第5話 おれのかんがえたさいきょうのいきもの

 あんね。あんね。

 人間の死体食べるのはちょっと嫌だったのね。

 だから必要最小限だけ食べて、あとは放置してたら匂いを嗅ぎつけて肉食獣がやってきたでゴザル。

 ばぶー。


【なにやってるんですか?】


 自分の愚かさを反省するためにIQ落としてみた。

 さあ、次は繭の改造だ。

 まずはネズミの形。足を生やす。

 あ、だめだ。

 短すぎて動けない。

 ウサギはどうだろう?

 うん、途中までしか作れない。

 まるごと食べないと作れない部分が出るようだ。


【スキル:強毒を手に入れました】


 それ毒持ってる生き物じゃなくて伝染病を媒介するたちの悪いほうじゃん。

 次に小鳥。名前はわからない。


【スキル:飛行を手に入れました】


 え? 飛べるの?

 肉塊じゃ重すぎない?

 鳥って軽量化されてるのよ。


【風魔法を使えば可能です】


 おーけー。おーけー。

 触手はそのまま。

 これが俺の作戦だ。

 だんだんこの世界のルールがわかってきた。

 完全に現実寄りだ。

 たとえ弱くても先制攻撃が成功すれば勝てる可能性がある。

 つまり俺は大きくて遅いから弱い。

 でも罠を張ったりできるから有利と。


 賢者ちゃん、俺の匂いはどうなってる?


【転がってる死体と同じ匂いです。判別できないはずです】


 よっし、ゲーム開始。

 魔力センサーによると獣の数は5体。

 群れをなす肉食獣。

 ……狼か!

 俺は息を整えながらその時を待つ。

 焦るな。

 確実に仕留めるんだ。

 一歩……二歩……三歩……。

 よし入った!

 俺は触手の網を起動する。


「ギャワンッ!」


 あちこちで悲鳴が上がった。

 何匹もの獣が肉に取り込まれていく。

 三匹やった!

 そして特性が獲得した瞬間、俺は触手を切り離す。

 網は一発芸の設置罠だ。

 気づかれたら中心に俺のいる家があるのがすぐに発覚する。

 討って出なければ!


【特性獲得。グレイウルフです!】


 俺は素早くフレッシュゴーレムの外部ユニットを変化させる。

 狼の形に。素早く強い形に。

 それと同時にユニット周りに目を作る。

 人間の目だ。

 視力はいい方だからな。

 ユニットから触手を内側に伸ばし、脳に直結。

 もう後先なんか考えねえ!

 光で目が……いや、神経が痛くなる。よし見えた!

 俺は外に飛び出す。

 全速力で走る、走る、走る。

 そのまま跳躍し風魔法のアシストでグレイウルフめがけて飛ぶ。

 鹿の毛皮に、狼の足、鳥の翼に人間の目を持った化物が狼に襲いかかった。


「グガアアアアアアアッ!」


 仲間に危機を知らせる狼へ俺は降りかかった。

 そのまま頭部らしき突起から触手を出して、そこから丸呑みにする。

 クリオネとアニメ版アキラの鉄男形式で。


「ギャンッ! ウガアアアアアアアギャンギャンッ!」


 吠え暴れるグレイウルフ。

 引っかかれるが、俺も必死だ。

 逃げられないように触手でぐるぐる巻きにして尻尾まで飲み込み一気に取り込む。

 はいそこ! 踊り食いって言わない!


