第42話 作業続行

お仕事頑張ってね。


母様にそう言われ送り出された俺と兄貴は、瞬時にジュールの前に出た。

俺は自分のした事だし、ちゃんと分かっていたから無反応。

でも兄貴はいきなり目の前に現れたジュールに驚いたようだ。


「これは…ジュール様!」


いきなり片膝をつき礼を取ろうとした兄貴を、ジュールがとどめた。


「いや、いい。

時間がもったいない。

取り合えず確認だけさせてくれ。」


今まで俺の事を隠していたらしいから、何となく気まずそうな兄貴だけど。

これ以上隠す必要は無いと踏んだんだろう。


「はい何なりと。」


「あ~、ゴホンッ。

エドモント、貴殿はヴィクトリア様の実の兄上で間違いないか。」


「はい。」


「今までそれを、なぜ秘密に…。

いや、それは後にしよう。

私は君を、ただの反国王派の人間としか見ていなかった。

失礼を詫びておこう。」


「いえ、爵位が有ったのは父であり、力が有ったのはヴィクトリアです。

私はただの人間です。」


「そう言う訳には…。」


「いえ、私自身は…。」


「ジュール、時間が惜しいんだろ、それも後にしようよ。」


「申し訳ございませんヴィクトリアさま。

では、エドモント殿、貴殿は変わらず反国王派との考えで宜しいか。」


「はっ、私は変わらず、この国の民の為、国王を始めとする王族を正し、

より良い国にする為、命を掛ける所存。」


「………ヴィクトリア様、エドモント殿に一連の説明は…。」


そんな暇なかったよ。

だって、兄貴を助け出した後、

朝ごはん食べてから母様に報告して、すぐにここに来たんだもん。


「ジュール、俺は女の子たちの様子を見てくる。

その間に兄貴への説明頼んだ。」


そう言い残し、俺は彼女たちの下に飛…ぼうとした。


「ちょっと待った!」


そこに現れたのは、ジュリとあの男、

魔獣や動物に詳しい奴。


「私が汗水流している間に、お師匠様は何を遊んでいるんです。」


「遊んでなんかいないぞ。

今だって女の子の所に行こうと思ってたんだ。」


「ほうっ、私に仕事を押し付けて、ご自分はまた女の子の所ですか。

そんなに女の子がいいんですか。

おままごとでもするんですか。」


失礼な奴だな。

俺は本当にあの子達が心配なんだ。

俺がむっとしていると、反対にジュリはふんわりと笑った。


「すいません、冗談です。

荒れ野の件は片付きました。

トーマスの助言をもとに、生態系を崩さぬように、害獣は退治しました。

その中の希少動物は深い渓谷の向こう側に移動しましたし、

ある程度問題の無い魔獣、動物は残しました。

余り狩ってしまうと、移り住んだ人が困りますからね。」


「仕事が早いな。

俺はてっきり調査に行っただけかと思ってた。」


「そんなまどろっこしい。

調査結果の発表や人員の移動をして時間を食うより、

自分で片付けた方が早いですからね。」


飛翔魔法も有りますし。

ニコニコ笑いながら言うって、かなり楽しかったのかな。


「お師匠様、あかぴょんがおりましたよ。」


「えっ、本当か!」


「ええ、それも群れで。

赤ぴょんは全て向こう側に移してきました。」


そっか~、ひと段落ついたら、狩りに行ってこようっと。


「あっかぴょん、あっかぴょん。」


俺はピョンピョン跳ねながら、勝利の舞を踊る。

だって、それぐらい美味しいんだもの。


「お土産に一頭だけ狩って来ましたよ。」


「本当か!?」


ジュリ、お前っていい奴だな。

今日はあかぴょんの塩焼きだ。


「ただ、角は口止め料代わりにトーマスにやる事になっておりますが。」


「そんなもんいらないよ。

俺は肉だけあればいいんだ。」


あぁダメだ、顔の筋肉が緩みっぱなしだ。


「ご歓談中失礼いたします。

あの、ヴィクトリアさま。

そのあかぴょんと言うのはもしや……。」


ジュールが口を挟んでくる。


「教えてあげな~い。

俺の取り分が減るもの。」


「お師匠様、取り分ではなく、

独り占めする気でしょう。」


そんな事しないも~ん。

欲しい奴がいたら狩りに行けばいいだろ。

その深い渓谷の向こうに。

ふっふっふっ。

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