エピローグ 二人は仲良くケンカする

 俺たちは昨日、お互いの気持ちを告白した。

 前々から知っていたことを改めて口にしただけの些細なことなんだが、それでも俺たちにとってそれは大事件だった。


 それで何が変わったかというと……。




「あ」

「お、おう」


 朝、いつもの場所でなじみと目が合うと、どちらからともなく目をそらした。

 逸らしつつも相手の顔はしっかりと視界の隅に入れて意識している。


「……えっと、おはようコウ」


「あ、ああ。おはようなじみ」


 なのに気まずくて正面から相手の顔が見れない。


 それはもちろん昨日のことが原因だ。

 なじみの顔は見れないけど、視線はどうしてもなじみの方に向かってしまう。


 あれは夢なんかじゃなかった。

 俺は、昨日なじみと……。


 気がつくとなじみが俺の方をじーっと見ていた。


「……エッチなこと考えてるときの顔してる」


「か、考えてねーよ!」


 別に、エッチじゃないし……。

 恋人同士なんだから普通のことだし……。


「ふうーん。どうだかなー。コウってそういうときはすぐキモい顔になるからなー」


「キモいとか嘘でもやめてくれよ……。心に消えない傷を負うだろ……」


 好きな子からキモいと言われて傷つかない男はいないんだぞ。


「あはは、ごめんごめん! コウはちゃんといつもカッコいいから大丈夫だよ」


 笑いながらそういってくれた。

 冗談でもカッコいいと言われるだけで立ち直るんだから、自分のことなから男って単純だよなあと思う。

 しみじみとそう思っていると、なじみがすぐそばまで近づいて、耳元でささやいた。


「しちゃったね、アタシたち」


「……ッ! そ、そう言うこというなよ……!」


「でも本当のことだし」


 確かにそうだけど……。


「コウったら顔真っ赤だよ。アタシとしたのがそんなにうれしかったんだ?」


「そんなの……、当たり前だろ。大好きな彼女とそういうことができてうれしくない男なんかいないよ」


「……実はね、アタシも同じなんだよ」


「えっ?」


「昨日はすっごくうれしかった。だからコウが同じ気持ちになってくれて、もっともっとうれしくなっちゃった」


「そ、そうか……。改まってそんなこと言われると、なんか照れるな……」


「そんなに恥ずかしがらないでよ! こっちまでなんか恥ずかしくなってくるじゃない!」


「そんなこといわれたって、こんなにかわいい彼女に、あんなにかわいいこと言われたら、うれしすぎて倒れそうだよ……」


「えへへ。これからもよろしくね」


 そういって笑うなじみの笑顔にみとれてしまって、俺は黙ってうなずくことしかできなかった。


 いつまでもこうしていたかったけど、遅刻をするわけにはいかない。

 急いで学校へと向かうことになった。



 結局いつも通りの日常。

 要するに、なんにも変わってないってことだ。


 まあそりゃそうだよな。

 小学校に入る前から一緒にいるんだ。

 いまさら劇的に変化する訳ない。


 それに焦る必要もないしな。

 俺たちの思いはお互いに確認できたんだ。

 これからちょっとずつでも変わっていければいい。



「んっふっふ~」


 上機嫌に鼻歌を歌いながら教室に入ってきたなじみに、クラスメイトの和歌が声をかける。


「朝からうれしそうね。なにかいいことでもあったの?」


 そう言われて、なじみがさらに笑みを深めた。


「えへへー、さっすが和歌ちゃん。やっぱりわかっちゃう?」


「そんな顔してればそりゃあね」


「とってもいいことがあったんだけど……でもアタシの口からはちょっとなあ……。ねえ、コウ?」


 いきなり話かけられて慌ててしまう。


「なっ、いきなり俺に話を振るなよ。俺だってあんなこと、言いにくいだろ……」


「ちょっと、あんなことってなによ。アタシにとってはとっても大事なことだったんだからね」


「俺だって同じだよ。ただ、わざわざ人に話すようなことでもないっていうか……」


 さすがにちょっと恥ずかしいし……。

 お互い相手に言わせようとなすりつけあう俺たちを、和歌があきれた目を向けてくる。


「なんとなく察しはつくけど……。あんたらいったい何したのよ」


「いや、それはちょっと……」


「さすがに言いにくいっていうか……」


 俺となじみがそろって言葉を濁す。

 それからなじみが、俺に聞こえるように大きくため息をついた。


「はーあ。あんな事があったんだから、コウも男らしく責任をとってくれると思ってたんだけどなー」

「本当だよな。あんな事があったんだからなじみも少しは女の子らしく素直になると思ったんだけど」


「すぐ他人のせいにする男ってカッコ良くないよね」

