清楚とフラグ立てたら目をつけられた

 それから退屈な午前の授業を済ませた昼休み。


「おい、なんか話せよ」


 俺は権三と共に昼食を取っていた。

 だが、何故か権三は一向に目すら合わせようとしてこない。

 目の前に座っているのに、目が合わないって凄い不自然だ。


「別に」

「沢尻エ○カでも目指してんのか」


 話しかけても、そっけない。

 まるで魂が入っていないようだ。


「午後の古典の予習した?」

「別に」

「今日帰りどっか寄る?」

「別に」

「最近なんかいいことあった?」

「別に……」


 最後のは本当に別に何もないんだろう。

 質問が悪かった。

 にしても、なんだこいつ。

 そんなことを思っていると、口を開いた。


「裏切り者め」

「はっ?」


 突然のことで、意味がわからない。


「何がだよ」


 すると権三は絶望したかのような目で叫んだ。


「お前! 玲音様と知り合いだったなんて! くそ、何がオタクにはイベントは発生しないだコラ! 言ったそばから! 言ったそばからじゃねーかよ!」

「べ、別にたまたまだよ」

「なーにがたまたまだ。そんなこと言って運命感じたんじゃねーのか?」


 正直少し図星で、俺は黙る。

 だってそりゃね。

 凄い美人とフラグ立ててたなんて、俺だって調子乗るよ。


「くそう、お前は友達だって信じてたのに……」


 権三はめそめそと泣き真似をしながらそう呟く。

 ってあれ? 本当に泣いてんのかな。

 なんだか申し訳なくなってきたな。

 ただ俺も悪いことはしてないような気もする。

 うーん、わからん。


 するとそんな時、調子に乗った大きめの声がクラスに響いた。


「あーぁ。あんなキモオタ野郎に玲音ちゃんなんて勿体ねぇよなぁ」


 リア充グループの奴だ。

 確か名前は富川だったと思う。

 伏山の取り巻きだ。

 多分、あいつは俺がここにいるのもわかっているだろう。

 というかチラチラ見てきてるし。

 百パーセント喧嘩売ってるな。

 そうさー百パーセント悪意ーもう頑張るしーかなーいさー♪

 なんて歌も歌いたくなる。


「まぁそう言うなって。オタク君にもそんくらいの幸せはあってもいいっしょ」


 続いて馬鹿にしたような声も聞こえた。

 どうやらリア充グループの中で俺のことが話題に上っているようだ。

 いやぁ光栄ですわ。


「絶対童貞だしな」

「高二で未経験とかありえねー」


 きっと文字で見たら草が生え散らかされてるんだろう。

 そんな雰囲気が声に滲み出ている。

 っていうか決めつけてんじゃねぇよ。

 童貞じゃないかもしれないぞ。

 オタク=童貞ってのは偏見だからな。

 もちろん俺は童貞だけど。


「おい、あんな奴の話いいだろ。気分が悪くなる」


 次いで伏山の不機嫌そうな声が聞こえる。

 そういえば、最近彼女に振られたとかなんとか。

 だから青波狙ってたのか。

 それで当てが外れて俺にキレてるってわけだ。

 しかもあいつの元カノは地下アイドルって話だったような気がするしな。

 だからって八つ当たりされても困るが。


「なぁ、依織……」


 そんなことを考えていると、権三が不安そうにこちらを見てくる。

 権三はイケてるグループが苦手だからな。

 昔何かあったのかもしれない。

 俺は気をそらしてやるために、朝から気になっていた別の話題を振った。


「そういや、赤岸って同中だよな?」

「あ、うん。そうだけど?」

「いや、どんな奴なのかなーって思って」


 そう言うと、権三は驚いたように言った。


「珍しいな。依織がそんな事に興味持つなんて」

「まぁな、ちょっと色々あって」

「なんだよ色々って」

「まぁそれはいいから」


 すると、権三は頭を描きながら話し始めた。


「まぁ特に目立った生徒ではなかったかな。敢えて言うとしたら、授業中にたまに床で寝てたりした」

「特に目立った奴が逆に気になってくるわ」


 授業中に床で寝てた奴が目立たないって他のメンツどうなってんだよ。

 幼稚園か何かなのか?

 すっごい危ない生徒達だな。


「あとは、プールの時間に居眠りして溺れかけたりとか」

「睡眠欲お化けだな」

「それから、体育祭の時、位置について用意してる時に寝てて銃の合図でも起きなかったり」

「どんだけ寝るんだよ」


 何モンだよ、赤岸。

 飛んだモンスターじゃねえか。

 ていうか寝すぎだろう。

 いつでもどこでも寝るじゃん。

 それはのび太君もびっくりだよ。


「で、姉ちゃんがモデルだった」

「新情報が濃いな」


 飛んだモンスター姉妹だった。

 どうなってんだ赤岸家。


「まぁそんな感じだな。大した情報じゃないと思うけど」

「いや、凄く驚いたよ」


 情報が濃過ぎてかなり驚いたが、まぁ何となく彼女のことはわかった気がする。

 要するに、おかしい子ということだ。

 これからはあまり近づかない方がいいかもしれない。


「何、赤岸狙ってるのか?」

「そんなわけないだろ」


 とりあえず、少し赤岸柚芽には気をつけよう。

 そう決意したのであった。

 それと、ふと思い出して、伏山の方を見ると、なんだか面白くなさそうに俺の方を見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る