第29話 置きまどはせる 白菊の花
『先生、おはようございます。』
『あぁ、おはよう。』
『はい、ルイボスティーとサラダチキンと大量のパクチーのサラダとハムとチーズのサンドイッチです。』
『ありがとう。ところで、秋になったけど…紅葉を見に行ったり、キャンプを楽しんだりするのかなぁ?』
『いいえ、寧ろ、秋は食欲の秋かなぁ。鎌倉の小町通りで食べ歩きや上野の美術館でのんびりかなぁ?』
『そっか…。なるほどなぁ。』
『あれぇ?どうしたんですか?刹那そうですけど…。』
『いやぁ、この時期はキャンプ場から見る星が綺麗じゃないかなぁ~って思ってねぇ。』
『なるほどねぇ。確かに綺麗だとは思うけど…キャンプ場でキャンプはまだ良いかなぁ。もしかして、キャンプに行きたいのですか?みんなで行けるなら行きたいかなぁ。』
『そうだよなぁ。みんなで行くのも悪くないよなぁ?』
『ですねぇ。来年ぐらいでも計画したいですねぇ?』
『ところで、家族とは仲は良いのかなぁ?家族でキャンプとかは行った事はあるかい?』
『いやぁ、キャンプはないですよぉ。私の家庭は、両親が仲良くないんです。常に喧嘩が絶えなくて『出来ちゃった婚』だから…あぁ、でも母親とは仲良しですよぉ。父親は…』
『あぁ…ごめんねぇ。』
『大丈夫ですよぉ…。でも、たぶん近いうちに別れるとは思うなぁ…両親とも最近は顔をあわせていないし、私が就職してから、二人とも浮気しているみたいだから…』
『そうなんだぁ。稲村さんは大丈夫なの?』
『私には先生がいるから…』
『もちろんさぁ。でも、両親には挨拶ぐらいはしておかなきゃねぇ。』
『母親には良いけど…父親には会わない方が良いわぁ。すぐに手が出るし、何かにつけて金品を要求するわぁ。自宅にいた頃はよく殴られたなぁ…。それも、拳骨でぇ…』
『えぇ!マジかぁ。俺がいたら、身体を張ってでも守ったのに…』
『ダメよぉ!仮に仲良くなっても、ギャンブルにはまるわぁ。酒を飲みに連れ出すからダメよぉ…。それに、その姿は父親だけで良いわぁ…。』
『そうだよねぇ。間違いなく兄と同じにおいはするなぁ…』
『あぁ…そう言えば、先生のお兄さんと似ていますねぇ。』
『まぁ、兄は人を殴る事はしないけど…』
『そうねぇ…でも、お互い大変ですねぇ?』
『とはいえ、兄のおかげでここまで生きていけているから、感謝してるさぁ。』
『なるほど、そんな考えもありますねぇ?』
『そりゃそうさぁ!例えどんな境遇であっても、『すれ違うのでさえ奇跡なんだから!寧ろ、『不幸』『不運』だと思っていたらきっと、『本当の幸せ』に気付いていなかったかも知れないと思うなぁ…。今なら、『ありがとう』なんだぁ!』
『そうですねぇ…今度、父親に逢ったら伝えます。』
『そうだねぇ…きっと、『すれ違う奇跡の話』を聞いたら、心に小さな光を与えるきっかけになったり、純粋に涙が出てくると思うなぁ…。』
『そうかなぁ…。』
『そうだよぉ!誰しもが自分の中にコンプレックスや人生に葛藤を抱えながら懸命に明日を乗り越えているのさぁ…。例え、周囲から見たら、どうしようもないって思われていたとしてもさぁ…がむしゃらにもがきながらも生きているのさぁ…。そして『俺って馬鹿だなぁ…何をやっているんだぁ…。こんな人生なんてつまんねぇ!出来れば、誰か殺して自由になりたい!』って思っているのさぁ!それに、仮に死ぬ事が出来ても『しまった。まだまだ、やりたい事が多かったなぁ…。恩返ししてないなぁ…』って後悔するのさぁ。だからなぁ、家族ならなおさら、真剣に向き合ってみなよぉ!もしかしたら、浮気をしているとお互いが勘違いしているかも知れないぞぉ!おい、おい、どうした?』
『だって、だって、話を聞いていたら、私って、私って…』
『ほらぁ、涙を拭きなぁ…気付いたから、大丈夫だよぉ…』
『私って馬鹿だなぁ…』
『馬鹿?違うなぁ…天才に近づいたなぁ?』
『えぇ?どうしてですか?』
『本当の馬鹿はねぇ?馬鹿に気付いていないのさぁ?だからねぇ?『私って馬鹿だなぁ…』は馬鹿を認めた上での発言だから、天才に近づいた事になるのさぁ!』
『なるほどなぁ…流石は先生だなぁ…。』
『いやいや、ただ、発明家のエジソンが『1%のひらめきと99%の努力』だと言っていたよねぇ?もしかしたら、1%のひらめきは実はきっかけなのかも知れないって思ったのさぁ。私も逆転の発想を常に考えると…天才は孤独であるが、実は自分の世界は海よりも広くその世界では孤独ではないと感じるんだぁ…。ただ、現実に戻ると孤独になるのさぁ!』
『先生は孤独ですか?』
『あぁ…『孤独で苦しくなる。誰か愛してくれる人はいませんか?必要だと叫んでくれますか?』ってねぇ?』