「すぐ他人のせいにする女の子って可愛くないよな」


「……」

「……」


 無言でにらみ合っていると、ぼそっとなじみがつぶやく。


「……コウの方からキスしてきたくせに」


「なっ……!」


 もちろんそんなことを言われて黙っていられる俺じゃない。


「なじみがキスしたいとかいってきたんだろ」


「いってませんー。コウが強引に迫ってきたんですー」


「……キス待ち顔で待機してたくせに」


「そ、そんな顔する訳ないでしょ!」


 なじみが勢いよく立ち上がって反論してきた。


「だいたいキス待ち顔ってなによ!」


「目を閉じ唇を突きだしてこううっとりしながら……」


「解説しないでよ恥ずかしい! ていうかあのときは二人とも目を閉じてたはずでしょ!」


「実は薄目を開けてたんだ」


「うーわスルーい!! てかキモっ。アタシの顔を見ながらキスしたってことは、やっぱりアタシが好きだって証拠じゃない」


「はあー? なにいってるんだよ。そんなの当たり前だろ」


「えっ?」


「なんで好きでもない女の子とキスするんだよ。そういうなじみこそ俺のことどう思っているんだ」


「そんなの大好きに決まってるじゃない。なんで好きでもない人とキスなんかしないといけないの」


「じゃあやっぱりなじみは俺のこと好きなんじゃないか!」


「そういうコウこそアタシのこと好きだって事じゃない!」


「……」


「……」


「……えっと」


「……それって、つまり」


「ああ。まあ、そういうことなんだよ」


「うん。実はアタシもそうなんだ」


「はは、なんだか照れるな……」


「うん、そうだね……。コウがこんなにアタシのこと好きだなんて……」

「本当に、なじみが俺のこと好きなのは知ってたけど、ここまでだったなんて……」


「こんなに愛されてるだなんてアタシは幸せ者だなー」


「こんなにかわいい子が俺のことを好きだなんて信じられないよな」


「はあー? コウがアタシのことを好きなんでしょ! アタシは、嫌いじゃないっていうか、好きは好きだけど、そこまでじゃないっていうか……」


「はあー? なじみが俺のことを好きなんだろ!」


「勘違いしないでくれますー? そりゃアタシはコウのことは、まあ嫌いじゃないっていうか、誰よりも大好きだけど……」


「そっちこそ勘違いしないでくれよ。そりゃあ俺だってなじみのことは、世界中の誰よりも大好きだけど……」


「……」


「……」


「……だったら、昨日のことうれしくないの?」


「もちろんうれしいに決まってるだろ」


「ふうん。やっぱり何があったか知ってるんだ」


「……ッ!! ……なんのことだかわからないな」


「あーっ! なにその態度! 人のファーストキス奪っておいて今さらヘタレるとかほんとサイテー!」


「奪ったって人聞きが悪いな。そっちから譲ってきたんだろ! むしろ俺がもらってやったんだよ!」


「ひどーい! もう、ちゃんと責任とってよね!」


「ああ、いいぞ。責任とってやるから嫁にこい」


「責任をとる気があるのなら婿に来なさいよ」


「なんでだよ。なじみが俺に惚れてるんだからうちにくるべきだろ」


「コウこそアタシのこと好きなんだからうちにくるべきじゃない」


「俺のこと好きなくせにいいかげん素直になれよ!」


「そっちこそアタシのこと大好きなんだから早く素直になればいいのに!」


「なんだと!」


「なによ!」


「あのー、ふたりとも……」


「「なんですか!?」」


 振り返った俺たちが見たものは、困ったような顔で教壇に立つ先生と、俺たちに向けられるクラス中の視線だった。

 真っ白になって立ち尽くす俺たちに、先生が控えめな声で教えてくれる。


「お二人のご関係はよく分かりましたので、将来の話はおうちでしてもらうのがよろしいのではないでしょうか……」


「「………………ッッッ!!」」


 お互い真っ赤になって席に座る。

 恥ずかしすぎてなにも考えられなかった。

 和歌があきれたような、でもどことなく楽しそうな声で告げる。


「結婚式にはちゃんと呼びなさいよ」


 俺となじみが声をそろえて答えた。


「「まだ結婚してませんー!!」」



────────────────────────

【あとがき】

最後までお読みいただきありがとうございました。

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世界一かわいい俺の幼馴染みが結婚しようと迫ってくるけど、俺からも結婚しようと迫っていく ねこ鍋@ダンジョンRTA走者 @nekonnabe

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