痴漢Gメン ~ボクは今日も貴方を逮捕する~

紅狐(べにきつね)

第1話 通勤電車


―― ピンコーン


 夜十時半。スマホに一通のメールが届く。

この受信音はまた依頼か……。本当にここ最近依頼が多いな。


『○六四四。新宿発内回り。五両目。髪型ロング。ブラウス、ミニスカ、ハイソックス。容疑者写真あり』


 ボク宛に届く不定期メール。正直あまり嬉しくない。

依頼内容を確認し、容疑者の写真を確認する。四十代位のおじさん。嫌だな、またこんなやつか。

渋々翌日の準備をする。今度はどの位の報酬になるのかなー。




 ボクは都内の高校に通う高校一年生。名前は 相原純(あいはらじゅん)。

ちょっと訳ありで都内のマンションに一人暮らし中。

身長百六十センチ、スタイルそこそこ。美少女ではないけど、それなりに可愛い方だと思う。

髪は真っ黒で腰までのロング。これはボクのちょっとした自慢。毎日乾かすのが大変だけどね。


 明日は依頼があるから早めに寝ないと。こんな時間に依頼メールとか、やめてほしいよね。

ふぁぁぁ、眠い。早く寝よっと。



――ジリリリリ!


 朝だ。今日は依頼がある。学校は私服だめだから、バックに制服を入れて私服で出かける。

全く、このおじさんも、もっと遅い時間で通勤すればいいのに!


 指定された髪型、指定された服を身に着け、少し化粧もする。こんな感じでいいかな?

そして指定の時間になり、電車に乗り込む。



 いた! 写真のおじさん。怪しまれないように隣まで行き、おじさんに後姿を見せる。

どこの駅で降りるんだろう? 早く犯行してくれないかな? 学校に遅刻しちゃうよ。


 電車に揺れる事数分。私はおじさんに体を密着させ、誘う。

ほら、早くして! いつもしている事でしょ!


 駅に着き、どっとさらに人が乗ってくる。

う、動けない……。この時間は流石にすごい人だな……。


 その時、太ももの内側を触られた気がした。

何もせずそのまま立っていると、太ももの内側を鷲掴みしてきた。

おぉ! 何と大胆な。 これでいままで良く捕まらなかったね。


 もう片方の手はシャツの中をもぞもぞして、お腹を触ってきた。

というか、この時点で何で誰も助けてくれないのかが不思議だ。


「んっ……」


 ちょっと演技してみる。

おじさんはいい気になったのかどんどん大胆になってくる。

お腹をさすっていた手はどんどん上昇してくるし、太ももを触っていた手はお尻に移動してきた。


「やめて……」


 ものすごい勢いでお尻を揉んでくる。ちょっと、おじさんやり過ぎですよ?

そろそろ次の駅に着く。


 私はスマホを片手にメールを送る。


『現行犯。次の駅で降りる。お迎えよろしく』


 そろそろ駅だ。ここからがちょっとめんどくさいんだよね。

さて、時間も時間だし、やりますか。

息を思いっきり吸って、止める。そして、お腹に力を入れて、声を出してみよう!


「きゃー! この人痴漢です! 今、私の服に手を入れて、お尻触ってます!」


 服に手を入れているおじさんの手首を片手で握り、服から抜かれないように固定している。

叫ぶことが恥ずかしいとか、言いにくいとか問題ない。

叫ぶことが最善の手であり、他の乗客を味方につける方法でもある。


「な、何を言ってるんだ。私がそんな事するはずがないだろう!」


 まー、みなさん良く言いますよそのセリフ。正直、もう聞き飽きました。


「じゃぁ、この手は何ですか! 私の服の中に入っているじゃないですか!」

「うぐっ、そ、それは……」


「なんだ! 痴漢か! この恥知らずが!」


 近くの学ランを着た学生さんが、おじさんを羽交い絞めにし始めた。

さて、これであとは駅に着いたら降りるだけですね。


「な、何をする! 離さないか!」

「離すはずないだろ! 次の駅で降りろ!」


 若いっていいね! この学生さんは将来有望だね!

駅に着き、呼んでいた警察の人にそのまま引き渡す。

学生さんもちょっとだけ事情聴取に付き合ってもらおう。

ごめんね、巻き込んじゃって。


―― ピンコーン


『容疑者確保。協力感謝する。指定の口座に振り込む。次回もよろしく』


 あれだけ苦労したのにメールあっさりだね。

さて、私も学校に行かないと遅刻してしまう。


「ねぇ! 君、大丈夫? 怪我はない?」

「ええ、大丈夫です。さっきはありがとう。助かりました」

「そんな事無いよ。あんな奴、捕まって当然だ!」

「それじゃ、私は学校に行くので」

「ちょ、名前。名前くらい教えてくれよ!」

「純。相原純。でも、二度と会う事は無いと思うよ?」

「それでも、名前くらいは聞いておきたいさ」

「そう、それじゃあね」


 その場を急いで立ち去り、学校へ向かう。

時間ぎりぎりだ。できれば休みの日に依頼してほしいもんだ。

学校に着く前に制服に着替え、化粧を落とし、コンタクトからメガネに変える。

これで、同一人物とはわからないだろう。


 学校に着く。ギリギリだった。

ボクの通う学校『都立杜都男子高校』通称 杜男(もりだん)。


 そう、ボクは戸籍上『男』だ。


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