに来た。まったく、なぜ近くに待機してないの!

あー疲れた。早く帰ろう。


「あんた、名前は?」

「聞いてどうするの?」

「名前くらいいだろ?」

「純。相原純よ」

「純か。その名前、似合ってるな」

「そう、ありがとう。二度と会うことはないけど、元気でね」

「ああ」


 名も知らぬ、なかなか男前の男は連行されていった。

恐らく余罪もあるだろう。学生でも罪は罪だ。




 やっと帰宅。着替えて、化粧を落とし、ソファーに座る。

『純か。その名前、似合ってるな』 女の姿のボクに言った言葉。

ボクは男だ。でも、仕事の時は女の格好をしている。



 昔を思い出す。中学校時代。

女の子はだんだんと胸が大きくなっていく時期。

男の子はだんだんと異性を意識し、ちょっとエロ本とか見始める時期。




 当時のボクには分からなかった。




 なぜ、クラスで一番背が高いのか。




 なぜ、ボクの胸は大きくならないのか。




 なぜ、男の子を見てドキドキするのか。


 





 そう、ボクは中学時代は女の子だった。




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