第43話 作業まだ続行中

「お師匠様、あかぴょんは夜です。

昼間からバーベキューはしませんからね。」


「う!? うぅ~~~。」


「そんな目をしてもだめですよ。

仕事が片付かない限り、お祭りは無しです。」


仕事さえ終われば、あかぴょんでバーベキューOKなのか?

でも、とにかく今夜はあかぴょん食べれるよな。

仕事しよう。


「ジュリ、荒れ野の方は片付いたんだな。」


「はい。」


それじゃあスラム作戦を開始しても大丈夫だな。


「荒れ野の凶暴な奴は排除しまくったんだよな。

あそこを縦横無尽に飛んで来たよな、だったら地理も把握できるよな。

何処に村を作ったらいいか、水の確保から、

畑の開拓にいい所とか、だいたいわかるよな。

木材の調達ができる林とかさ。

まあ切り倒した後は、魔術師に木の乾燥を任ればすぐに使えるな。

家の建て方を教える人がいれば、後は自分達で建てるように教育すればいいし。

それを職業にもできる。

後は、当座の食料とある程度の金銭か。

色々な材料や、資材や道具も必要だ。

いや、金で渡すより、現物支給の方がいいか。

他に必要な事はあるか?

有れば言ってくれ。

そうだ、お前が残してきた食料用の魔物がいたな。

それに襲われた場合に狩人も必要か。」


「お師匠様、張り切るのは分かりますが、

まずはスラムの人への説明でしょう。」


あ………。

そうか、全員了承する訳じゃ無かった。

あそこに留まると言うやつもいる可能性も有った。

無気力な奴ほどそう言うだろうな。

だが、出来れば全員移ってもらいたいんだがな。


「よし!

それも含めて全てジュリに頼む。

乗り掛かった舟だ。

地理とか把握しているのもジュリだし、

必要な人員の事だったらジュールに頼んでくれ。」


そう、これも丸投げ、頼むぞジュリ。


「分かりましたよ。

つまりスラム関係は全て私任せでいいのですね。

では、お師匠様に相談無く、全て私が決定しまいますよ。

いいんですか。」


「いや、その方のが有難いんだけど。」


とにかく形にしなければいけない事が有り過ぎる。


「分かりましたよ。

やりますよ。

でも、私に黙ってどこかに行かないで下さいね。

逃げても無駄ですからね。」


はて?

と思って気が付いた。

そうか、俺には追尾用の魔方陣が付いていたんだっけ。

すっかり忘れていたよ。


すると後ろの方から、兄貴の声がした。

そう言えばいたんだよね。


「あの…、ジュリアさんのご兄妹の方ですか?」


そっか、まだちゃんと紹介してなかったな。


「ジュリウス・フリザールだ。

俺の弟子で、今は教祖をしている。」


「お師匠様、していたの間違いです。

そう言えば正式名を名乗っていませんでしたね。

こんにちはエドモントさん。」


「えっと…、ジュリウス様………。

確か教会を統括されていらっしゃる大教祖様…は、

ジュリア様のお兄様でいらっしゃいましたか。」


「やだな~兄貴、ジュリアはジュリだよ。

あの時会った本人。

気が付かなかった?」


兄貴の目がジュリの胸をじっと見つめる。

そんなに見つめても、膨れるもんじゃないぞ。

あの時の胸はフェイクだ。

そこには盛り上がりも無く、ローブの前身頃はストンと地に向けて落ちている。

がっくりと肩を落とす兄貴の背中が哀れだ。


「ヴィクトリア……。」


「悪い兄貴、旅の間に色々有ってさ、二人とも変装したりしなかったりでさ。」


ホント、色々有ったんだよ。

今もそれが続行中だけどさ。


「ジュール…、は忙しいか。

誰かエドモントを慰めてやってくれ。

兄貴、忙しいんだから早く立ち直ってよ。」


そうだ、一応兄貴も戦力の様だから、遊ばせておく訳にはいかない。


「だ…い丈夫だ。

そんな暇など無い。

早く王や王子達を何とかして、この国を正常に戻さねば。」


「ア~、えっと兄貴、それもう済んだから。

次の段階に入っているから。」


「何…?」


俺はしょうがないからざっと簡略的に、今までの事を話した。

再びガックリと肩を落とす兄貴。

誰かやっぱり慰めてやって。

そして早く立ち直ってね。


兄貴に駆け寄った人が、

”あなたは人間なんですから、

サンサーラでいらっしゃるヴィクトリア様と違います。

気を落とされませんように”

って聞こえたぞ。

悪いけど、俺も人間だよ。

例えサンサーラだって人間だよな?

化け物じゃ無いよ?



ジュリは測量士や植物学者など、今回は大人数を伴い、

再び荒れ野に向かった。

今度は知った土地だから転移か。

時刻は今、午前10時過ぎ、

ジュリ~、夕食の支度までには戻って来てよ。

赤ぴょん楽しみにしているんだからな。



それから俺は、やっとあの少女たちの所に行った。


気が付いた侍女さん達が、サッと俺に礼を取ったが、

すぐに少女達の世話に戻った。

ご苦労様です。

女の子たちは、かなり落ち着いている様だが、

やはりまだ不安定なんだろう。

必ず担当の侍女さんを目で追うか、付いて回っている。

しかし、その中でも、やはり親を殺された羽を持つ女の子エルケは、

やはり宙を見つめるだけで、何の反応もしない。

俺は彼女の傍らに座り、小さなその体をそっと抱きしめ、

子守唄を歌いながら、ゆっくりとしたリズムに合わせ、

ポンポンと背を叩く。


「月夜のお山で、コロロン、コロロ、お池のカエルが歌います。…………。」


唯一俺が知っている子守歌だ。

母様が歌ってくれた歌。

すると彼女の目から、一粒、二粒と、澄んだ雫が落ちた。

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