「ギャンッ!」


 最後に残った一匹が悲鳴を上げ逃げていく。

 はあ、はあ、はあ……勝った。

 絵面は俺が悪役だが必死さは獲物と同じだ。

 もし家を襲撃された場合、ネズミの足じゃどこまで逃げられたかわからん。


【残りの死体を取り込むことを提案します】


 賢者ちゃんは「お前わかってるよな?」と言いたげだった。

 了解。

 センサー起動。

 住民は10世帯。人口構成はわからない。

 昨晩の吹雪で凍りついていた。

 女性の死体がなかった。ゆえに熊は女性の肉が好物。

 男はただ殺されただけだった。

 俺は住民の肉に触手を伸ばして取り込んでいく。

 ついでに実家を漁る。

 非常時の救助の方法とか相談先があればうれしい。

 羊皮紙などを取り込まないように回収して読む。

 うん、文字読めない。

 ポイント振るか。



 名前:なし

 種族:魔人

 LV:5

 HP:19000/29413 MP:20070/20070

 力:100 体力:999 知力:1024 魔力:999 器用さ:690 素早さ:175 EXP 13/65535


 スキル


 魔法 LV:2929 苦痛耐性 LV:666 精神耐性 LV:666 低栄養耐性 LV:90 物理耐性 LV:666 寒耐性・極 LV:MAX

 賢者 LV:2579 スキル割り振り LV:2 強毒:LV1 光合成:LV100 アミノ酸合成:LV1 語学:LV100


 スキルポイント:27400


 称号:邪神の寵愛、ダークメサイア、死を乗り越えしもの、賢者の主人、キメラ



 ヒットポイントは肉の量で上昇する模様。

 魔法の技術は常にフレッシュゴーレムを使ってるから上昇し続けているわけだ。

 システムの穴だな。

 まあ確かにこういうシステムの穴があっても冬山で死にかけない限りは自分をキメラにするやつはいないだろう。

 レベルが上がってもステータスが上がってない理由は、これが外部ユニットの性能だからかな。

 寒耐性もこれ以上上がることはない。

 機能の吹雪が最高のものとは限らない。

 凍死の危険は常にある。

 暖炉の火が消えてコアユニットの溶液ごと凍ったら終わり。

 冬がどれだけ続くかもわからない。


【冬ならあと80日ほどで終わります】


 80日か……つまり寒さの極限は迎えてない。

 これは……死ぬかも。

 いや、80日耐える必要はないかもしれない。

 なんかしらの手段で連絡や救助が来るかもしれない。

 今は書類を読もう。



 冬は街道が凍り村は隔絶される。

 春まで耐えねばならない。

 救援が来ることもないだろう。

 我々は総崩れ、バイス公爵家も皆処刑された。

 もはや我々は死ぬしかないのだ。

 憎い……国王が憎い……。

 憎悪で人が殺せたらいいのに。



 ……終わった。

 はい詰んだ。

 終わった。今度こそ終わった!

 ぼくちゃん凍死で熊の餌!

 外道な手段まで使ったのに!


【そうでもありませんよ】


 なんやて賢者ちゃん! 生きとったんかワレェ!


【熊などの冬眠ができる生き物を取り込めば生存確率が大幅に上がります】


 つまりだ……熊と俺は戦わねばならない運命にあるらしい。

 賢者ちゃん。現在の勝利可能性は?


【30%です。フレッシュゴーレムの戦闘性能は熊と並びましたが、操縦技術が劣っています。

現状だと押さえつけられたらなにもできません】


 ヒットポイント高くても押さえつけられたらただの餌。この世界大好きくたばれ。

 じゃあ丸呑みは?


【熊のほうが外部ユニットより大型なので無理です】


 厳しいねえ。

 でも勝率3割なら命をかける価値はある。

 おどれー! やったらあ!

 まずは設計変更。

 鼻を生やす。狼の鼻だ。

 これで嗅覚は同等。

 ……おう……おおおおおお! おほー!

 なんじゃこりゃ! 匂いで生き物の位置がわかる!

 次は触手だ。

 自分より大きな生き物に通じるとは思えないが持っておこう。

 攻撃手段は多いほうがいい。

 よし準備は終わった。……よね? 賢者ちゃん。


【私に聞かないでください】


 だって不安なんだもん!

 現時点の勝利確率は30%。

 俺の戦術を入れても50%ってところだろう。

 冬の季節で虫の能力を取り込めないのが地味に辛い。

 毒やら糸やらがあれば最強だったのに。

 でもこれで出撃するしかない。

 俺は家を飛び出す。

 熊の位置はわからない。

 だけど今の俺は匂いを辿ることができる。

 俺が辿っているのは母親の匂い。

 噛み潰された首の骨、その首から流れ出る血の匂い。

 しばらく進むと塚が見えてくる。

 土を掘って埋め直したもの。

 そこから母親の匂いがした。


【ご主人様。心拍数が急上昇してます】


 この世界の母親は俺を好きではなかったし、殺そうとしていた。

 本来ならば憎む対象だ。

 だがこの気分の悪さよ。これは本能だろうか。

 人でなしにまで堕ちたと思ったが、どうや俺にはまだ理性が残っていたらしい。


【心拍数上昇。血圧も上がってます】


 はいよ。ここまでやって死ねるかよ。

 俺は思考を切り離す。

 すべてを客観化し主観を捨てる。

 液体の中で呼吸を整え、苦痛を和らげる。

 感情をコントロールしろ。

 熊には悪意はないし、これは食うための狩りだ。

 怒ろうが悲しもうが結果は変わらない。

 動け。それだけが正解だ。

 俺は外部ユニットから触手を伸ばし塚に差し込む。

 そのまま中にあった肉を取り込む。

 獲物を横取りして熊を誘い出す。

 熊よ。俺にここまでやらせて春を迎えられると思うなよ。

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