第4話

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 どれくらいの時間、意識を失っていたのだろうか。間を覚ましたマーマンは、自分がベッドに寝かせられているのに気付いた。此処は何処なのだろう。マーマンはベッドが起き上がると、自分の身体に異常が無いかを、確かめた。そして身体に何の異常が無くどこもいたくないのを確かめると、今度は自分のいる部屋を見回した。大きな窓がある狭い部屋だ。しかも今まで寝かされていたベッドは、二段ベッドの一段目だった。部屋にはこのベッド以外には何の無く、壁に取り付けられたフックにマーマンのバックが引っ掛けているだけだった。窓の外は真っ暗で今が夜なのが解る。

「まてよ、此処は……」

部屋を見回したマーマンは、この部屋に見覚えがあるのを思い出す。ロボット船シテネラの船室だ。いつの間にか、ロボット船の中に戻っていたらしい。マーマンは部屋から出て此処がシテネラなのかを調べようとして、部屋のドアを開けた。その時……。

「久しぶりだな、ジュニア」

ドアの向こうには、茶色い大きな犬を傍らに連れたあのドクターが立っていた。しかもこの男は、マーマンを昔の呼び名で呼んでいる。怪しいやつ。マーマンはこちらによって来るドクターと犬の脇をすり抜けて船室から出ようとしたものの、ドクター首根っこを掴まれ、窓の近くまで引っ張られてしまった。胴もこの男に抵抗しても無駄なようだ。マーマンが力なく窓の前に座ると、ドクターに付いてきた犬がマーマンにぴたりと寄り添い、マーマンの頬を舐め始める

「此処は海の上だぞ。逃げられると思っているのか。それにこの船は追われている。見ろ」

暫く犬に舐められながら窓の外を見ると、暗闇にこちらを追いかけて来る二つの船の明かりが見える。しかもその明かりから閃光がシテネラに向かって飛んで来ると、海の上で炸裂した。ドクターの言うとおり、何者かに追われていた。

「やつらは武器を使ってこの船を止めようといている。だがこの船は早い。安心しろ」

ドクターの言う通り、こちらに飛んで来る閃光は少しずつ離れた所で炸裂し、やがて消えて行った。閃光が完全に見えなくなるとマーマンは、犬から顔を話すとドクターに尋ねた。

「あんたは……いったい何者なんだ。それに何故、シテネラに乗っている?」

早口で審問するマーマンに、ドクターはにやりとしながら答えた。

「お前の主治医だよ」

「主治医?」

「そう、お前を生き返らせた主治医だ。そしてお前を連れ去った学者野郎の友達だ。この船はもともと借金のかたに俺が貰う予定だったんだ。だからコンピューターに俺の情報を登録してあるんだよ」

ますますわけが解らなったが、ドクターはマーマンに構わず話し続けた。

「お前はあの世に行きかけていたのだぞ。心臓の病いでな。それを手術してこの世に引き戻したのがこの俺だ。お前は覚えてはいないだろうがな」

ドクターは、犬と座っているマーマンの胸のあたりを指さしながら話し続けた。確かにマーマンの胸にはうっすらと傷跡がある。今まで何故それがあるのか深く考えなかったし、世話をしてくれた博士も教えてくれなかった。手術の痕とも思ってもいなかったのだが、手術痕だと言われれば納得がいくのも確かだ。一応、ドクターの言う事を信じてみよう。

「命を助けてありがとう。でも何故、患者である俺を乱暴に扱ったんだい」

マーマンはドクターに、自分の疑問をぶつけてみる。

「お前を守る為だ。まぁ聞け」

ドクターはマーマンが寝ていたベッドにどっしりと腰を下ろし、犬を呼んでベッドの前に座らせる。ドクターに合わせてマーマンもベッドに座ると、ドクターは信じられないような話をし始めた。

「ジュニア。俺はお前をこの世に引き戻したと言ったが、正確に言うとな、死の直前に凍結保存されたお前を凍結から救い出し、復元医療の技術を使ってお前の心臓を復元した健康な心臓に取り換えてやったんだぞ。お前は覚えていないだろうが」

