第八話 決意

 最近できた友達の学校では、文化祭は夏休みが明けてからすぐ行われる。


 私は、友達に誘われて行くことになった。


 嬉しかったし、楽しみだった。


 友達は、私に見せたいものがあると言ってくれた。


 文化祭ならではの出し物だろう。


 一方で、私はまだ、兄には会えていない。だから、私は何度目か分からないよう

な、でも今回はと決意する。


 彼女たちに勇気をもらえたら、絶対に兄に会ってやろう、と。


 兄もきっと近くにいる。


 その友達の学校は、兄と同じ学校だったから。






 間中と、三田村と同じシフトの日。


 間中は来なかった。


 「店長、今日もあいつ休みなんすね」


 三田村が事務室で嫌みのように吐き捨てる。


 「ああ、家族の方から連絡が来て、まだ目覚めてないらしいよ」


 「てか、誰かが押した、みたいな情報も流れてるんでしょ?」


 俺は、心臓を急に締め付けられるように息苦しくなった。


 「警察の人来たけど、事故で片付いてるらしいから。あんまりもうほじくらないで

よ。事情聴取っての意外と長くて苦労したんだから。間中には、気の毒だけど」


 店長は、どこか暗い様子だった。まさか、あんな間中みたいなやつを心から心配

しているわけでもないだろうに。


 「ところで店長、俺、今度の土日、文化祭なんで、バイト入れねえっす」


 「はいはい。ちゃんと反映されてるよ。じゃあ、先降りるね」


 俺たちより早く休憩を取った店長が、笑いながら売り場へ戻った。


 「お前がやったんだろ?」


 「…えっ?」


 俺は、凍り付いたように固まった。固まってしまった。


 彼は、ニヤニヤしながら、俺に言う。


 「別に、俺が見たとか、そういう証拠はねえんだけどよお。このバイト先でやり

そうなの、お前くらいなもんだろ?」


 「…なんで?」


 彼は、大笑いした。


 「わっかんねえのかよ!? だからポンコツなんだよ。いいか? 俺みたいな強

い奴はそんなことしなくてもムカついたら黙らせられんだよあんなやつ。でも、お

前らみたいな雑魚は、階段から突き落としたり、そういう卑怯なことしかできねえ

んだよ。…なんで俺が疑われなきゃいけねえんだよ、あのクソ生徒会長が」


 後半部分は、何のことかわからなかったが、俺の胸中は恐怖と怒りで満ちてい

た。


 「お前、気持ちわりいもん。性犯罪者みてえな顔して。バイト中もあいつのこと

ジロジロ見て。あれで毎日満たしてんだろ、性欲を」


 「うるさい!」


 俺は、声を荒げた。


 「あっ? てめー。バイト終わったら殺してやろうか?」


 前回、胸倉を掴まれた時よりも数倍怖かった。まるで、どこかで得た怒りを俺に

八つ当たりするかのように。


 「ご、ごめん」


 言ってしまった。


 こんなやつには、絶対に言いたくない言葉を。






 「山木!」


 「謝れよ!」


 「そうだよ! かわいそうだよ!」


 「ご、ごめん」


 「ぎゃはははは!」


 「ホントに謝ったよ、こいつ!」






 俺のせいじゃないのに。全部、あいつらのせいなのに。


 そうだ。


 あいつらのせいだ。


 俺が弱くなったのは。


 「じゃあな、珍しく先に降りてやるよ」


 まずは、目の前のこいつからだ。


 確か、三田村は言っていた。今度の週末に文化祭があると。


 ついでに、間中もぶっ殺してやろう。あいつも確か三田村と同じ学校だ。


 そして、田舎に戻って、田舎のやつら全員、片っ端からぶっ殺してやる。


 親も。…妹だけは、悪い奴じゃなかったから生かしといてやるか。


 俺は、復讐を決意した。




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