『良かった。私も同じ気持ちでした。』
『そうなんだぁ。少しだけ、ほっとしたよぉ…。』
『えぇ…どうしてですか?』
『稲村さんも、『ほどけない糸をほどいて欲しい』と言える人がいる事に…私は正直に伝えるけど『色々と溜め込んでいて、ほどけない糸をハサミで切る人だと思っていたんだぁ。そして、その糸が大切だと気付いた後に後悔するなぁ…ってねぇ?』』
『そうそう、そう何ですよぉ!学生の頃はテストで80点以下だと殴られていて…『いつも、優等生にならなきゃならない』と思っていました。
だから常に世間とはズレていて、いじめに合うし、でも、親には言えないし、我慢しなきゃならないし、門限も厳しくて…。親の反対で女子大に進学すると…父親からは無視されるし…でも、そのおかげで母親とは今では仲良しになったんです。』
『そうだったんだねぇ?でも、今は幸せなんだねぇ?』
『もちろんですよぉ…。大好きな坂浦作家の担当でなおかつ、先生に守られていますから!』
『ありがとう。でも、『私は完璧な人間でも、理想的な男性ではないし、寧ろ一緒になって理想的な男性にはなりたいタイプ』ではあるなぁ…』
『大丈夫ですよぉ。私は先生の気持ちを少なからず知ってますからねぇ?』
『あぁ…もう、こんな時間だねぇ?そろそろ、職場に戻る時間だねぇ?』
『あぁ…もうそんな時間ですねぇ?又、原稿が出来たら、連絡して下さいねぇ?』
『そうだねぇ…。たまには、悩み相談にのりますから、連絡を下さいねぇ?』
『はい。』
『あぁ…先生は私の家庭環境を悪く言わなかったなぁ…良かったのかなぁ…。寧ろ、『一緒になって父親は最低だぁ!』と言ってくれると思ったから意外だったなぁ…。父親の気持ちはもがいて苦しかったのかなぁ…?』
『それにしても、色々な家庭には色々な人には言えない問題を抱えているんだなぁ。『幸せ?』ってなんなんだろう?あぁ…いかん、いかん、気持ちが揺るぎそうになった。よし、開き直って、仕事、仕事!』
今日の百人一首は…
『凡河内 躬恒〜心あてに 折らばや折らむ
初霜の 置きまどはせる 白菊の花』
20××年
『先生、先生は何処にいますか?初霜が降りて寒いのに…何処に行っているのかなぁ…。』
『あぁ…ごめん、ごめん、遅刻したよぉ。すまない。』
『もう、一言ぐらい言って下さいよぉ…。30分ぐらい待ちましたよぉ。』
『ごめん、ごめん。電話がかかってきてなぁ。』
『それは、知ってますけど…時間がかかるなら、電話が終わったらラインぐらいできたでしょ?』
『まぁまぁ、そんなに怒るなって…朝一で仕事の原稿の訂正などがあってなぁ…。印刷に間に合わなくなるとかで…急いで原稿をメールで送ってねぇ。ほらぁ、これでも飲んで機嫌なおしてさぁ…』
『あぁ…ありがとう。それにしても、校正のチェックの見直しをしますよねぇ?担当は何をしてたんですかねぇ!』
『いやぁ、それに関しては、何も言えないよぉ。さっきまで一緒にいたから…。初の仕事とかで…1時過ぎまでいたかなぁ。』
『えぇ、もしかして寝てないんですか?』
『少し、寝ていたけど…』
『それにしても、さっきはごめんねぇ。』
『いやいや、突然、家を出る時に連絡がきてねぇ?気付いたら、こんな時間になって慌てて連絡したんだぁ。本当にごめんねぇ?』
『いえいえ、私も実は5分前に着いたんですよぉ…すいませんでした。』
『えぇ…30分近くも待っていなかったのかぁ…良かった。』
『ところで、この車は?』
『これは、レンタカーだよぉ。』
『今日は久しぶりに少し遠くまでドライブするよぉ。』
『知ってますよぉ。だから、4時30分から待っていたんですからねぇ?』
『でも、私が運転しますので、助手席に乗って下さいよぉ。それに先生は少し寝ていて下さいよぉ。着いたらお越しますから。』
『…グゥ。』
『もう、すでに寝てるって…。忙しかったのかなぁ。少し、寝かせてあげるかなぁ。』
『あぁ…先生、着きましたよぉ。素敵な光景ですよぉ。』
『あぁ…本当だなぁ…。』
『先生、初霜にまぎれて、白菊が美しいですねぇ?』
『あぁ…本当だねぇ。それにしても、初霜が一面に真っ白で花やら、霜やら見分けがつかないねぇ?稲村さんが隠れたら探せるかなぁ…たぶん、すぐに見つけるけどなぁ。』
『もう、先生ったら…私が白菊のように綺麗だからって…うれしい事言うなぁ。』
『初霜の置きまどはせる 白菊の花…』
『あぁ…夢かぁ?そんなに、朝早くから何処に行くのかなぁ…もしかしたら、『冬の朝は富士山が綺麗だから、ドライブ行こうとか?』言ったかなぁ?あり得るなぁ…』』
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