もうガマンできない

 ~1時間目~


「今日はずいぶん念入りにリップを塗るんだな? そんなに唇を意識してどうしたんだ?」


「さっきからアタシの唇ばっかり見てるけど、いったいどうしてなのかなあ?」


 ~2時間目~


「となりのクラスで付き合ってる奴らいただろ。あいつら昨日キスしたらしいぞ。まあ付き合ってるんだからそれくらい当然だよな。なじみもそう思うだろ?」


「アタシが今飲んだばかりのジュースだけど、美味しかったからコウにもあげるね。あっ、それだと間接キスになっちゃうね……? それでも、ほしい……?」


 ~3時間目~


「この『キスするまで脱出できない恋愛デスゲーム』超おもしろいなー! 特にキスしなきゃいけないってところがいいなー!!」


「キからはじまってスで終わるコウがしたがっているものってなーんだ!?」




 俺たちの熾烈な戦いは3時間目の終わりまで続いたのだが、勝負はつかなかった。

 くそっ、なじみもなかなか強情だな。

 最後のほうなんてかなり強引というか、駆け引きもなにもなかった気がするが、それでもダメだった。


 こうなってはもう直接的な手段に出るしかないだろう。

 俺はスマホをとりだすと、となりにいるなじみに、あえてスマホでメッセージを送った。


『昼休みに体育館裏に来てくれないか』


 俺たちは昨日の夜からずっと、相手にキスさせる方法を考えていた。

 相手にどうやってキスさせるのかを考えることは、つまり相手とキスするシーンを何度も頭に思い浮かべるということだ。


 初めて彼女ができた男子高校生が彼女としたいと思うこと第一位はキスだ。まちがいない。エビデンスは俺。


 もちろんもっとしたいと思うことはたくさんあるが、なにはともあれまずはキスなんだ。

 そこを経て初めてもっと先のことまで考えられる。

 いわば大人の階段の第一歩。


 そして俺だって健全な男子高校生だ。

 しかもなじみという銀河一かわいい彼女がいる。

 そんな彼女とキスするところを昨日の夜からずっと考え続けてきたんだぞ。


 そうするとどうなる?

 決まっている。

 はっきりいって限界だ。

 もうこれ以上は一秒だってガマンできない。マジでキスする五秒前だ。


 そしてそれは、なじみも同じだったはず。

 昨日の動画を見てから、ずっと作戦を立ててきたに違いない。

 それはつまり、俺とのシーンをずっと妄想し続けてきたということだ。


「………………」


 となりに座っているにも関わらず、なじみは俺のほうを向かないまま、返信だけがスマホの画面に現れた。


『わかった。待ってるね』


 たまりにたまった感情は、俺たちの胸の中で爆発寸前にまで膨らんでいた。

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