第23話 嘘 それはドロボーの始まり

 ヤマシタに連れて来られたのは、カジュアルイタリアン。

 何よ、カジュアルイタリアンって。イタリアンはカジュアルなものじゃないの?

 でも、フレンチじゃなくて良かった。

 最近胃もたれしちゃうのよね。。

 フランス人って、胃もたれしないのかな。

「で、話ってなんすか」

 運ばれてきたアンティパストのハムをフォークでつつきながら、ヤマシタが顔を覗き込んできた。

 食べ物で遊ばない!

「お袋みたい」

 ヤマシタが嬉しそうに笑った。

 その笑顔に、不覚にもちょっとキュンと……。

「で、話」

「あぁ実は、私にも内示が出て……」

「マジっすか!?」

 ヤマシタの目がキラキラ輝いてる。

 そのキラキラに気圧されたまま、新しい部署の話をした。

 で、受けるかどうか悩んでる、と言おうとしたら。

「むちゃくちゃ面白そうじゃないですか! えー、何で先輩!? あ、いや、変な意味じゃなくて、俺やりたかったっす」

 そ、そうなの?

「だってゼロからって事でしょ!? うわぁ、先輩見込まれてるなぁ」

 え?

「悔しいなぁ。俺やりたかったなぁ」

 ちょっと、なんでアンタがしょんぼりしてんのよ。

「だって、これじゃいつまで経ってもおれ、先輩の先に行けない」

 なにそれ。そんな事思わなくても、随分前から私の先を行ってるよ、君は。

「その部署に、何人連れて行くんすか?」

 もう、内示を受ける前提で話を進めるヤマシタに、迷ってるなんて言い出せない。

 一緒になって、新しい部署のメンバー何かを話していると、どんどんその気になって来ちゃった。

「イエスマンばっかりはダメっすよ。あー俺も一緒に行きたい! 一緒に連れって下さいよ!」

 いやいや、君今の部署で昇進じゃないの……。

 でも、この前向きさ見習わないとな。

「ありがと、元気出た」

「え? 元気なかったんすか?」

 ちょっとね。

 しかし、この店美味しいなぁ。

 知らなかった、こんな店。

 行きつけの様に慣れた店ばかり選んでしまう、冒険心を失くしている自分に改めて気が付いた。

 ポンっとスマホからLINEの通知音が。

 ちょっとゴメンね。

 ヤマシタに断ってスマホを見ると、リュウだった。

「晩飯いかないか?」

 おっと。

 どうしよう。

 とっさに、出来心で、無意識に

「ごめん、もう友達と食べちゃってる!」

 って返信してた。

 少なくとも、ヤマシタは友達、じゃないよね。

 うそ

 ついちゃった。

 そそくさとスマホをバッグに戻したら

「え、そんだけで良いんすか?」

「うん」

「なんだ、彼氏さんからかと思った」

 ち、違うよ。

 もー、何で否定したのよ私!

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