衝撃の大きすぎる話しだった。自分が凍結保存されていた人間だったなど、正直言って受け入れられない話しだ。それもこの世界が人間の手によって引き起こされた異変で混乱する前に、凍結保存されていた人間だとは。異変に襲われる前の世界ではある時期、回復の難しい病気や怪我で命が危うくなった人々を凍結保存して、まだ開発されていない、最新医療に回復の望みを託す試みが行われていたと言う。その時に凍結され、世界各地に保存されていた人間達は、異変と共に人々からは忘れられていった。しかし凍結された人達に目を着けた連中がいた。彼等は凍結された人間を見つけ出しては蘇生させ、凍結されたら人間達が記憶している過去の世界の情報を集めていた。凍結された人間達の情報を元に、今は貴重な資源となった過去の遺物を見つけ出そうとしているのだと言う。ドクターと博士は、そんな凍結し人間達を探し出しこの世に蘇らせ、保護する活動にかかわっていたのだ。そして地中深くに作られた施設に保存されていた、マーマン=ジュニアを見付けだし、蘇生と心臓の手術を行ったのだが、凍結された人間達を連れ去ろうとするやからに襲われ、博士はまだ意識が十分回復していないマーマン=ジュニアをドクターの物になる予定だったロボット船に乗せ、姿を消したのだった。

「それからずっと、お前達を探していたんだ。凍結された人間達を助けながら。探し回ってやっとあいつとお前がいたビルに辿り着いた。だがもうお前達の姿は無かった。その次ら辿り着いたのは、あいつが密かにイルカとのコミュニケーションの研究をしていた研究所と、ロボット船を見つけ出したのだが……誰もいなかった。そしてあいつがもっていたはずのボートも見当たらなかった」

その後ドクターは淡々と、どうやってマーマンを探し出したかを話した。ロボット船を見つけ出してからドクターはロボット船を動かして海岸近くの町に行き、マーマンを探したと言う。ロボット船でなくボードで研究所から行ける町は、海岸沿いにしかないからだ。そして海岸の町で発掘人達の診察をしながらマーマンを探し出し、連れ出す機会を狙っていたのだ。話しを聞いているうちにいつの間にか夜が明け、窓からは、青い海と空が見えている。茶色い犬はいつの間にか、部屋の隅で寝そべっていた。

「俺の話しが信じられないのなら、信じなくてもいい。俺はお前に信用されなくても、お前をずっと守って行くつもりだ。あいつらがお前を捕まえて、頭をいじくって無理やり過去の記憶を思い起こさせないようにな。これだけは覚えておけ」

どうしても信用しなければならないと思わせるような勢いで、ドクターはマーマンに話し掛ける。これから暫くは、ドクターに付いていくしかないだろう。

「解った、あんたと一緒に行くよ。それよりこれから何処へ行くんだ」

「まずこの船で俺たちが活動拠点にしている町の港にいく。そこで仲間と合流し、用意したヘリコプターに乗り換え、内陸の安全な場所に行く。いいな」

これがドクターと犬と一緒の旅の始まりだった。

ドクターとの旅が始まって二、三日は穏やかな日が続いた。天候がそう崩れず、どこからか攻撃される事もない。ただ*かれら*と別れてきた事がマーマンには気掛かりだ。しかしドクターに*かれら*の話しをすると、ドクターはすぐに博士の仲間の海洋生物学者にコンピューターのシテネラを通じて連絡してくれた。シテネラと繋がっているコンピューターからドクターの話しを聞いた生物学者は、さっそく海洋生物保護の専門家を入り江に派遣し、*かれら*を保護する段取りをつけてくれた。そして博士の仲間と彼等の話しをし、どのようにして*かれら*を保護するのかを聞いたマーマンは、安心してかれらを海洋生物の専門家に任せ、シテネラでの旅を続けた。海の上での静かな時間が流れる中、ドクターはマーマンに自分と博士との話しをぽつりぽつりと話し始めた。二人が古くからの親友同士であった事や、博士の研究をドクターが支援していた事などを。さらにドクターは、かつて一人の女性を博士と同時に愛した事も話してくれた。

「スーは感性豊かな詩人だった。俺はスーが好きだったんだが、あいつがスーの心を射止めたので、俺はスーから身を引いたんだ。それなのにスーは結婚して間もなくこの世を去ってしまった。その上あいつは借金のかたの船まで持って姿を消したのさ。お前と一緒に」

