アリスおばあちゃん、異世界の扉を開く

アリスおばあちゃん、異世界の扉を開く(1)

 ある日、アリス出版社からアリスおばあちゃんのスマホに、『若返法について』の本を出版するにあたって打ち合わせをしたいと連絡が入り。明日、午前10時にアリス出版社で打ち合わせをすることになった。


 このアリス出版社は、アリスおばあちゃんの自宅から1キロ離れた場所にある大手の出版社。その隣には、アリス書店があり。アリス書店の創業者は、『不思議の国のアリス』の作者の親戚。その親戚の息子の長男がアリス書店を引き継ぎ、次男はアリス出版社を立ち上げ。今は、孫たちが経営を引き継いでいる。


 翌日、アリスおばあちゃんは、歩いてアリス出版社に行くと。受付のカウンターに女性の社長秘書が現れ。社長がアリスおばあちゃんにお会いしたいと告げられ、突然の申し出に困惑気味のアリスおばあちゃんだが、その申し出を受けた。


 アリスおばあちゃんは、少し緊張しながらも社長室に通され。いかにも社長室といった感じを受ける部屋。しかし、社長は席を外している様子。

 すると、アリスおばあちゃんは、右側の本棚に目が行き。そこには100冊以上の本が並んでいる。不思議と吸い込まれる感じを受け、本棚に足が向き。

「アリス様、どうかされました?」

「いえ、ちょっと本が気になって」

「そうですか。やはり、気になりますよね。ここにある本」

 そう言うと、社長秘書はこの本棚の本について説明を始めた。

 

 ここには、『不思議の国のアリス』の作者の初版本が並び。この作者が関わっている本も並んでいます。他にも、アリスのモデルとなった「アリス」が読んでいた本も残されています。ただ、その中の1冊に、タイトル『アリスの本』と書かれた本があり。その本を開くと真っ白なページだけで何も書いていません。そう言うと、社長秘書は少し喋りすぎましたと言い。紅茶を用意しテーブルに置き。こちらのソファーに座って、15分ほどお待ちくださいと言うと、社長室を出た。


 1人取り残された感じのアリスおばあちゃん。あの本棚にある、『アリスの本』が妙に気になっている。タイトルは書いてあるというのになんで何も書いていないのか。それを大切に保管しているように思え、紅茶を1口飲み、あの本棚に行き。まるで私を呼んでいるような感覚になり、躊躇なく『アリスの本』を手にした。

 すると、手にした本がいきなり光輝き、アリスおばあちゃんは、光が眩しくて思わず目を瞑り、その場に座り込んだ。数秒間、目を瞑っていると、声が聞こえる。

「なんだあれは!? 人間か!?」

「何者だ!?」

「見たこともない、生き物がいるぞ!」

 その声に、アリスおばあちゃんは目を開けると、大勢の動物が。いや、人間のように2本足で立っている。大勢の人がきぐるみを着て、そのうえ服まで着ている。ここはいったいどこなのか。さっき間でアリス出版社の社長室にいたはず。アリスおばあちゃんは、困惑し、見知らぬ店先前で座り込んでいる。

 その時、パンダのきぐるみを着た人がアリスおばあちゃんに向かって指を指し。

「あいつ、宇宙人じゃないのか!?」

 突然、宇宙人呼ばわりされたアリスおばあちゃん。その言葉に触発され、大騒ぎになり、見渡す限りきぐるみを着た大勢人たちに囲まれている。

 そこへ、ウサギのきぐるみを着た警官が現れ。その警官は、拳銃をアリスおばあちゃんの方へ向け、その距離約8メートル。


 アリスおばあちゃんに向けられた銃口。危機迫るアリスおばあちゃんは、いったい何がどうなっているのか、さっぱりわからない。しかし、このままでは、そう思った時、体が異常に軽く感じた。

 警官は、今にも発砲するかのようなこの異常な雰囲気。そんな中、アリスおばあちゃんは思った。私は何も悪いことはしていない。なぜ私が宇宙人と言われるの。いや、その前に、このきぐるみの人たちはなんなの、ここは逃げた方がいい。この群衆の視線はやはり異常。あの警官は、無暗には発砲できないはず。この群衆で逃げる私に発砲したら、この人たちにあたってしまう。一か八か、逃げることを決めたアリスおばあちゃんは、実は足が速い。


 警官に向かって走り出したアリスおばあちゃん。警官は驚き、別な意味で発砲しようにも発砲できない。アリスおばあちゃんの足が異常に速い、いや、速すぎる。まるで100メートルを3秒で走る速さ。

 アリスおばあちゃんは、群衆の隙間を縫うように走りぬけ。しばらく走り、警官は追ってこない、というよりも追ってこられない。どのくらいの距離を走ったのか、小高い丘の公園に来ていた。息切れもせず心拍数は正常、まったく疲れていない。あの距離を走ったのに汗一つもかいていない。


 この時、アリスおばあちゃんは、身体の異変に気づいていない。そして、先程いたあの街をこの公園から見下ろしていた。

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