第14話 貴族を助けちゃった

次の朝、宿屋で朝食を食べてから、俺達は一路デボネアに向かった。

と言っても馬車なら半日程度で着く所だが、流石に馬車までは金銭的に手配出来なかったので徒歩で向かう。


それでも、夜までには到着出来るはずなので、なるべく厄介事に巻き込まれない様に、警戒しながら足早に向かう。

しかし・・・如何せん、世の中とは中々思い通りにいかないのが、常である。


「アルさん、大変!。盗賊に馬車が襲われてるみたい!」


斥候として先行していたエメルダが、慌てて戻ってきた。


「あちゃ~・・・、こういう時に限って・・・はぁ~」


「どうするのだ?、見過すのか?助けるのか?」


「エメルダ、馬車の客はどんな奴等だった?」


「よくは見えなかったけど、あの馬車は多分・・・貴族様のような気がする・・・」


「貴族か・・・、助ければ御礼貰えるかな?」


「意地汚い・・・と言いたいところですが、パーティの懐事情を考えると、助けておいた方がいいかと・・・」


「そうだな。私としてはも、やはり見過すことは出来ないな。金の為ではないが、助けた礼を貰うのはやぶさかではない」


「よし、決定だ。まぁ、最初から助けるつもりではいたけどさ。で、相手は何人ぐらいか分かる?」


「襲ってるのは五人程。ただ、狙撃の為か脇の森影にもう二~三人ぐらいいるみたいだけど、弓には気を付けた方がいいかも!」


「襲ってる奴等はいいとして、森の中にいる奴らが厄介だな。下手すると逃げられるか・・・。リオノーラ、森の奴等を何とか出来るか?」


「うむ・・・、何とかやってみよう。近くまで行けば気配で分かるから、範囲を狭めて殲滅してやる。最悪、魔法を使うかもしれん」


「おいおい、殲滅って・・・。相手は山賊だからって、魔法は手加減をしろよ?。森に被害が出たら大変だからな。それと、なるべく殺すなよ?」


「分かった。死なない程度にしておこう。だが、手足の1~2本は覚悟してもらわないとな」


「その辺は任せる。俺とエメルダは襲ってる奴等を鎮圧させるぞ!」


「分かった―――!。頑張る!!」


「よし、行くぞ!!・・・散開!!」


その合図を聞くと同時に、リオノーラは風の如く森の方に走っていく。

俺とエメルダは、最速で襲われてる現場に向かう。そこでは、護衛と思われる冒険者達がいたが、二人は血塗れで地面に倒れ伏していた。


もう一人も、五人の山賊に半円で囲まれ、かなり絶体絶命な状況である。

山賊の一人が、護衛の剣を下から振り上げ弾き飛ばす。護衛は驚きを見せ、一瞬の隙を見せた。


「もらった―――――!」


その一瞬の隙を山賊が見過すはずが無い。もう一人の山賊が、自分の山刀で大振りに頭から切りかかる。

自分の絶対の死を確信した護衛は、身動き一つできずに目を瞑ってしまう。


「うぐっ・・・・・・・・」


ガキンッ!


その時、金属と金属がぶつかる物凄い音が聞こえた。

護衛は目を開けると、誰かが目の前に立っており、山賊の攻撃を防いでくれていた。


「おい、あんた!大丈夫か?!」


アルは山賊の攻撃を自分のショートソードで防いでいた。

そして、護衛に向かって声を掛けてみた。


「あ、ああ・・・俺は大丈夫だ、腕をやられたが大した傷じゃない」


「そうか、安心した。助太刀する!」


盗賊達はとっさの事に呆けていたが、すぐさま冷静になり喚きたてる。


「誰だ、テメーーーーは!?」


「舐めた事してくれんじゃねーーーか、あぁ!?」


五人は一斉に俺の方に向き、威嚇を始める。

エメルダは、体制を低くして右手でダガーを構え、俺の後ろに下がる。


「俺はこの人達の仲間じゃないが、窮地に陥っていれば助けるの人としての道理だ!!」


「ぎゃははははーーーー!!おいおい、正義の味方気取りか~?」


「この世は力こそ正義だ!。弱ぇ~奴は喰われる、この弱肉強食こそこの世界の全てだ!」


「男は殺す!、女は嬲る!、男は殺す!、女は犯す!」


盗賊達は各々好き勝手に叫びだす。全く、これほど盗賊のテンプレはなかなか無いな・・・、とアルは戦闘中ながら感心してしまう。


「やれるもんなら、やってみろ!。俺達は、お前らには絶対に負けない!!」


「そうよ!、絶対負けないわ!。それに、同じ盗賊シーフとして恥ずかしいのよ!。あんた達なんか、コテンパンに倒してやるわ!」


エメルダも気合十分だ。俺は彼女だけに聞こえる声で、


『いいか、俺がまず先に突っ込むから、エメルダは奴等の隙を見て攪乱してくれ』


『了解!』


『ただ、くれぐれも気を付けろよ。危ないと思ったら下がれ』


エメルダは頷くと、気配を消して更に後ろに下がった。

俺は、迷わず正面右の相手に突進した。右の奴はロングソードを右手に持っているが、盾は無かったので咄嗟の攻撃に対して防御が遅れやすいからだ。


案の定、相手は防御行動にライムラグが出来た。そこを俺は見逃さない。即座に相手の左足を一閃して、断ち切った。


ギャーーーーー!と物凄い声で絶叫して、その場で転げまわる。

俺は自分が強くなっているのを、初めて実感した。リオノーラとの訓練や模擬戦が、確実に実力を上げていたのだ。


「何してくれてんだー!、コノヤローーーーーーーー!」


「テメーーーーーーーー、コラァ、殺すぞ―――!!」


「やっちめぇ―――!!!」


盗賊達は一斉に襲い掛かってきた。俺は、ワザと背中を見せて身を翻し、逃げるそぶりをする。そして、俺を追ってきた先頭の男を、急反転して袈裟切りに斬って捨て、左に進路を変えた。


