第21話 海の幸

「良かったらこちらのヨウカンも召し上がってみてくだされ。」


じいちゃんがお茶と一緒に出した物を勧める。

黒い真四角で光沢がある物。これはやはり食べ物だったんだ。

もしかして、さっき言っていた菓子ってこれの事かな。

俺はそれを、そのまま掴もうとしたら、


「横に置いてあるクロモジと言う棒で切り分け、

フォークの様に刺して食べるんだよ。」


そう言うと、爺ちゃんは先に見本を見せてくれた。

なるほど、意外と柔らかいんだな。

俺とジュリも真似して食べてみた。


「甘い、とても甘いですが、これとお茶を一緒にいただくと、

お茶の渋みとマッチして、とても美味しいです。」


ジュリはヨウカンも気に入ったようだな。

俺か?俺も気に入った。

特にこのお茶はすごく気に入った。


「このお菓子は初めて食べました。」


「はは、これは何でできていると思いますかな。」


「砂糖が入っているのは分かります。あとは、食感と言い、

この歯触りと言い、いったい何で出来ているのでしょうか。」


「主原料はささげという豆の一種です。

それをアクを抜いてからとても柔らかく茹で、

それから……、

まあ説明すると長くなりますかな。

とにかく、煮た豆と、砂糖を寒天で固めたものです。」


「寒天?」


「あぁ、そうか。

ここでは食べないものでしたな。

寒天とは海藻の一種です。まあ皆さんはそれを聞くと、始めは驚かれますな。」


「海藻を食べるのですか。初めて聞きました。それもスイーツにするとは。」


「食べられる海藻は、けっこうあるのですよ。

私の祖国では色々な海藻を食べていました。

海藻に限らず、色々な海の幸が有るのに、

この世界ではあまり食べられていない事が、もったいないと思いましたよ。」


「爺ちゃん、海の幸って魚とかだろ?

俺、港町に行った事が有るから食べたことあるよ。」


「そうだな、魚、貝、海藻、エビ、カニ、たこ、

他にもいろいろ食べれるものは沢山有る。

ただとても痛みやすいので、海の近くでしか食べられない事が残念だなぁ。」


「貝!?確か貝には毒が含まれている事が有り、

大変危険な食べ物だと聞きました。

どうかそんな危ないものを口にしないで下さい!」


ジュリが目をむくように、爺ちゃんに食って掛かっている。


「あぁ、そういうものも有りますな。

わしもあまり詳しくないから知りませんが、

大抵のものは、季節や潮を気を付ければいける物らしいですぞ。」


「塩?」


「そう、潮です。」


ジュリが、塩は種類によって、毒消しになるのか?とぶつぶつ言っている。


「爺ちゃんて、海の幸って好きなの?」


「おお、好物じゃ。」


「それじゃあ、今度お土産に持ってくるね。俺達港町にも行く予定が有るんだ。」


「しかし、それらはとても足が速いんじゃよ?

干し貝など加工品ぐらいしか持って帰れないんじゃないか?

まあそれもわしは好きじゃがな。」


じいちゃんはちょっと寂しそうにそうに微笑んだ。


「僕達には秘密兵器が有るじゃないか。」


「?」


「じいちゃんにあげた麻袋、ジュリアさんや僕のアイテムボックス。

これって、中に入れた物の時間が止まってしまうんだよ。」


「時間が止まる?」


「うん、だから、例えば捕ったばかりの魚をすぐ入れるとするだろう?

