第七話 何が何だか

 私は、少しは気が楽になった。

 

友達が出来て。


 家族のことで同級生からはずっとハブられた私だったけど、ようやくこの年になっ

て心から信頼できる友達というやつができた。


男友達と女友達。なれなれしい私の態度にも怒らずにむしろ優しくしてくれるのが

嬉しかった。


彼らのおかげで、先日の焦りのようなものが消えた。きっと彼らも、どこか孤独でそ

れを乗り越えてきた人たちだから、それに勇気をもらえたんだと思う。


きっと、大丈夫。


復讐なんて、そんなこと、兄は絶対にしない。


都会と田舎、離れ離れになった兄妹だけど、信じられる。ただ、多少空気を読みすぎ

るところがあって、溜め込んだものがいつか爆発するんじゃないかと心配で…。






 俺は、あと何回、悔しい思いをしたらいいのか分からなかった。


 バイトのシフトを間違えて入れてしまった日曜日。


 遅れを取ってしまった。


 「今日は、急いでるんだろ。早く上がっていいよ」


 店長が、慌てる俺を察して、早退させる。


 「ありがとうございます!」と言い放ち、そのまま急いで怪獣の元へと走った。


 マスクの格好で走って、しばらくして怪獣の姿が見えた。


 しかし、その黒い姿は一瞬にして、燃え盛る家屋の中へ入っていった。


 俺は、状況が飲み込めなかった。どうしてあいつが、あんな火災現場に。もしかし

て人がいるのか。


 そこまで思い至った直後に、俺は何かに脅迫されるように、胸を圧迫されて焦り

始めた。


 「怪獣のくせに…、怪獣のくせに!」


 俺は、急いで炎の及んでない裏道を探した。


見つけて、そこの塀をよじ登って、庭にたどり着く。


すると、そこには絶望的な光景が目に映っていた。


 怪獣が、女の子を担いでいた。


 




 翌週。


 バイトを終えた山木はいつも通り帰宅しようとした。外階段につながるドアを開

けて、やっぱりトイレに行きたいと思い再び事務室に引き返す。


 トイレで用を済ませながら、この前の火災現場を思い出す。


 「お前が連れてってくれ」


 怪獣が言い放った言葉に救われてしまった。


 「俺の方が優勢だったのに…」


 俺は、一人嘆く。


 俺の方が、普段からあいつをボコボコにしていたのに、逃げられて、負けかけ

て、しまいには先回りされて。


 プライドをめちゃくちゃにされた怒りは、静まり切らなかった。


 トイレから出て、今度こそ帰ろうと思い、ドアを開けた瞬間、声が出なくなっ

た。


 「お前…、それ…」


 俺は固まった。間中が、メモを見ていたからだ。


 あの人からもらったメモを、彼は見てしまっていたからだ。


 どうせ信じない。そう思い込んで自分を安心させてしまいたいのに、身体が全く

言うことを聞かなかった。


 「返せよ!!」


 という揉め合いから、ついに。


 間中を、階段から突き落とした。


  「違う…」


 俺の声は、まるで他人が発したように遠く聞こえた。


 「俺は違う、俺のせいじゃない。俺じゃない俺じゃない…、もとはと言えばあい

つが…、違う…、違う…、違うんだ! 違う。違う違う。違う違う違う違う…。ち

がぁぁぁぁう!!!」


 何が何だか分からなくて、その場から逃げ出してしまった。



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