第25話 お手伝い

俺が気が付くと日が登っていて、俺は見慣れぬベッドで寝ていた。

どうやらここは母様のベッドだ。

だって母様の匂いがするもの。

見渡すと、とても小さな部屋で家具も最小限しかない。

多分この家には、キッチンを兼ねた居間の他は、

母様の部屋と兄貴の部屋しかないのだろう。


そういえば今日は予定が有ったんだ。

思いっ切り親孝行をするんだ~~!

日の高さからすると、まだ朝は早いはずなのに、すでに母さんの姿はない。

多分朝食の支度をする為に、キッチンに行ったのだろう。

今日来る予定になっているジュリは邪魔だから、手紙を飛ばしておこう。


《俺はここに留まる。家族水入らずで過ごしたい。お前は自由にしろ。》


まあ、大雑把な手紙では有るが、あいつには分かるだろう。

さて、母さんに少しでも娘がいる気分を味わってもらう為には、まずはドレスだな。

せめてかわいいと思ってもらえるもの。

何かないかなーと思いながら、手元のテーブルに指で丸を書き、

オープンとつぶやいて、少女用のドレスを探してみる。

え~と、有った有った。

俺のボックスにはこんなものまで沢山入っているんだ。

でも名前の羅列だけでは、色や形やサイズなんかが一体何が何だか分からない。

…今度検索しやすいように、何とか手を加えておこう…。

結局ドレス選びを諦めた俺は、昨日着ていた物をもう一度身に付けた。

ジュリに知れたら、不衛生だ何だとヒステリーを起こすだろうな。


身支度を整えた俺は、母様を探しに行く。

そうは言っても隣の部屋に行っただけなんだけど。

案の定母様は料理の真っ最中だった。


「おはようヴィクトリア。

まだ寝ててもいいのよ?」


確かに眠いけれど、今日は母様の手伝いをするんだ。

トコトコと母様の所に行き、その手元を見る。

朝食の支度をしていると思っていたけれど、

どうやら店の売り物を作っていたようだ。

狭いスペースで、器用に何種類もの総菜を作っている。


「お母様、私も手伝いがしたい。」


「まあ、ありがとう。

ヴィクトリアは、お料理をした事が有る?」


有るとも。

料理は数えきれないほどした事が有る筈だ。

だけど覚えている限り、ジュリは誉めてくれた事が無かったな……。


取り合えず俺はコクンと頷いた。


「それならこのキャベツをお願いしてもいいかしら。」


母様は、俺の頭ほども有る大きなキャベツを差し出した。

これがキャベツだってのは分かる。

うん、確かにキャベツの筈だ。

だけどこれをどうすりゃいいんだ?


「これを台に置いてね、一枚一枚剥がしてほしいの。」


母様は器用に、葉の芯の部分の間に親指を差し込み、

まるで芯を折るように一枚一枚外していく。

物凄く簡単そうだ。

よし俺もやるぞ。


そう意気込んで始めたが、どうして俺がやると大きな一枚の葉にならないんだ?

まるでジグソーパズルのピースの様にバラバラになる。

一生懸命に何とかしようと思っても、

どうしても葉が途中でちぎれてしまうんだ。

だけどそんな俺を、母様は叱りもせず、ニコニコと笑いながら見つめている。

俺はとうとう、三分の一ぐらいむしったキャベツから手を離した。


「お母様、ごめんなさい。

バラバラになっちゃった……。」


こんなんじゃ、例え千切りキャベツにするにも大変だ。


「何を謝るの?

キャベツは炒め物にするつもりだったから、

刻まなくても丁度いい大きさになったわ。ありがとうヴィー。」


そう言って母様は褒めてくれる。

多分メニューは急に変更したんだろうけど、

それでも母様に褒めてもらった事がとても嬉しい。


それからもう少し手伝いをしてから、朝飯を取る事にした。

(母様は俺が手伝っている間に、店に並べるメニューを全て作り終わった。すごい!)

兄貴は既に自分で朝食を摂り、仕事に出かけた。


「ヴィクトリア、今日の昼の忙しい時間が過ぎたら、

街にお買い物に行きましょう。」


いいですよ~、荷物持ちだろうとボディーガードだろうと、何でも来いだ。


しかし昼過ぎに、母様に連れて来られたのは、衣料品店だった。

多分母様は、俺が昨日から着ていた男の子の服を見て、

娘の服を買いたかったんだろう。


「お母様、私着替えあります。

だからドレスなんていりません。」


俺の為に金を使わせたくなかったし、

本当に、山のように、とんでもないほどのドレスが有るんだよ。


「そんなに遠慮しないでいいのよ、

今まで分まで、ヴィクトリアを可愛くしてあげたいの。

ね、お願い。」


でもなー、だけどなー、いっそのこと持っているドレスを母様に見せるか?

いや、そうもいかないしな~。

まあ甘えるのも孝行の内か。

俺は覚悟を決めて、その店の中に母様と一緒に入った。

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