ドクターの話しを聞いて、マーマンは研究所で見付けた詩集を思い出した。あの詩集を書いたのは、スーではなかろうか。それならあの本は、ドクターに渡した方が良いだろう。マーマンはバックから詩集を取り出し、犬を従えてブリッジの窓から海原を見ているドクターに渡す。

「これ、スーの詩集だろ? あんたが持っていた方がいいと思うけど」

「おぉ……ありがとう」

詩集を手渡されたドクターは両手でしっかりと本を持ち黙って見詰めて続ける。やはりあの本はスーの詩集だった。かつて愛した人が残したものを手にして、よほど嬉しかったのだろう。その後ドクターは暇が出来ると詩集に目を通していた。そして愛した人との思い出に耽るドクターを見たマーマンは、ドクターを完全に信用出来る人間と認めた。

「色々話してくれてありがとう今度は俺の話し聞いてくれないかい」

ドクターを信頼するようになったマーマンは、時間があるとドクターに自分の話しを話すようになっていた。海の中のビルでの博士との生活やら謎の男に襲われ、博士と別れシテネラで入り江の博士の研究所に向かったこと。ボートで研究所を出て、海沿いの町に来たこと。発掘人としての生活……それらの話しを、ドクターはただ黙って聞いてくれた。ただマーマンが黒服の男に襲われた博士と別れ、ロボット船で海に出た話しをした時には、ドクターは顔を曇らせながらマーマンの話しを聞き、全て聞き終ると大きく溜息をついて一言呟いたのだった。

「そうかぁ」

そしてその後,二人は博士の事を話題にする無く話しを続けた。ところがマーマンの話しが入り江にある海の中の廃墟に及んだ時、ドクターの様子が一変した。

「もっと詳しく話してくれないか。そのビルの中で、何を見たのかを」

いつも通り、ブリッジの窓から海を見ながらマーマンの話しを聞いていたドクターだったが、廃墟の話しを聞いた途端、血相を変え、マーマンを問い詰める。

「何を見たって……家具や荷物が置かれている部屋や掃除用ロボット、それからゴミ置き場かな。そこで随分稼がせてもらったよ」

ドクターの勢いに圧倒されながら、マーマンは海中の廃墟で見た事を話す。

「あっそうだ。墓場も見たよ」

「墓場? どんな墓場だ」

廃虚にある墓場に興味を持ったドクターに、マーマン自分が見た墓場の様子を話す。すると墓場の様子を聞いたドクターの表情は、茫然とした表情に替わった。

「マーマン、お前が見たのは墓場じゃ無い。凍結保存された人間が集められた場所だ」

今度はマーマンが茫然とする番だった。あの墓場に凍結保存された人間がいたとは。

「異変がこの世界を襲った時、凍結保存された人間達は異変を避ける為に、世界中の幾つかの場所に集められ保護される事になったんだ。お前が見たのは、その中の一つに間違いないだろう。凍結された人間達を収容して、彼らが蘇生を果たした後、何日間か生活できる様に用意された場所だ」

ドクターはブリッジにおいてある休憩用のソファーにどっかと座りマーマンに話す。

「じゃあ、あの中にいる人達は、まだ生きているんだね」

「ああ……正確に言うと、蘇生する可能性があると言うことだ。お前のように、ちゃんとした蘇生措置を施して、治療をすればの話しだが」

「それにしても、何故海の中なんかにあの人達を集めたんだろう」

「建てられた時には、あの建物は陸上に立っていたのさ。それが異変によって海に沈んでしまったんだ。まぁ、海に沈む事は始めっから解っていらしいな。だから海に沈んでも建物の中はほとんど無事でいられたんだ」

