第28話 幼馴染の公園

「やっと追いついた……」

「ええー、もうへばったの?」

「俺もう帰るとこだったんだから、当たり前だろ」

「あてっ」

頭にチョップ。



一人でランニングしてたら途中で流季が来て、競争だと言い出したのがさっき。

つい言葉につられて俺も走り出してしまったが、失敗だった。

疲れた体にいきなりの全力疾走は、流石に堪える。

そもそも、先に自分が走り出してから競争だと言うのは卑怯だと思う。

「ちょっと休んでから帰るか……」

ベンチのある公園に立ち寄った。

自販機のスポーツ飲料は高いから、ちゃんと家から持ってきている。

しかし、どうして自販機の飲み物ってあんなに魅力的なんだろうか。

うっかり買ってしまいそうになる。

持ってるのに。

「じゃあ私その辺走ってくる!」

走り出した流季に、ベンチから手を振り返す。

まだ来たばかりだからか、元気がいいな。

あ、そうか。

お菓子いっぱい食べてるから運動してないとすぐ太……。

流季が睨んできた。

なぜ分かる。

口笛を吹いて目を逸らした。


しばらくすると、流季が帰ってきた。

「ちょっとちょーだい」

俺が手に持っていたスポーツ飲料をひったくると、ゴクゴクと飲み出した。

「ぬる……」

「文句言うな。自分の飲めよ」

ベンチの隣に『よっこいしょっ』と詰めてきた流季は、ぬっるいスポーツ飲料をそれでも全部飲み干した。

「持ってきてない」

「持ってきなさい」

最初から俺のをあてにしてたようだ。

全部飲んどきゃ良かった。



「ね、覚えてる?昔この公園で遊んだの」

「まあ。ここ、家から割と近いもんな」

あの頃は良かった……とノスタルジーに浸るつもりもないが、思い出としてはそれなりに楽しかった。

ベンチがこんなに狭かったかなと思うのは、きっと俺たちが大きくなったからだ。

遊具もほんの少しくたびれたような気がしないでもない。

それでも今もこの公園の雰囲気がそんなに変わっていないと感じるのは、流季といるからだろうか。

もし。

大人になって、いつか一人でここに来た時。

ここも変わったなと思うだろうか。

「ねえ、シーソーやろう、シーソー」

……なんて。

今度こそ、別の何かに浸っていたのかもしれない。

「シーソーでいいのか?びくともしないかもしれないぞ」

「それって、私が重いって言ってる?」

あ、やべ。

なんか踏んじゃったかも。

「いやいや、俺の方が重いだろ」

そう。きっと重い。

あの頃はそんなに変わらなかったろうに、今は流季より俺の方が重い。

ベンチから立ち上がり、逃げるようにシーソーへ向かう。



高校生になってから乗るシーソーは、なんだか違和感がすごい。

上がったり、下がったりするだけ。

一体何が楽しいのかよく分からない。

昔はこれでも楽しかったんだろうか。

「あはははは!つまんない!」

「それ言っちゃおしまいだろ」

答え出たな。

やっぱり変わったのかもしれない。

俺も、流季も。


「昔からさー、これ何やってんだろ感がすごかったよね」


「……え?」


突然の発言に、戸惑い……いや、驚いた。


「う〜ん、高校生にもなったらこれの楽しみ方分かるかなって思ったけど、やっぱり分かんないね」

なんとこの幼馴染は、未だにシーソーの楽しみ方を模索していたらしい。

ああ。

すごいというか、なんというか。


「むぅは? シーソー楽しい?」


何か見透かされてるような気がして、バツが悪くなって、小声で答えた。


「楽しいよ。多分、今も昔も」


今までも、これからも。

何かが変わったり変わらなかったり、その繰り返しで日々は過ぎていくのだろう。

気づかないほどの小さな変化も、大きすぎて受け止められない変化だってあるのかもしれない。

それでも。

変わったとしても変わらなかったとしても。

願わくば、そのどちらでも、楽しい日々でありますように。

例えば、今みたいに。



ちなみに、流季が俺とシーソーで普通に遊べたという事は。

……うん、もうちょっと走って行こうか。


とりあえず、確かに変わっているものはここに一つあったらしい。

その良し悪しは別として。

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幼馴染の距離感がいい感じな件 ジュオミシキ @juomishiki

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