それに対応できなかった次の男に切りかかるが、これは寸での所で躱されてしまった。がしかし、突如その男は倒れ伏す。エメルダが死角からダガーを投擲し、奴の胸に突き刺さしていたのだ。


残りの二人は自分達の不利を悟ったのか、一転逃げに走った。

俺は左に方向転換してしまっていたので、このままでは間に合わない・・・。


その時、シュッと黒い何かが飛んで行った。その先には、背中に黒いダガーが刺さったまま、崩れ落ちる男の姿があった。


エメルダの投擲技術は正確だ。正直、彼女がここまで戦闘能力を向上させていたとは・・・

しかし、一人逃がしてしまった・・・。森の中に逃げ込んでしまったのだ。


これは完全に自分のミスだ。五人ぐらいなら二人でやれると、高を括るってしまったからだ。

追いかけたが、流石は盗賊・・・逃げ足だけは早い。


その時、森の方から男の叫び声が聞こえた。

俺達は慌てて走って行った。


そこで見たのは、森から出てきたリオノーラだった。そして右手に持っていた細剣レイピアには血が滴っていた。


「アル、一人逃がしただろ?。私が始末しておいたぞ」


「リオノーラ、すまない・・・。俺のミスだ」


「まあ、仕方あるまい。獣や魔物と人間では、全く戦い方が違うからな」


「そうみたいだな、本当痛感したよ」


「また訓練だな。今度は対人戦も想定してやるか」


俺とエメルダは、また過酷な訓練を思い出して苦笑いを浮かべた。

取り敢えず、今倒した盗賊達を確認した。俺とエメルダで三人を殺し一人を捕縛(膝から下が切断されているが生きていた)、リオノーラが風の精霊魔法によって三人を倒し捕縛、俺達が取り逃がした一人を切り捨てたので、計八人。


ちなみに後で聞いてみたのだが、森にいた三人は風魔法の一つ、空気を凝固させる魔法を使い、三人の周りの空気を固めて窒息させ気絶させたのだそうだ。リオノーラ、強ぇ~・・・怖ぇ~・・・


盗賊は、として登録されている者であれば、やむなく殺しても良いとされている。それは、生きたまま捕縛しても最後は、犯罪奴隷として過酷な鉱山や戦場に送られ、ほぼ間違いなく帰ってこれない事から、殺してしまっても同じだと一般的には言われている。まあ、暗黙の了解って訳だ・・・。


それに生かしておいては、次の被害者を必ず作ってしまうであろうから、殺害してもやむを得ず・・・が、世間の反応だ。それこそ、盗賊が言っていた弱肉強食の世界ではないだろうか。弱い者は強いものに喰われる・・・


なので勿論、普通の人達が殺すことは盗賊とはいえ当然犯罪となる。

それだけ、冒険者はある意味優遇されているのかもしれない。勿論、危険と隣り合わせであるが・・・。


その後、俺達は盗賊の所持品等を確認した後、盗賊が所有していた明らかに盗品と思われる類は、持って帰れそうな物は持ち帰り、デボネアの街の冒険者ギルドに遺品として渡す。盗品は、ほぼ相手を殺したり無理やり奪っているからだ。


そして金品は、倒した冒険者達が手にしてもいいことになっている。特にお金は誰の物か分からないからだ。

それに危険を冒して倒したのだから、報酬という意味でもある。ここら辺は、とてもドライな考え方だと俺も思っている。


盗賊達ははぐれなのか、盗品はあまり持っていなく金品も大して持ってなかった。奪った物はすぐに売り払ってしまったのかもしれない。いつまでも持っていては、色々とやっかいな事になることがあるからだ。


俺達は、多くは無い金品と返却する盗品を持ち、ようやく襲われていた馬車の方まで歩いて行った。すると横から、


「あ、ありがとうございました。助かりました」


と護衛が声を掛けてきた。

そして、馬車の中からは一人の少年と初老の執事の様な男が下りてきた。少年の歳は、俺より少し下ぐらいだろうか。


「ラ、ラインハルト様!、まだ外に出られては危のうございます!」


「ラインハルド様、危険でございます!。中にお戻りください!」


「何を言っているんですか?。彼らが助けてくれなければ、私達は死んでいたか誘拐をされていたでしょう。それならば、自ら彼らに礼をするのが当たり前です。それに盗賊は既に、彼らによって退治されたのでしょう?。なら危険なはずがありません」


護衛と執事は、慌てて彼の後に続いてきた。

しかし、ラインハルトと呼ばれた少年は気にもせず下りてきて、俺達の前に歩み寄ってきた。


「私は、その先の街に住んでいますシェラード辺境伯が三男、ラインハルト・フェン・シェラードと申します。私達を助けて頂き、感謝したします」



マジか・・・、辺境伯のご子息かよ・・・

俺は、ポカーーーーンとしてしまっていた。

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