話し終わるとドクターは、ソファーの上で伸びをすると大きく溜息をついた。

「シードラゴンのような奴らに、知られる前に彼等を助けないと。シードラゴンは資源だけてなく凍結人間達も狙っているから」

ひどい話しだ。凍結保存された人達が引きずり出されるのを想像するとぞっとする。

「早くあの人達を助けないと……」

すぐにロボット船を引き返させて、彼等を助けたかった。でもそれは無理だ。もう入り江からはかなり離れてしまっている。

「あそこに引き返したとしても、俺とお前だけでは何も出来んぞ。まずは仲間に連絡だ」

ドクターはやおらソファーから立ち上がると制御卓のマイクに向かい、コンピューターのシテネラに、ドクターの仲間のコンピューターとアクセスするように命令した。

「承知しました」

制御卓のスピーカーからシテネラの声がした数秒後に、ドクターの仲間の声が聞こえた。

「おい、どうしたはみだし医者。何があった」

マイクからは若い男が軽い口調で話すのが聞こえてくる。

「どうもこうも無い。すごい事が解ったよ」

マイクの向こうの男に、ドクターはマーマンの事と、マーマンが見た海の中の廃墟とそこに凍結人間が集められている事を話しだした。

「それ、本当か!」

ドクターの話しを聞いてマイクの向こうの声は、さっきと変わって真剣な声になった。

「あぁ本当だ。詳しい事は本人に聞いてくれ」

「傍に居るのかい、その……海中の廃墟に入っていったと言う青年は……」

どうやらマイクの向こうの人物に、廃墟の事を詳しく説明する必要があると思ったマーマンは、ドクターの横からマイクに向かいしゃべり始めた。

「あの廃墟に入って凍結保存された人間を見付けたのは、俺だよ」

いきなりマーマンはしゃべりだしたので、マイクの無効の人物は面食らったらしい。数秒ほどマイクの声が途切れた。しかしその後マイクから聞こえて来た声は、落ち着いていた。

「君かい、廃墟に入ったというのは。これからいろいろと質問するけど、ちゃんと答えてくれるね。スクリーンを見てくれるかい」

「はい」

マイクの声にマーマンが返事をすると、マイクの声と共になにも映っていなかった制御卓のスクリーンに、地図らしい画像が映し出された。

入り江とそこにある島の形が描かれ、無陸地には町の名前が書きこまれた地図だ。

「これは君がいた入り江の地図だ。この地図で廃墟の位置を示してくれないかね。大まかな位置を、指で押してくれたらいいから」

マーマンは地図をじっくりと見て、海中の俳廃墟がある場所の大まかな位置を探し当てると、マイクの声に言われた通り、廃墟のある場所を指で押した。すると地図を指で押すと地図上に矢印が現れ、マーマンが廃墟のある場所として指し示めした場所を表示した。

「これで廃墟の大まかな位置は解った。今度は外観や中の様子を話してくれるかい」

「マイクの向こうの人物の求めに応じて、マーマンは廃虚の様子を詳しく話した。するとスクリーンから地図が消え、代わりに海中の廃墟の外観と内部を描いた図版が、マーマンが話した通りに描かれていく。