するとアイテムボックスから出すまでそのまま新鮮な状態なんだ。」


「では、生きた魚を入れたら、出した時もピンピンしてるのか?」


「それは無いな。

何故か出した時は死んだばかりの状態なんだ。

だから、根っこが付いている植物は、出してすぐ植えても成長しない。

そこから枯れが始まるんだ。

ただ、種って別みたい。

あれって乾燥してしまっても適切な処理をすれば芽を出すだろ?」


「なるほど、中に入れる物の種類によって、使い方はいろいろあるわけじゃな。」


「だからさ、魚なんだけど港町で買って、すぐボックスに入れれば、何日たってもそのままで、取出した時は新鮮そのものって具合さ!」


「なるほど、それは楽しみだな。もしかしたら、刺身が食べられるかもしれん。」


「さしみ?」


「ハハハ、食べる機会があったら教えてあげような。」


何だかわからないけど、どうやら美味しい物らしい。

楽しみが増えたな


「私も、ご相伴にあずかってもよろしいでしょうか。」


ジュリ、ずうずうしいぞ。


「おお、もちろんです。その時はぜひヴィーと一緒においでください。」


ジュリ、ずいぶんうれしそうだな。


「ヴィー坊、それなら、先ほど入れた土は、ここから出した時は掘った時と同じ状態なのか?」


「そうだよ。」


爺ちゃんの考えていることが何となく分かった。


「そいつは助かる。」


だよねぇ、いつもは運んできた土は、置いておくと乾燥してしまうから、

作品を作るは水分を加えて練り直さなきゃならないんだ。

爺ちゃん苦労してたもんな。

じいちゃんの嬉しそうの顔を見ると、お土産を渡せて本当に良かったと思う。


「それにしても、あなたの故郷では、ずいぶん進んだ食文化が有るのですね。

うらやましい限りです。

もしよろしければ、またお話を聞かせて下さいませんか?」


ジュリ、文化じゃなくて食文化かい。


「ええ、このじじいのたわいのない話に付き合っていただけるのなら、

いつでもおいで下さい。」


「ありがとうございます。」


これは絶対来るな。たとえ俺が付き合わなくても一人でも来るな。

お前帰りにこの場所をマークしてく気満々だろう。



さて、そろそろ帰ろうかという時、ジュリがトクゾーじいちゃんに話しかけた。


「ところでトクゾー様、この先のクリエジュの街に

オブラエンと言う方のお屋敷が有る筈なのですが、ご存知ですか?」


「ああ、在りましたな。もしかしてお知り合いですか?」


「え、ええ、奥様と古い知り合いで。」


ジュリ、ナイス!!


「そうですか、…何もご存知ではないのですかな?」


「はい、事情が有りまして、少しの間この土地を離れておりましたので。

ここに戻る途中、最近良くない事が起こったらしいと

噂を耳に挟みましたので気になりまして。」


「そうですか………、

少しショックだと思われますがお聞きになりますか?」


「…はい。」


じいちゃんは知り合いと言ったジュリに気を使っているようで、

言葉を選びながらも淡々と話してくれた。


「わしもそんなに詳しくは知らないのですが、

何でも下の嬢ちゃんが素晴らしい癒し手と分かり、

聖女様の降臨とまで言われて、病人やけが人を直していたのじゃが、

ある日王様の依頼を、たった一つ断ったばかりに王家の不信を買ったらしい。」


「……。」


「しかしその日を境に嬢ちゃんの姿が掻き消えたそうで、

オブラエン家はもちろん世話になった人達などが、

街を上げて探したが影すら見つからなかったと聞きます。

噂では腹を立てた王が嬢ちゃんを攫ったとか、

すぐれた癒し手であったので誰かにさらわれたのかもとか、

実は天使で、蔑ろにされた嬢ちゃんを憐れんで神様が天に連れ帰ったとか

色々な噂が飛び交いましたな。」


「おやおや。」


「その後も、依然として嬢ちゃんは見つからなかった為、

王はオブラエン家の主に約束が違うと腹を立て、

オブラエン氏を捕らえようとしたのですが、

その時はすでに金をかき集め、姿を消した後だったとか。」


「では奥様と息子さんは?」


「それは…、屋敷から家財から一切没収され、身一つで放り出されたらしいです。

それでも命を取られなかっただけでも幸運だったと言ってな、

今は嬢ちゃんが帰って来ると信じて、

この国に留まり町に家を借りて住んでいるらしいですじゃ。

坊っちゃんの方は、入っていた騎士団を追い出され、

今は町で何かしらの仕事に付いて、母親と二人で住んでいると聞きましたな。」


俺のせいだ、どうしよう。

母さんと兄ちゃんはそんなに苦労していたのに、

その間、俺はのうのうと冒険だ何だと好き勝手やっていたんだ。

俺がいきなりいなくなったから、、母さん達はさぞかし心配もしただろうに……。

そんなこと考えていたら、体の調子が悪くなってきた。


「どうしたの、ヴィー、具合が悪そうです。」


ジュリが俺を見て心配げに言った。

すまないジュリ、本当に気分が悪くなってきたんだ。


「申し訳ありませんトクゾーさん、どうやらヴィーの具合が悪そうなので、

これで失礼させていただきます。」


「どうしたヴィー、気持ちが悪いのか?

そうだ、山で採った良く効く薬草が有る。すぐに煎じてあげよう。」


「いえ、それには及びません。有意義な時間を過ごせてとても楽しかったです。

本当にありがとうございました。」


「そうですか、残念です。

ヴィーよくなったらまた遊びに来てくれな。」


「うん、ありがとう。じいちゃんお茶ごちそうさま。また絶対来るからね。」


「おう、待っているぞ。」


そして俺とジュリは別れを惜しみながら転移した。

あ、靴忘れた。

そう言ったらジュリが素早く取りに行ってくれた。

ついでにヨウカンも貰って来たみたいだ。

後で俺にも分けろよ。

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