第20話 タケゾー爺ちゃんの家

一息ついた後、爺ちゃんはうれしそうに俺があげた15枚の袋に、

かなりの土を詰め込み、それを面白そうに麻袋の中に入れている。

それから土を入れるつもりで背負ってきた背負子や、

スコップなどの手荷物も次々と麻袋に入れ、

最後は折り畳んだ麻袋を懐に入れて完璧に手ぶらになった。


「何も持ってないと、なんか手持無沙汰だな。」


そんな愚痴もうれしそうだ。

そして用の済んだ俺達は早々に移転魔法で森を後にした。


「いやー、今日は本当にいい1日だった。

いくらお礼を言っても足りないぐらいだ。

ありがとうヴィー坊、ジュリアさん。

そうだ、時間も早いし、久しぶりにわしの庵に寄って行っていかないか?」


森を抜けた安全な場所で、爺ちゃんが誘ってくれた。

まだ日は高いし、寄って行きたいな。


「ジュリアさん、行ってもいいよね。」


「いいけですけど、お邪魔ではありませんか?」


「いやいや、自家製で悪いのですが珍しいお茶と、

先日作ったばかりの菓子も有る。ぜひ寄って行って下さい。」


「珍しいお茶ですか?」ワクワク


食べる事もだが、お茶にも目が無いジュリはもう行く気満々だな。

それならじいちゃんの庵の場所を知っている俺が、移転魔法で連れて行こう。




じいちゃんの庵は、谷の斜面を利用した登り窯のすぐ脇に有るんだ。


「なかなか趣が有りますね。」


ジュリは感慨深げに呟いた。

異国風な作りで、入り口はドアではなく引き戸になっている。

俺も初めて来た時、見たことが無い構造にびっくりした。


「ささ、どうぞ上がって下さい。」


ジュリ、きっとびっくりするぞ。

爺ちゃんが開けてくれた入り口を入ると、土の土間と言う場所があって、

1段高くなった場所に靴を脱いで上がるんだ。

俺が先に手本を見せると、ジュリも俺にならって上に上がった。


「室内では靴を脱ぐのですか。」


この国ではベッド以外は靴を履いているのが一般常識だ。

勿論、自宅ではスリッパのような簡易的なものに履き替える時も有るけれど。

ジュリは最初は慣れない風習に戸惑っていたが、

それでも10分程すると、どうやらそれが気に入ったようだ。


「開放感たっぷりです。」


うん、とても嬉しそうだな。

これに慣れると癖になるんだぜ。

爺ちゃんちの今いる生活スペースは、草を編んだような少し弾力がある床で、

とてもいい匂いがする。

そして、床の真ん中には足の短いテーブルが有る。

それを指さし、ジュリに


「ここに座るんだ。」


そうジュリに言うと、思った通りジュリはテーブルに腰かけようとした。


「違うんだなぁ、直に床に座るんだよ。

これはテーブルだ。」


「そうなんですか、失礼しました。ずいぶん変わった文化ですね。

もしかして、トクゾー様は外国の方ですか?」


「まあ外国と言えば外国ですかね。

この世界からすれば、外国みたいなものかもしれませんな。

そう言えば、わしの世界の国にも靴を履いたまま生活をしたり、

外でもはだしのままの国など、いろいろな文化が有りましたな。」


「ハァ、そうなんですか。

まあ、気候によってなんでしょうか。

その土地によって根付く色々な文化が有りますからね。」


「そうですか、この世界でもいろいろな文化が有りますか。」


いまいち二人の話が噛み合わない気がする。

まあいいや。

爺ちゃんは、取って置きだと言ったお茶を入れてくれた。

何でも、偶然見つけたお茶の木を家の近くに移植し増やしたそうだ。

それからは季節になると、

一枚一枚丁寧に新芽を収穫し、このお茶を作るんだと教えてくれた。

茶卓と言う木の皿の上に自分で焼いた持ち手のないカップを乗せ、

丁寧にお茶を入れてくれる。

でも、ジュリが入れるお茶の入れ方と違うぞ。

ジュリも興味津々と爺ちゃんの手を見つめている。


「さぁ、召し上がってみて下さい。」


そう言ってお茶を差し出してくれた。

持ち手がないからちょっと熱いんだけど、触れないほどではない。

色もいつも飲むお茶とは大分違う。

いつものお茶は赤茶色、でもこれは澄んだ緑色をしている。

変わった色だなぁ。

香りも何て言うかみずみずしい香りがする。


「お口に合うといいのじゃが。」


ささっ飲んでみて、と言うような期待に満ちた目で俺達を見ている。

まあ、爺ちゃんが出してくれた物だ。

毒になるような物じゃ無いって分かっている。

それでも俺は初めてのチャレンジに、恐る恐る一口飲んでみた。


「ちょっと苦いけど、どうしてだろう、ほんの少し甘みを感じる。」


いつも飲むお茶には砂糖を3杯入れるんだけど、不思議とこれは、そのまま飲める。

いや、砂糖など入れたらこの、奥に潜む甘味が消えてしまうだろう。


「そうですね。とても深い上品な味わいです。

おいしい…。」


「お口に合って何よりです。

このお茶はわしの国では緑のお茶と書いて、緑茶と言います。」


俺達が美味しいと気に入ったのが嬉しかったのか、

爺ちゃんはさらに皴を深くして、ニコニコと笑っていた。


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