第22話 見つかっちった

俺達はクリエジュの町で、宿を取った。


「どうしようジュリ。

母様達がそんな酷い事になっているなんて、思ってもみなかった。」


部屋に入り、すぐにジュリに助けを求めた。

俺の体は、カタカタと震えている。


「とにかく、実際にはどういう状況か確かめてみます。

私はすぐに町に出て聞き込みをしてきますから、

お師匠様はここで休んでいて下さいね。」


「えっ、俺も一緒に行く。」


お前一人に任してはおけないよ。


「俺、よく屋敷を抜け出して町で遊んでいたから、

知っている人もいるし、道にだって詳しいよ。

俺と一緒の方が情報が集めが易い筈だ。」


「でも、お師匠様具合が悪いのでしょう?

それにこんなに大きな町では、正体がばれやすいと思いますよ。

男の子のかっこうでは、既に手配書が回っていましたし、

女の子の姿では、この町ならかなりの見知った人がいるでしょう。

お師匠様はなるべく人に合わない方がいいと思います。」


「そんな事ないよ、手配書なんてそんなに張り出して無かったじゃないか。

少ない手配書の男の子の顔なんて、いちいち覚えてないって。

大丈夫だって。」


するとジュリは俺をじっと見つめ


「そうでしょうか……。私にはすぐに分かりますが。」


「そりゃぁ、ジュリだからさ。」


他の人には分かりゃしないって。

まあ、取り合えず、ボックスから変装道具を取り出し、装備する。

変装道具と言っても、大きめの帽子の事だけどさ。

それを目深にかぶり、さ、行くぞ。


とにかく身内に見えるよう、女装したままのジュリの手を握り、

陰に隠れるように歩く。

そして俺は小さな声で、ジュリにナビをする。


「この先は食品を売る店が続いているから、

町の主婦がよく買い物に来る通りだ。」


「それなら聞き込みにうってつけですね。」


そんな場所には噂話の好きな主婦がよく集まる。

主婦の情報網は馬鹿にできないぞ。

朝あった事件が、夕方には町中に広がっているほどだ。

たまにその噂が、一人歩きをしている時も有るけどな。


するとジュリはボックスから買い物かごを取り出し、

俺と手を繋いでいる反対の腕に掛ける。

そんなものまで入れてあるのか。

どういう時に使うつもりだったんだ?


「今、役に立つのだからいいではないですか。」


まあ、スペースが余っているなら、何を入れても文句を付けるべきでは無いな。

俺にもたまたま拾ったかっこいい形の枝なんかが、かなり入っているし。


とにかく俺達はその状態で、賑わう街をゆっくりと歩く。

これなら買い物に来た親子連れに見えるな。

小耳にはさむ話は、あまり俺達の興味を引く話じゃない。

すると、しばらく行った先にとても混んでいて、行列ができている店が有った。

どうやら惣菜店みたいだな。


「ジュリ、あそこなら立ち止まっていても不審がられないし、

じっくりうわさ話が聞けるんじゃないか?」


「そうですね。」


ジュリも賛成し、俺達のその列に並んだ。

店先にはいろいろな種類の惣菜が並んでいる。

懐かしいな。

その中のいくつかには覚えが有る。

母さんが時々コックの目を盗み、キッチンに忍び込んで、作ってくれた料理だ。

ジュリに頼んで買ってもらおう。


「なあジュリ、あのブリアーニュとソルバとミカリを買ってくれないか?」


「いいですよ。」


やったー、後でパンも買い込んで、今日はこれで夕食を取ろう。

順番となったジュリはカウンターに行き、料理を包んでもらうべく注文した。


「ヴィー、他の物はいいのですか?」


するとそれを聞いた料理詰めていた女の人が、


「えっ、ヴィー?ヴィーですって!?」


と言い、ジュリの目線の先にいる俺を見つめた。

俺も彼女を見つめる。

マジっ!ビンゴ!一発目で大当たりって言うか、ばれた?

彼女は俺の現世の母親、セレスティーナだった。


「ヴィー!ヴィクトリア!」


カウンターを回り、中から彼女が飛び出してきて俺を抱きしめる。


「ひ、人違いでは…。」


俺、帽子かぶってるし、男のカッコだし…。

ああ、名前を変えておかなかったことが今になって悔やまれる。


「自分の娘を間違える母親がどこにいますか!」


久しぶりに母様に怒られたな……。


「ヴィクトリア、ヴィクトリア、無事だったのですね。

良かった、本当に良かった!」


彼女は綺麗な青い瞳から大粒の涙をポロポロと流しながら、

俺をギュッと抱きしめる。


「ごめんなさい、お母様。

私…私のせいでお母様やお兄様が大変な目に……。」


「そんな、何を言っているの。

私達の方こそあなた一人に辛い思いをさせてしまいました。

お父様に何も言えなかった私が全て悪いのです。

ごめんなさいヴィクトリア。」


「でも…でも~~!」


俺も思わず本泣きしてしまった。

きっと今の俺は7歳の娘なんだ。

でも本当にごめん、母様 がしなくてもいい苦労をしているのは、

きっと全部俺のせいなんだ。

絶対俺が何とかするから。

母様達が元のように生活できるようにするから。

するとお母様は優しい手つきで俺の帽子を脱がした。

一瞬絶句してから、俺の髪をなでる。


「あの綺麗だった髪が…、切ってしまったのですね…。

これと言うのもあのくそじじいのせいだわ。」


くそじじいって…それ、もしかしてくそ親父の事だよね?


「セレスさん,一体どうしたんだい?」


どうやら店のお客さん達は、何事かと遠巻に見ていたようだ。


「あ…、いえ、あの…。」


母さん、何て言っていいかわからず、ちょっと困っているようだ。

きっと、町の人には詳しい事情を話して無いんだろうな。


「すいません今日は少し早いのですが、閉店にさせて下さい。

代わりにと言っては何ですが、残っているお惣菜は、すべて無料でお配りしますね。」


本当かい!

いや、悪いねえ。

みんな口々に声をかけてくれる。


「よし、後はあたしに任せときな。

何か事情が有るんだろ?

ほら、さっさとその子と上に行きな。」


「ロゼさん、ありがとう。」


「いいってことよ、さあみんな、あたしが包んでやるから一列に並んだ並んだ。」


男前なおばさんの声に送られ、俺達は脇の細い階段を上がった。


どうやら2階は住居になっているようだ。

兄貴も一緒に住んで居るのかな?

ジュリも一緒に上がってきてくれた。

うん、一緒に居てもらうと安心するからうれしい。



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