第10話 持統天皇之章⑤
秋葉原から東京駅までは徒歩で進む。頭上には首都高速一号線、相変わらず車が動いている様子は無い。南下を続け、昭和通りから川を渡ると都営浅草線の真上を通ることになる。
途中開いている店などがないか探してみるもののやはり人の気配はない。出会うのは
そしてその後はこちらの身も危険だという理由で、真理が戦うこととなった。
「あんたの詠人、ホント使えないわね。こっちが死ぬかと思ったじゃない。どうすんのよ、アレ。ヨミビトに襲われるより酷い有様よ」
「まあまあ、不比等も初めてだったんだし、僕からもちょっと手加減するように言っておくから。勘弁してやってよ」
「何言ってるの、私はあんたに言ってるのよ!」
怒れる真理を宥めながら西に方向を変えるとそこは八重洲、東京駅八重洲地下街の入口だ。地下に降りる階段を守るように二人、それは迷彩服に身を包んでいるものの紛れもなく僕達と同じ人間だった。
「あの、こんにちは。ここは立入禁止でしょうか? 僕達中に入りたいのですが」
先方も僕達に気付いたようで、その内の一人が驚いたように口を開く。
「君達は人間か! 二人でここまで来たのか? よく無事だったな。我々は
二人とも銃で武装しているが、見境なしに襲ってくるというわけでもないようだ。
「ありがとうございます。お尋ねしますがここにテイカーさんという方はいらっしゃいますか? 僕はその方に会いに来たのですが」
「おお! テイカー殿を訪ねてこられたのか。すると君も
彼の物言いからすると、テイカーさんはここの
「わかりました。それでは中に入れてもらいます。行こう、真理」
僕は曖昧に言葉を返し、地下へと降りる。ここの人達は外から来る人間に対しウェルカムな姿勢のようだが、まだ仲間だと決まったわけではない。
「中は人でいっぱいね。外の人達がみんなこのような場所に避難しているというわけね」
真理が感心したように頷く。確かに狭い通路は人で溢れ返っている。総てではないものの開いている店舗も見受けられる。そして何よりそこには活気があった。それだけこの地下街が安全だということだろう。
「何か食べていくかい?」
「せっかくだけど結構よ、まずは用事を済ませましょう」
はたしてテイカーさんは一番奥のフロアで僕を待っていた。元は喫煙所だったと思しきスペースが今は一端の研究所のような佇まいとなっている。池袋もそうだったがこれだけの短期間で変われば変わるものだと改めて感心する。
そしてそのフロアの中央で車椅子に乗った初老の男が僕に告げた。
「ヨウコソ、
片言の日本語、外国人なのだろうか? いや、そうは見えないんだが。科学者のような白いいでたちが研究所のようなこの部屋と妙に合っている。それはまるで僕達のほうが異分子のようで。
そしてテイカーさんの車椅子を押すように後ろに控えているのはスキンヘッドの強面の男。スーツ姿でしっかりとネクタイを締めている。
「はじめまして、テイカーさん。僕は
「アア、カマワナイヨ。ワタシに答えられるコトなら何でもキイテホシイ。ワタシがキミを巻き込んだと言っても過言デハナイカラネ」
僕はこれまでに起こった出来事、それに僕の行動を掻い摘んで話し、そして尋ねた。
「……というわけですが、そもそも何故僕にこのようなメールを送ったんですか? それにこのシステムは貴方が開発したのですか?」
「アアマズ、詠人召喚システムを作製したのはワタシダ。何時かクルこのような事態に備えてカツテヨリ研究を進めてイタ。一部の研究者の間デハ、イニシエのヨミビト達の情念が千年の時を越えカツテナイ程に増大しているということは謂わば常識、ギリギリのタイミングで開発が間に合ったトイウワケダ」
なるほど、僕が知らなかっただけで、この国がそんな事態になっていたとは。それにこんな夢物語みたいな話を信じて研究を続けていたマッドサイエンティストがテレビアニメの中だけではなく、現実世界に本当に存在していたということにも驚きを禁じ得ない。
まあ、そのお陰で色々助かっているわけだが。
「ソシテ完成シタ詠人召喚システムをワタシは無作為に、出来るだけ多くの人達に送った。だからキミだけに特別送ったというモノでもナイノダヨ」
その中の一人にたまたま僕が選ばれた、というわけか。
「テイカーさん、貴方はこの霧の原因を知っていますか? この霧を晴らす方法を知っていますか?」
「霧の原因はワカラナイ。ヨミビトが関係してイルのか、はたまた無関係ナノカ。しかし霧を晴らすことが出来る可能性はアル。
ふむ、持統天皇に聞いた話と同じだな。これはいよいよ天智天皇を見つけ出さなくてはいけないか。
「ではその天智天皇はどこにいらっしゃるのでしょう? 何処かに捕らわれていると聞いたのですが?」
「ハッキリとした居場所はワタシにもワカリマセン。しかし此処に顕現していないイジョウ、イケブクロかシンジュクか、何れにしても人が多く集まる場所のハズデス」
となると残るは新宿歌舞伎町か。怨念がどうとか言ってた場所だが仕方ない、か。
「わかりました、テイカーさん。僕は新宿に向かいます。最後に、テイカーさんはここの
「イイヤ、見ての通りワタシは戦うことなどデキナイ身体ダ。彼らにはここに匿ってもらってイル。感謝はしているが、仲間というわけではナイ。それよりチョット待ちなない」
そうですか、と言って去ろうとした僕をテイカーさんが引き留める。
「セッカク来たのだからキミタチの詠人召喚システムをアップデートしてイキナサイ。新しい機能も加わっている」
テイカーさんに促されるまま、僕達はシステムのバージョンアップを行う。作業自体は直ぐで、スマートフォンを研究所のコンピューターと繋ぐと勝手に更新が始まった。
加わった機能というのはスキャンというもので、相対する詠人の名前がわかるというもの。真理の
そして更新作業が終わり、今度こそ僕たちはテイカーさんに礼を述べて施設を後にした。
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