第4話 私のいた場所 2

セレナが行方不明だと言う事は分かりました。

でも、セレナは一体どこに行ってしまったの?


一人で帰る途中誰かに連れ去られてしまったのでしょうか。

それともマティアス様の事で、傷付いた心を抱えたまま、

家出をした可能性も有ります。

兎に角すぐに出来る限りの手を打たなければ。


到着した警官に、通り一遍の事を聞かれた。

名前は?生年月日は?いなくなった時の状況は?

どうしていなくなったのか何か思い当たる事は有りますか?

行き先に心当たりは?

そんな事が分かっていたなら、あなた達にセレナを探してなんて頼まないわ。

この役立たず!

なんて表立って文句は言わないけど。


必要な情報だけ聞いた警官は捜索願を受理して帰っていった。


「やはり専門家に依頼をしなければ。」


そう呟いた私の気持ちを察したのか、


「母上、私の会社の取引先に、専門の部署を持った会社が有ります。

私がすぐに連絡を取りましょう。」


間髪入れずにベネットがそう言った。


「その会社の評判はどうなの?」


「かなりいいです。

達成率80%を誇っております。」


「80%?それって5分の1は失敗しているのではなくて?」


「5分の4を達成していると言って下さい。」


「分りました。その5分の1にセレナが入らない様に頼みましたよ。」


「分っています、では。」


ベネットはすぐに動いた。

まあ、あの子に任せれば探偵関係は大丈夫でしょう。

では私は、親戚や、あの子の知り合いをあたってみましょう。


「モーガン、先日注文した車は届いていますか?

それならばすぐに用意をして。」


一般にも発売され始めた車を我が家でも先日購入した。

これなら馬の心配をしなくても、かなり遠くまで走れる。


「私はすぐに尋ねなくてはならない人たちがいます。

暫くかかりきりになる筈ですから、後の事は頼みましたよ。」


電話の無い家も有る。

此処は直に訪ねた方が早いでしょう。


「母上、セレナの事を聞きに回るのですね。

でしたら二人の方が早いでしょう。

私も近場を馬車で回ります。」


ロバートが私の考えを読み、直ぐに助け舟を出した。


「分りました。頼みます。」


「クロエ、私も行くぞ。

じっとしてなどいられない。」


あなたがじっとしていられない事はよく分かります。

でも、セレナの事を溺愛していることを分かっているからこそ、

あなたには直に動いてほしく無いのです。

もしもの時には、何を仕出かすか分かりませんから。


「あなたにはやってほしい事が有るのです。」


「なんだ?何でもやるぞ。」


「助かります。

ではあなたは……仕事をなさって下さい。」


「何だと?しごとか?何の仕事だ。」


「ですから、いつもなさっている仕事です。」


「いつもしていると言うのは、会社とか店関係の仕事か?」


「ええ、その通りです。」


蚊帳の外に追いやる様で可哀そうだと思うけれど、

何か有った時はあなたは耐えられないでしょう?

だからこそあなたには一歩引いていてほしいの。


「ベネットもロバートも暫く仕事に携わることが出来ないでしょう。

モーガンにしても、此処で連絡係として動く事は出来ません。

あなたまでこちらに掛かりきりになれば、誰が仕事の面倒を見るのです。

いつお金が必要になるのか分からない時です。

経営を圧迫させる訳には行かないのですよ。

分かった事はすぐに連絡をしますから、

あなたはこちらの方をよろしくお願いします。」


多分納得はしないでしょうが、此処は何とかしなくては。


「だったら私が動いて、

ベネットかロバートがこちらの仕事をしたらいいだろう。」


そう、会社や店などはこの人は相談役として現場から身を引き、

現在は息子達が引き継いでいる。

だけど……。


「何を仰っているの。ベネットにしても、ロバートにしても。

最後にはあなたの決裁が必要になるのですよ。

でしたらあなたが此処に居た方がよっぽど効率がいいでは有りませんか。

よく考えて下さいませ。」


こんなにセレナの事を思っている人に、

此処に縛り付けるなど、可哀そうであまり言いたくは無かったけれど、

こればかりは仕方が有りません。


「くっ、くそっ、……お前の言う事も一理ある…。

分かった、こちらは何か有った時には、すぐに金を出せるようにしておく。

会社の方も私が守る。

だからセレナの事をよろしく頼む。」


「分りました。

何としてもあの子を見つけて見せます。

ですから辛いでしょうが、あなたもよろしくお願いします。」


「あぁ、任せておけ。」


そう言って私を抱きしめキスをする。

本当に辛そうなあなた。

私は彼の頬をそっと撫で、少しでも安心させるように微笑んだ。


「大丈夫ですよ。

あの子はああ見えて強い子です。

きっと無事でいますとも。」


そう、きっと無事でいてくれるはず。

私はそう思い、そっと心の中で十字を切った。

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