「だいだいこの通りだよ。俺はこの階段部分の窓から中に入っていったんだ」

マーマンはスクリーンに描かれた図版の、廃虚の階段部分を指で触れながら説明する。

「君は、海に潜ってそこから廃墟の中に入って行ったのだね」

「あぁ、海の生き物である*かれら*と一緒にね」

「ほおーっ」

マイクの向こうの男は、マーマンが潜水を出来る事に感心しているようだ。

「もう一度、潜って廃墟に入れるかい」

「もう何度も、潜って廃墟に入っているよ」

マーマンがこともなげに廃墟まで潜っていった事を話すと、マイクの向こうの男は、何か考え事をしているようだ。暫くマイクの声は沈黙した。

「はぐれ医者はまだそこにいるか」

再びしゃべりだしたマイクの声がドクターを呼ぶと、コントロールパネルの傍でマーマンをじっと見守っていたドクターはマーマンに替わってマイクに向かった。

「俺だ、どうした」

ドクターが問い掛けると、マイクの向こうからさっきとは別の男の声が聞こえて来た。

「ドクター、こちらの港に到着するのはいつごろだい」

「早ければ明日の昼ごろだな。おそくてもあさっての早朝には着くだろう」

「解った。港に着いたらジュニアと言ったかな、あんたが蘇生させた青年を兎に角早く俺たちの所につれてきてくれ。着いたらすぐに青年の健康診断をするから」

「随分と、急ぐんだな」

マイクの向こうの急かすような口調に、ドクターは怪訝な顔しながら話し続ける。

「今回見つかった、凍結された人々を早く救出したいからさ。健康診断が済んだら、彼にはすぐにヘリコプターで廃虚のある場所まで行ってもらい、救出活動を手伝ってもらう」

「よし、わかった」

ドクターはマイクの向こうの男とのやりとし終えると、コントロールパネルを離れマーマンに近寄ると、マーマンの肩に手を置き話し掛けた。

「聞いた通りだ。俺たちの活動を手伝ってもらうよ。大変だろうけと、よろしく頼む」

ドクターはこれまでになく真剣な表情で、マーマンに話し掛ける。

「あぁ……最前をつくすよ」

マーマンはドクターの手を握り返し、自分の意志を伝える。海中の廃虚で眠る凍結された人達を、そのままにしては置けない。その思いは、マーマンもドクターも一緒だった。


 ドクターが言った通り、ロボット船のシテネラが目的地に到着したのは次の日の昼だった。ファドと比べたらかなり大きな町の港が見えてくると、シテネラは港の桟橋に接岸し、桟橋に降り立ったマーマンとドクターは六人の男女に出迎えられた。

「やぁ、君がジュニアだね」

六人の中の、リーダ一らしい一人がマーマンに声を掛ける。おそらく二十代後半の、短い黒髪をした細身の男だ。

「そうです」

マーマンが返事をすると、男は手招きで早く自分達に付いて来るように合図した。マーマンは先に歩き出した男達の後に付いて犬を連れたドクターと一緒に歩き、港を出ると多くの人々に紛れて高いビルの立ち並ぶ街の一角に向う。そしてそのビルの一つに入ると、エレベーターに乗り、地下へと降り、金庫室と書かれた丈夫な扉の前に来る。

「さぁ、ここだ」

男が扉のセンサーに手を触れると扉が開き、金庫では無く机や椅子、コンピューターが並ぶ部屋が現れる。

「お帰りなさい」

部屋に入って扉が閉まると、タンクトップに長い髪の若い女性と白髪の男性が一向を出迎えてくれた。

「彼が凍結状態から蘇生した人ね。ようこそ」

若い女性はマーマンに握手を求め、マーマンはおずおずと女性と握手をし、ついでに白髪の男性とも握手をする。

「さぁ、すぐに彼の健康診断だ」

挨拶が終るとドクターは茶色い犬を白髪の男性に預け、マーマン達を部屋の奥のドアの向こうへと連れて行く。ドアの向こうは診察台と様々な医療器具が置かれた小さな部屋で、そこでマーマンは診察台に寝かされ、健康診断をされたのだった。大急ぎで行われた健康診断の結果は、一緒に部屋に入った若い女性が小型コンピューターに入力し、分析された。

「異常なしだな。俺が治した心臓も正常に動いている。もう起きていいぞ」

ドクターから健康体と診断されたマーマンは、診察台から起き上がるとドクターと若い女性と一緒に小さな部屋から大きな部屋に出る。大きな部屋ではドクターと仲間達がテーブルに着き、どうやってマーマンが見付けた凍結された人達を救出すかを話し合っていた。マーマンはドクターの仲間と一緒に椅子に座り、話しを聞く。マーマンが見て来た海の中の廃虚の情報を元に、どうやって廃墟の中にいる凍結された人々を海の上へ引き上げるかが話し合われ、マーマンも時々ドクターの仲間から廃墟について色々と質問され意見を求められた。そしてドクターの仲間話しを聞いたり自分の考えを伝えたりしているうちに、ドクターが所属している組織が、様々な人が関わっている大きな組織なのが解った。その組織は、過去の文明の遺物が腹黒い連中の手に渡らないように活動していて、凍結された人間達を保護するのも活動の一環だった。そしてドクターの仲間達が話し会って決めたのは、まずマーマンとドクターと潜水が出来る組織のメンバーがヘリコプターで廃墟の近くの、マーマンが一夜を過ごそうとした小島に行き、そこから廃墟に向かうと言うものだった。廃墟まで来るとマーマンとドクターの仲間の一人が廃墟に入って凍結された人々のいる階まで行き、凍結された人々に異常がないかを確かめ、その間に組織が手配した大型貨物船が廃墟のある海域にやって来る手筈になっている。

「船が来ると凍結された人が入ったカプセルを保管場所から取り出し、船に運ぶ。今まで何も知らないでいた君が、急に我々の手伝いをするのは大変だろうが、やってくれるね」

リーダーの男に言われ、マーマンはごくりと唾を飲み、返事をする。

「はい」

もうやるしかない。マーマンは覚悟を決めた。 

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